スマートフォン選択のための市場考察

2011年1月12日(水)
永井 一美

スマートフォン市場の競争(3)

では、米Microsoftはどうなのか。同社は、モバイル用OSとしてWindows CEやWindows Mobileを早くから投入しており、スマートフォンではないが、入出庫、検品、検査、受発注などの特定業務に利用されるHT(ハンディ・ターミナル)は、多くのWindows CE搭載端末があり、長年の実績がある。スマートフォンでも、初期からWindows Mobile端末が発売されている(例えば、W-ZERO3は、Windows Mobile搭載機)。

米Microsoftは、2010年10月に、Windows Mobileの"UI"を刷新した「Windows Phone 7」搭載端末を米国で発表した(日本未発売)。iPhoneやAndroid、BlackBerryなどに奪われたシェアを奪還するためである。この端末はMicrosoft Office製品の機能を備えるほか、ゲーム機「Xbox 360」のゲームを動作させることもできる。

携帯電話トップ・シェアのノキアは、OSであるSymbianをオープンソース化し、コンソーシアムであるSymbian Foundationを設立している。

米Apple、米Google、米Microsoft、フィンランドのNokia、各社の戦略は、それぞれ異なっている。米Appleは独自端末での販売と、それに絡む利益。米Googleは、ネットにつながる端末の拡大によって、その先を見ている。米Microsoftは、デスクトップ同様に、モバイルでもOSとオフィス製品のシェア維持を考えている。フィンランドのNokiaは、携帯電話のシェアをモバイル全体で維持しようとしている。このように考えられる。

各社は、アプリケーション提供について、それぞれマーケット・プレイスを開設している。米AppleはApp Store、米GoogleはAndroid Market、米MicrosoftはWindows Market Place、フィンランドのNokiaはOvi Storeである。

アプリケーション開発者やコンテンツ開発者、サード・パーティから見れば、自ら開発したソフトが世界中でダウンロードされ、利用される可能性がある。このため、非常に魅力的なマーケットと言える。しかし、Windowsアプリケーションと比べると、ソフトの単価がかなり小さい。日本円にして数百円の値付けが当たり前となっており、しかもApp Storeの場合は米Appleに30%徴収されてしまう。

マーケット・プレイスのビジネスは今回のテーマから外れるので、別の機会に解説する。しかし、アプリケーションを端末に配信する仕組みは"業務"利用にとって深いかかわりがあるので、各マーケット・プレイスについて理解しておいて欲しい。

各スマートフォン・メーカーのモデル

図4: 各スマートフォン・メーカーのモデル

スマートフォン市場の競争(4)

各社の戦略の中では、やはり米Googleの「モバイル・オープン戦略」が周到だ。

2007年2月、ルクセンブルクのSkype Technologiesは、米連邦通信委員会(FCC)に「カーターフォン裁定のモバイル端末への適用」(カーターフォン裁定は、1968年の、固定電話網に接続される端末の自由化裁定)を申請した。当時、Skypeを介した国際電話通話量は最大だったが、携帯電話においては通信キャリアがSkypeソフトウエアの搭載を拒絶していた。

一方、2009年夏には、米国においてアナログ放送がすべてデジタル化され、700MHz帯が競売にかけられることになっていた。ここに米Googleが参加を表明し、4つの条件をFCCに提起した。FCCにとっても、巨額の資金を持つ米Googleの参加は、落札価格の高騰につながり、政府の収入が増えるとのもくろみもあった。こうして、2つの条件を飲んで、7月に採択された。

FCCが飲んだ2つの条件が、(1)「消費者は、任意のソフトウエア、アプリケーション、コンテンツを、ダウンロードあるいは利用することが可能」、(2)「消費者は、任意の通信デバイスを用いて、自身が望む無線通信手段でアクセスすることが可能」である。通信事業者がこの規制を受ければ、垂直統合型ビジネスはできない。好きな端末を購入し、好きな通信キャリアを選べることになるからだ。これはパソコンと同様である。

米Googleは最低落札価格で入札したが、結局は米AT&Tや米Verizon Communicationsなどの既存キャリアが落札した。しかし、米Googleの本来の目的はオープン化であり、条件の採択において目的を達成したとも言える。最初から落札する気はなかったのではないだろうか。こうして、米GoogleはAndroidを発表することとなったのである。

スマートフォンには、ほかにも世界のOSシェアでSymbianに続いて2位に付けているBlackBerry(カナダResearch In Motion)やPalm OSがある。今回、BlackBerryについて語っていない理由は、日本の業務にスマートフォンを適用する際のUIを考察するという目的を持っていることと、筆者の経験や顧客の声からBlackBerry選択の話を聞かないからである。もちろん、異論もあるだろう。

今回は、スマートフォン登場の背景と、各メーカー間での競争状況について解説した。これを踏まえ、次回は「スマートフォン選択とUI」と題し、"業務"利用を前提に、その市場性や開発の観点を考察する。なお、"UI"については、第3回で紹介するユーザー事例も含めて解説したい。

【参考文献】
  • 「モバイル産業論 その発展と競争政策」(東京大学出版会)
  • 「情報通信アウトルック2011 新世代モバイルデバイスの台頭」(NTT出版)
  • 「モバイル・コンピューティング」(PHP研究所)
アクシスソフト株式会社 代表取締役社長
SI会社においてOS開発、アプリケーション開発、品質保証、SI事業の管理者を経て、ソフトウェア製品の可能性追求のため、当時のアクシスソフトウェアに入社、以降、一貫して製品事業に携わる。2006年より現職。イノベータであり続けたいことが信条、国産に拘りを持ち、MIJS(Made In Japan Software consortium)にも参加、理事として国産ソフト発展に尽力している。

連載バックナンバー

Think ITメルマガ会員登録受付中

Think ITでは、技術情報が詰まったメールマガジン「Think IT Weekly」の配信サービスを提供しています。メルマガ会員登録を済ませれば、メルマガだけでなく、さまざまな限定特典を入手できるようになります。

Think ITメルマガ会員のサービス内容を見る

他にもこの記事が読まれています