バックアップ運用の見直し
バックアップの課題と意識
バックアップの目的と、バックアップ運用を支える技術やアーキテクチャーの振り返りをしてきましたが、ここからは現状の運用の課題について追求してみようと思います。
震災以前の日本は、経済不況の影響で、ITに関わる投資抑制の方向へ舵を切り、ITの、特に運用に対する意識はコストを重視したものになりました。特に、個々で取り上げているバックアップは、そもそもの投資の割合としては決して高くなく、さらにコストの抑制が強まれば大きな技術的な変化を求めにくくなります。
利用者側の意識は、これもよくある調査会社のアンケート結果を援用すると「運用コストの削減・見直し」、「全社的なバックアップの統合計画・実施」、「バックアップ時間の短縮」といったキーワードで代表されるような取り組みに集中していました。コストについては、常に意識する事が必要ですので、コストパフォーマンスの良い手法、技術の導入は今後も必須条件になります。運用の手間、人的リソースの割り当ての見直し、バックアップメディアの消費量の削減といったところに注目が集まりそうです。
調査の視点から、その時々の経済の動向を背景に、意識を把握する事を目的に調査は行われますが、当然ながら震災以前は、コストを意識した回答が多く、有事の復旧に関わる課題を意識された回答は多くはありません。震災後の意識は、有事前の備えと有事後の復旧に向けた備えに意識が高まるのではないでしょうか。
図2:バックアップ技術とリカバリ要件の評価例 |
何が問題になるか?
仮に、バックアップが確実に取得できるのであれば、それに関わるコストを見直していく事になりますが、この震災を機に考えなければならないのは、有事の際により迅速に復旧できるかではなかろうかと思います。
2009年の連載でも提言をしましたが、今回の連載でも、今一度言いたいのは、危機管理における本質はバックアップを実施するにとどまるのではなく、リカバリ(復旧)ができて初めてその意義を評価されるという事です。
ITを中心に考えるBCPでは、リカバリの評価指標として「RPO (復旧時点目標)」と「RTO(復旧時間目標)」を取り上げます。これらをあらかじめ定義しておく事によって、その部門、企業における業務復旧に関わる要件が定まります。RPOは「いつの時点のシステム、データが復旧できればいいのか」、RTOは「いつまでにシステム、データが復旧できればいいのか」を示し、いずれも時間軸で評価されるものです。
「新しい事」(RPO)と「短い事」(RTO)を目標に設定する以上、バックアップそのものは確実にできている事が前提です。RPOやRTOは、経営的な判断(投資効果を考慮)とのすり合わせで決める事になりますが、これから採用しているバックアップ/リカバリ手法にも左右されます。図2には、主だったバックアップ/リカバリ手法に対し、リカバリ要件を軸に評価した例を示します。
テープ・バックアップとディスク・バックアップは、以前からあるバックアップのアーキテクチャーを踏襲する技術です。システムの2重化は、リスク管理の側面で考慮される技術であり、有事前にまさに止めてはならない分野のシステムに適用され、ITやその上で稼働する業務の停止を防ぐ事が主目的で用いられるものです。
現在、多くの場面で用いられているテープへのバックアップやディスクへのバックアップについて、この後、見落としている点について探ってみたいと思います。