フルOSSクラウド構築ソリューションに見るIaaSの外観

2010年12月6日(月)
武田 健太郎

1.3. OSSクラウドの運用

今回の最後に、本連載で何度も主張する「運用できるクラウド」の定義と背景を説明します。さらに「OSSを使った場合の特有の課題」について、簡単に説明しておきます。

1.3.1. 運用できるクラウド

プライベート・クラウドを導入した場合、当然ながら、そのクラウドを自ら運用していかなくてはなりません。せっかくプライベート・クラウドを導入したとしても「アプリケーションのSLA(サービス・レベル契約)が守れない」、「クラウド自体の運用コストがかさむことで費用に見合った効果が得られない」といった状況に陥ってしまっては意味がありません。

プライベート・クラウドを運用する際の課題の1つに「いろいろなアプリケーションが1つのクラウド・インフラ上で同居して動作する」という点があります。SLAが異なるアプリケーションが共通のクラウド・インフラの上で動作しているというのは、なかなか頭の痛い状況です。また、アプリケーション層やハードウエア層に加えてクラウド・インフラ層という管理対象が新たに追加される点も課題でしょう。

このような課題がある中で、メリットを損なわないようなプライベート・クラウドの運用を実現するためには、以下の点を意識しておく必要があります。

  • クラウド上で動作するアプリケーションをなるべく明確にしておき、想定した設計にしておく
  • アプリケーションとクラウド・インフラの、運用上の責任分界点を明確にしておく
  • クラウド運用上の目標を立て、KPI(重要業績指標)を決めて運用を評価、改善していく

さらに、プライベート・クラウドを有効活用するための制度を整備することも、「運用できるクラウド」を実現するためには大切です。具体的には、クラウドの効率的な使い方を利用者に対して教育し、無尽蔵な利用を予防するために、"みなし課金"のような負のモチベーションを制度化しておくことなどが考えられます。

1.3.2. OSSを使う場合の課題

クラウドの構築において生じるOSS特有の課題には、「利用はあくまでも利用者の自己責任」という点があります。もちろん、この点は、クラウドに限らず、OSSであれば共通の課題です。

"銀の弾丸"はありませんが、OSSならではの解決策があります。例えば、コミュニティでのサポートがあります。Web上に掲載されているオープンな情報を活用できます。ソース・コード・レベルで問題解析をできる人材を育成するという対策もあります。もちろん、OSSの商用サポート・サービスも選択肢の1つとなります。

1.4. 連載をはじめるにあたり

次回からは、いよいよOSSによるクラウドの構築・運用の実態に踏み込みます。

第2回は「OSSクラウドの設計」と題し、「実際に運用することを想定したクラウドの設計は、どうあるべきか」を、体系立てて説明します。

第3回は「フルOSSクラウド構築レシピ」と題し、すぐに使えるクラウド構築のためのソフトウエアを紹介します。

連載最終回となる第4回は「おいしいフルOSSクラウドの食べ方」と題し、NTTデータ社内で実際に構築・運用しているクラウドを例に、設計・構築のポリシーや効率的な運用のポイント、教訓を紹介します。

株式会社NTTデータ 基盤システム事業本部

オープンソースソフトウェアを活用したITインフラ技術を専門とする。特にOS・クラウド・ストレージといった技術分野での経験が豊富。シリコンバレーエリアで技術の目利きとして活動したのち、近年はITインフラ技術の効果的な使い方をマーケットに広める活動を中心として実施している。

連載バックナンバー

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