フルOSSクラウド構築ソリューションに見るIaaSの外観
1.1. クラウドの構築・運用について
本連載では、OSSを使ったプライベート・クラウドの構築・運用ノウハウを、実例を交えながら紹介します。
クラウドという言葉は、単なるバズワードから始まり、経営戦略を彩る飾り言葉をへて、今やITインフラを支える人たちの現場にまで具体化しつつあります。具体化にともない、クラウドを利用・構築するためのソフトウエアや技術情報も、数多く公開されるようになってきました。
しかし、「構築したクラウドをどのように運用すればいいのか」や「そもそも運用できるクラウドとはどういうものなのか」という「クラウド構築者・運用者」の立場にたった情報は、まだまだ不足していると感じています。
この連載は、「運用できるクラウド」を構築するために筆者らが試行錯誤しながら学んだ内容を、ふんだんに盛り込んでいます。ITインフラを支える方々が、自らの手でクラウドを構築し運用する際の手助けになれば幸いです。
1.1.1. クラウドの利用を始めるにあたり、考えなくてはならないこと
企業でクラウドを利用する際には、以下の点を入念に検討しておく必要があります。
- 提供したいアプリがクラウドにマッチするか
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クラウド・インフラの仕様に応じて、提供するアプリには縛りが出てきます。そもそも機能的にそのクラウド上では提供できないアプリは、どうしようもありません。また、セキュリティと性能の2つの非機能要件は、パブリック・クラウドにおいて特に問題になります。機密性の高いデータをパブリック・クラウドに預けられない場合もあるでしょうし、利用者からパブリック・クラウドまでの経路に遅延が大きく、性能要件がどうしても満たせない場合も考えられます。
- 費用対効果は十分か
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クラウド、特にパブリック・クラウドの特徴の1つとして「従量課金」があげられます。使用するコンピュータ資源に応じてクラウド事業者に支払う金額が決まるため、短期や小規模の利用であれば、調達や設置配線のリード・タイムはほぼゼロ、終わればきれいさっぱり片付けて、以降は無料です。このことは、パブリック・クラウドの最大の魅力の1つでしょう。加えて、コンピュータ資源の利用にあたって課税対象となる資産を保有する必要がないため、バランス・シートの観点からのメリットも期待できます。一方、プライベート・クラウドの場合は、初期投資はかかりますが、利用コストよりも運用を低く抑えることができれば、長期利用によって損益が逆転することも考えられます。
利用期間や利用規模を考慮したうえで、「どのようにクラウドを利用すれば、十分な費用対効果が得られるのか」という観点にたって検討する必要があります。
- 参考: コストの面からパブリック・クラウドとプライベート・クラウドを比較した記事と漫画
- クラウド事業者へのロックイン・リスクは許容可能か
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「1つのクラウドの利用を開始したあとで、コスト面や品質面の要因から、より良いクラウド事業者へと乗り換える」。このための仕組みは、まだ十分とは言えません。クラウド事業者ごとの差異を吸収してクラウドを標準化しようという動きは、日本国内では「グローバルクラウド基盤連携技術フォーラム」(GICTF)*1などを中心に議論が進んでおり、クラウド間のデータ移行サービスやAPIの標準化、クラウド・サービスの評価軸の整備などが今後進んでいくと考えられます。しかし、現時点では、特定のクラウドでサービスを開始してしまったあとに、別のクラウドにデータやアプリケーションを移行するコストは、バカになりません。クラウド事業者へのロックインは、リスクの1つとして理解しておく必要があるでしょう。
- [*1] http://www.gictf.jp/
1.1.2. OSSを使ったプライベート・クラウドの意義
まとめると、クラウドを利用し始める際には、以下の点を吟味しておく必要があります。
- 提供したいアプリがクラウドにマッチするか
- 費用対効果は十分か
- クラウド事業者へのロックイン・リスクは許容可能か
1点目は、アプリに適したプライベート・クラウドを設計・構築・運用することで、解決できます。残りの2点は、プロプライエタリ・ソフトウエアではなくオープンソース・ソフトウエアを用いる際のモチベーションと、非常に似通っています。
言い換えると、OSSをフル活用したプライベート・クラウドを構築・運用できれば、クラウドのメリットを最大限享受できます。
特に、ここ1~2年の間、EucalyptusやOpenStack、CloudStackといったOSSのプライベート・クラウド構築ソフトウエアが相次いで公開、更新されています。また、クラウド構築に活用できるOSSの評価結果をIPAが公開する*2など、「OSS」+「クラウド」という2つのキーワードにかかわる情報が出そろってきた感があります。
時はまさに、OSSクラウドの百花繚乱(りょうらん)時代です。OSSでのクラウド構築・運用を検討してみてはいかがでしょうか。