スマートフォン選択のための市場考察

2011年1月12日(水)
永井 一美

スマートフォン市場の競争(1)

"業務"という観点で企業がスマートフォンを考えるときには、恒久性や保守性、開発生産性が重要となる。このため、この業界での競争状況について知っておく必要がある。なお、モバイル端末のカテゴリには、スマートフォンのほかにも携帯電話、タブレット端末、ノートPCなどがあるが、今回は"スマートフォン"をテーマとしているので、端末形態の考察は割愛する。

携帯電話での世界トップ・シェアは、フィンランドのNokiaであり、圧倒的なシェアを誇っている。しかし、日本市場からは2008年11月に撤退を表明した。この出来事は「ガラパゴス」と呼ばれる日本市場を象徴しているが、日本の携帯電話端末技術が最先端であることは世界が認めていることである。メーカーや機器の閉塞(へいそく)性があってもゲーム機では世界でシェアを握っているわけだから、日本は悲観する必要はない。日本の特殊性が世界標準と離れてしまうのは、技術ではなくグローバル・マインドの問題と考えるが、この話は本題から脱線するので、ここで止めておく。

日本の携帯電話産業は、通信キャリアが主体となってけん引してきた。ハードウエア・メーカーへの奨励金や、機器価格を通信価格に上乗せするやり方などによって、ユーザーの初期導入費の低価格化や長期の囲い込みを実現した。その後、通信キャリア、ハードウエア・メーカー、ユーザーで構成する日本型の携帯エコシステムは「奨励金は端末と通信レイヤーが不明確」として問題となり、総務省の指導があってモデルが変わっていった。こうした中、2008年にiPhoneが登場する。

iPhoneは、それまでの携帯エコシステムとは異なっていた。ハードウエアとOSは米Apple、通信はソフトバンクモバイルで、従来のように通信キャリアが携帯電話を設計してハードウエア・メーカーに作らせる構図ではなかった。さらに、通信キャリアが携帯電話コンテンツの認証や課金を担って主体としてのメリットを享受してきたのとは異なり、米Appleのマーケット・プレイスであるApp Storeを経由したアプリケーションの売り上げは、ソフトバンクモバイルには一切渡らない。

結果的かもしれないが、Apple端末の魅力と米Appleの考えにより、iPhoneモデルは、それまでの通信キャリア主導を、IT企業主導に変えたのである。

図2: 2010年第二四半期 携帯電話端末の出荷台数シェア(米Gartner発表数字を図とした)

図2: 2010年第二四半期 携帯電話端末の出荷台数シェア(米Gartner発表数字を図とした)

図3: 2010年第二四半期 スマートフォン・プラットフォーム(OS)世界出荷台数シェア(米Gartner発表数字を図とした)

図3: 2010年第二四半期 スマートフォン・プラットフォーム(OS)世界出荷台数シェア(米Gartner発表数字を図とした)

スマートフォン市場の競争(2)

米Googleは、モバイル・オープン戦略としてオープンソースOSであるAndroidを発表し、「オープン・ハンドセット・アライアンス(OHA)」と呼ぶコンソーシアムを設立した。日本では、2009年にNTTドコモから、最初のAndroid搭載端末であるHT-03Aが発売された。ハードウエアは台湾HTC製である。

前ページではApple製品のUIについて、その魅力を強調したが、実は、iPhoneやiPadの本来の真価は、アプリケーションやコンテンツが動作するモバイル・コンピュータとして、App StoreやiTunesというマーケット・プレイスがあり、それを利用する世界中の開発者、サード・パーティが後ろ盾として控えていることである。こうした、マーケットも含めた米Appleのモデルは垂直統合型であり、iPhoneの販売によって利益を生んでいく。

一方の米Googleは、Androidの販売で利益を得るわけではない。米Googleの目的は、モバイルだけでなくインターネットがつながるすべての機器を押さえることであり、その先で米Googleのサービスを提供することである。

Androidのようなモデルは水平分業型である。通信キャリア主導は崩れ、端末メーカーが独自で端末を開発し、開発コストを負担する方向となっていくだろう。端末の開発コスト負担こそあるが、通信キャリアの呪縛(じゅばく)から逃れて自ら戦略を立てられるモデルである。しかし、1機種数億円と言われる端末開発コストは抑えたいため、無償のOS(Android)は魅力的である。通信キャリアとしても、iPhone対抗のためにAndroidを利用したい。この様子は、米Apple以上に、従来の通信キャリア主導を大きく変えるものとなっていくだろう。

米GoogleもAndroid Marketというマーケット・プレイスを展開しているが、米Google自身はアプリケーションの売り上げに対して手数料(実費)しか取っていない。また、ほかのマーケットの存在も許容している。中国ではチャイナ・モバイルがAndroidを大幅に改変した「OMS」と呼ぶOSを利用して「OPhone」を展開しており、このOSはGmail、Google Map、Android Marketなどの標準サービスを削除している。米Googleとしては、とにかく広めてその先を考えていることは確かだろう。

次ページでは、引き続いて、スマートフォンの競争状況について解説する。

アクシスソフト株式会社 代表取締役社長
SI会社においてOS開発、アプリケーション開発、品質保証、SI事業の管理者を経て、ソフトウェア製品の可能性追求のため、当時のアクシスソフトウェアに入社、以降、一貫して製品事業に携わる。2006年より現職。イノベータであり続けたいことが信条、国産に拘りを持ち、MIJS(Made In Japan Software consortium)にも参加、理事として国産ソフト発展に尽力している。

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