仮想化環境の具体的な設計方法を知る

2011年2月8日(火)
宮原 徹(みやはら とおる)

課題と改善策としてまとめる

要件定義の方法はさまざまだが、仮想化導入の場合には、現状の課題と仮想化による改善策として全体的な方針をまとめると分かりやすい。

例として挙げたスライドは、Webサービスを提供しているユーザーが従来の物理サーバーから仮想化環境へ移行することを想定して作成した提案資料からの抜粋である。実現したいことの優先順位でまとめてあるので、順を追って見てみよう。

図1: 課題とご提案1

図1: 課題とご提案1

図2: 課題とご提案2

図2: 課題とご提案2
1)リソース利用率の向上
2)新規サーバー用意の迅速化
サービス需要の起伏によるリソース利用率にばらつきが発生していたが、仮想化統合することで効率良くリソースを集約することを想定している。
また、サービスを次々にリリースしなければならないビジネスニーズに即して、物理サーバーの場合だと1ヶ月から2ヶ月準備にかかるところを仮想マシンにすることで大幅に短縮する。
3)ラック利用率の向上と電力消費の削減
仮想化統合を行うことで、相当数の物理サーバーを減らすことができ、従来のラック設置数から大きく削減できると試算している。また、仮想化環境で利用するサーバー自身が従来のサーバーよりも低消費電力化しているため、台数の削減分以上に消費電力を抑えることができる。どちらもランニングコストを大幅に下げる要因となると共に、限られた電力供給量の中でシステム収容力を高めることになる。
4) 拡張性の確保
この提案では、ブレードサーバーを使用して仮想化環境を構築することを想定している。ラックマウント型での構成に比べると、ブレードサーバーの方がCPUやメモリなどのリソースが不足した時のサーバー増設が容易である。また、不足しがちなストレージの増設も、できるだけ無停止で行えることが望ましい。
物理サーバーの保守にあまり手間をかけたくない、かけられない場合には、仮想マシンだけではなくネットワークやストレージの仮想化技術も積極的にシステムに取り入れていきたい。
5) 管理コストの削減
この仮想化導入提案におけるゴール、あるいは効果測定すべき点になるが、従来のサイロ型に増設を重ねてきたサーバーシステムをいったん棚卸しして、インフラの標準化を行い2重、3重にかかっていた管理の手間暇を削減する。また、ライブマイグレーションやフェールオーバーといった仮想化環境ならではの機能を活用して、日々発生する障害対応を可能な限り自動化していくことで、全体的な管理コスト、特に運用管理者の作業負荷を軽減し、より積極的なシステム投資へ時間を割り当てていくことを狙っている。

今回の例では、直接的なコスト削減を狙うというよりも、まずは無駄な物理サーバーを仮想化統合でまとめることで、結果としてコスト削減ができるであろうということ、またビジネスのスピードを実現するには仮想マシンを利用しなければ駄目だ、という点が要件の洗い出しの際に出てきているため、このような提案となった。

実際の要件定義としては、ここから具体的にシステム全体としての収容可能な仮想マシン数や要求性能、想定されるシステム増加率に合わせた拡張性などを検討、定義していく必要があるだろう。

著者
宮原 徹(みやはら とおる)
日本仮想化技術株式会社 代表取締役社長兼CEO

日本オラクルでLinux版Oracleのマーケティングに従事後、2001年に(株)びぎねっとを設立し、Linuxをはじめとするオープンソースの普及活動を積極的に行い、IPA「2008年度 OSS貢献者賞」を受賞。2006年に日本仮想化技術(株)を設立し、仮想化技術に関する情報発信とコンサルティングを行う。現在は主にエンタープライズ分野におけるプライベートクラウド構築や自動化、CI/CDなどの活用について調査・研究を行っている。

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