エンタープライズ・モバイル
モバイルを取り巻く環境
全5回連載の最後である今回は、ビジネスにおけるモバイルの動向と、それに画面/帳票がどうかかわってくるのかについて解説します。
モバイル環境は、OS(プラットフォーム)、端末、回線の3つに区分けして考えることができます。
回線については、「どこでもつながり、早く、安い」ことがユーザーの絶対的な要求です。高速に通信できるサービスとしては、 2009年に開始しTVCMなどでも知名度を高めたUQ WiMAX、NTTドコモのFOMAハイスピード、イー・モバイルなどがあります。 また、これらの回線をMVNO(仮想移動体通信事業者)として利用する 業者もあります。NTT再編も話題に上る中、 今後も回線サービスの競争は激しくなるでしょう。ユーザーにとっては望ましいことではあります。
後からでも選択可能といえる通信回線と異なり、ビジネス利用にあたって事前に検討を要するのは、OSと端末です。
2010年3月、アメリカでiPadが発売され、話題になっています。9.7インチのタッチ・スクリーン画面を持ち、iPhoneやiPod Touch同様のUIを持つものですが、 ノートPCでもあり、タブレットPCでもあり、電子ブック・リーダーでもあり、ビジネス分野では新たな利用シーン を創造することになるでしょう。 実は、先日実際に触ってみました。ドキュメントや電子ブックを利用してみたところ、ほかのノートPCやネットブックとは価 値の差があると思いました。
米Appleは、端末とOSをともに提供している、今ではほかにない企業です。だからこそ、UIのあり方を追求し、そうしたUIを提供できていると思います。 ソフトウエアだけでハードを救うことはできないのです。前回ユーザビリティについて解説した、「ユーザー工学」における「認知性」「操作性」 「快適性」を実現しています。「分かりやすく、使っていて気持ちが良い」画面UIです。
モバイル端末の種類と特徴(1)
■モバイルOS
モバイルのOSは、何が主流になるのでしょうか。
スマートフォン市場においては、iPhoneのシェアが伸びています。しかし、iPhoneは端末とセットになっており、きょう体を選べばOSも必然的にApple製となります。 このため、ビジネスにおいて選択するかどうかは、「利用シーンがiPhoneやiPadで可能かどうか」につきるでしょう。
Windows Mobileの場合、Windowsを搭載したデスクトップPCの歴史が長いことから、Windows Mobile向けアプリケーションの開発方法を知っている技術者が多くいます。 ビジネスでの利用において開発を伴う場合、重要な選択肢になりますね。
Androidは、モバイルを中心に今後は家電などにもネットワークを張る米Googleの戦略の一環ですが、汎用的な技術であるLinuxをベースに作られており、 Javaで開発したアプリケーションも仮想的に動作させることができます。
世界的には、Symbian OSが広く使われています。現在ではオープンソースとして公開されています。
■モバイル端末
端末/きょう体は、携帯電話、スマートフォン(iPhone含む)、ノートPC、UMPC(ウルトラ・モバイルPC)、ネットブック、HT(ハンディ・ターミナル)と、いろいろあります。
ビジネス利用においてモバイルに求められる点は、以下のようなものでしょう。
・携帯性
軽い、用途にあった適切な大きさ
・操作性
使いやすいハードウエアと画面UI、データ通信での高レスポンス
・機能
音声通話、メール、インターネットなど
・可用性
通信エリアの広さ、通信できない場合のローカル動作(必要に応じて)
・セキュリティ
紛失時の情報漏えい防止
・低コスト
導入コスト、ランニング・コスト
また、用途によってはHT(ハンディターミナル)のように、堅牢(けんろう)性や防水性、バーコード・リーダーやほかのデバイスとの連携機能も求められます。
では、それぞれの端末について、ビジネス利用の側面からUIのあり方を解説します。
・携帯電話とスマートフォン
日本の携帯はガラパゴス(独自の進化を遂げた様子)と揶揄(やゆ)されますが、進化が止まっているのではありません。 販売が日本市場だけでクローズしていることが問題であり、世界で一番進化しているのが日本の携帯電話です。テレビ、カメラ、音楽プレーヤでもあるのですから、 コンパクトな家電です。データ通信機器としてキャリアの法人サービスも充実していますから、ビジネス利用も多く見られます。
しかし、これまでの携帯電話のUIは、デスクトップPCのWindows UIと比べると、はるかに劣ります。デスクトップPCに慣れ親しんだ ネット・ユーザーがモバイル端末にiPhoneを選ぶのは、まさにこれが理由です。
ウィルコムのW-ZERO3が発売された当時は、スマートフォン市場が一気に拡大するものと思われましたが、キャズムを越えるまでの伸びは今もしていません。 しかし、iPhoneの好調さやNTTドコモのXperia発売時の人気をみると、スマートフォンの画面やタッチ・インタフェース、アプリケーションをダウンロードして 利用する環境などのメリットが一般に理解されたのではと思います。
しかし、携帯電話の中からもスマートフォン化された機種が出てきており、キャリア固定という面を除けば、差がなくなってきています。
次ページでは、端末について、引き続き解説します。