事例から考えるスマートフォンでの業務開発とUI
スマートフォン開発とUI(4)
情報システム専門誌『日経コンピュータ』(日経BP)の2010年12月8日号に、ユナイテッドアローズが開発した、iPhoneによる「在庫検索用アプリケーション」が紹介されている(関連URL)。検索後の画面は、半分が表計算ソフトのようなリスト形式。iPhone選択理由として、店舗内で利用することから「携帯性」と「デザイン」を重視し、今後はバーコード読み取りを考えている、とのことだった。
今後のAndroid端末は、ユナイテッドアローズの事例のような業務ニーズを吸収した、HT(ハンディ・ターミナル)やGOT(グラフィック・オーダー・ターミナル)のようなものが現れるだろう。このことが、水平分業型であるAndroid市場が、米Appleの市場とは異なる点だ。
なお、「名刺バンク」のAndroid版を開発するにあたっては、カメラ機能が端末ごとに異なる点が問題になった。名刺バンクには、名刺をスマートフォンのカメラで撮影し、画像をサーバーのOCRエンジンによって電子化する機能がある。端末に応じてカメラのフォーカス制御方法にばらつきがあり、連携がうまくいかずに技術者が苦労していた。
iPhone用の名刺バンクとAndroid用の名刺バンクの開発費用を比べると、Android用の方が費用がかかった(技術的な実績を積むために自社内ですべて開発したことも要因の1つ)が、個々のAndroid端末でiPhoneに劣らないUIを実現するためには、まだまだ改善を要するのが実情だ。
Android OSは、黎明(れいめい)期と言ってもよく、開発技術がまだ成熟していない。この状況に加えて、機種依存の問題があるので、開発は手探りとなるケースが多くなる。本来は、OSとハードウエアが標準的なインタフェースや作法をきちんと展開すべきだが、この一方で、オープンOSであるためにすべてをソース・レベルで追うことが可能という利点もある。
機種依存の問題は、可用性や信頼性にもつながってくる。例えば、筆者はiPhoneでいろいろなアプリケーションを利用しているが、これらは使用中に突然動作を停止することがある。業務利用において、こうした品質は許容することはできない。動作を保証する端末に関しては、安定して動作させるようにしたい。
モバイル・リッチ・クライアント製品であるアクシスソフトの「Biz/Browser Mobile」は、端末ごとの個別検証を行っており、現在の保障機種は21機種になる。各端末の外部デバイス制御については、個別対応を伴うことも多い。本製品ではAndroid対応をすでに発表しているが、開発者や企業のために、機種依存やOS依存を吸収したいと考えている。
図3: タブレット型端末での電子ファイル閲覧、電子書籍 - 左: iPad(米Apple) 右: Kindle(米Amazon)(両端末のサイズは正確ではない) |
スマートフォンを用いた電子ファイルの閲覧
ここまでは、業務アプリケーション(プログラム)を前提に、スマートフォンの特性を解説してきた。一方で、市場を見渡すと、EPUB(Electronic PUBlication)などの電子書籍の話題が盛り上がっている。電子書籍の技術である「紙をモバイルで閲覧する」ニーズは、業務においても存在する。タブレット型の端末は、こうした用途に適しているだろう。
第1回で説明した市場競争を振り返ってみよう。実は、スマートフォンやタブレット端末の競争プレーヤとして、もう1社存在するのではないだろうか。それは、米Amazon.comだ。
米Amazon.comは、1994年の設立時にインターネットを通じた書籍販売で事業をスタートし、現在では家電、食品、衣類、宝石などあらゆる商品を手掛ける総合オンライン小売業者に成長した。2002年には、クラウド・コンピューティングの先駆とも言える「Amazon Web Services」(AWS)も開始、ITインフラ企業の顔も持つようになった。
そのAmazon.comが次に打ち出したサービスが、2007年の「Kindle」。電子ブック・リーダーだが、無線インターネットを用いたWebアクセスも可能で、音声読み上げ機能などもある。一種のモバイル・コンピュータと言える。Amazon.comは、Kindleを介した電子書籍の販売のためにMVNO(Mobile Virtual Network Operator)にも参入し携帯電話網を用意(Kindleユーザーには通信料金を請求していない)した。もともと販売業者である米AmazonがどこまでIT市場に手を伸ばすのか、興味があるところだ。
電子ファイルを閲覧する事例で多いのは、「カタログ」だろう。分厚い紙のカタログをあらかじめ電子化しておき、店舗内でiPadなどのタブレット型端末で検索し、その場で顧客に見せる。電子データであれば、その商品の属性(色など)だけを瞬時に切り替えることもできる。
また、社内のペーパーレス事例にも適する。会議資料を紙で配らずに、タブレット型端末で表示するケースなどである。こうした利用形態を想定し、簡易に電子ファイルを配信できるようにするサービスも登場している。インフォテリアの「Handbook」(リリースURL)である。コンテンツとして、画像、動画、PDF、Excel、PowerPointなどをプログラムレスで簡単に配信できる仕組みを持っている。
今回で最終回だが、全3回の連載を通し、読者の参考になれば大変うれしい。今回は、セキュリティや認証などの課題には触れておらず、また、開発者視点での技術詳細ではなく、スマートフォンの市場競争や米Apple、Androidでの垂直統合/水平分業モデルの考察にかなりの量を費やした。お付き合いいただいたことに感謝したい。