プロセスの要(かなめ) - フィードバック

2011年11月8日(火)
野島 勇土屋 正人

V字モデルのフィードバックを検証する

V字モデルでは、要求定義によって定義された要求を全て満たしたならば、システム開発が適切に実施されたと考えます。しかし、定義された要求が不適切であったならばどうでしょう?もし定義された要求が不適切であったならば、基本設計から受け入れテストまでの前提が覆され、開発自体が不適切となります。そのため、要求定義が適切であることを検証する必要性が生まれます。

要求定義が適切であることを検証するために、レビューやインスペクションを実施することがあります。レビューやインスペクションを実施し、要求定義にフィードバックします。フィードバックによって、要求定義の進め方、要求定義の成果物の内容と質を見直します。しかし、レビューやインスペクションを実施したとしても、受け入れテスト後にシステムの使用者の要求を満たしきれないことが判明することはあり得ます。

また、受け入れテストにより基本設計からシステムテストまでの活動にフィードバックがなされたとき、そのフィードバックによる変更を反映するだけの時間がありません。このため、フィードバックにより得られるメリットが十分に活かされません。テストは成績を付けるためだけではなく、テストの結果に応じて改善を促すためにも使えます。

以上をまとめると、V字モデルのフィードバック設計には、次に示す2つの問題点があります。

  • システムの使用者によるフィードバックの不足
  • フィードバックの結果を開発に反映させる工程の不足

これらの問題により、使用者の満足を得るシステムの開発はイチかバチかのギャンブルになりがちです。過去に類似したプロジェクトを何度も手掛けている場合、使用者の要求が明確に定義できる場合ならばギャンブル性は低くなりV字モデルでも機能しますが、経験がない場合や使用者の要求が捉えきれない場合の成功はイチかバチかになってきます。

散髪に行ったときや、服を購入するときを思い出してみてください。散髪では「これでいいですか?」と顧客に確認を求めてきますし、服を買うにしても試着して確認します。満足を得るために、日常ではフィードバックが行われています。

スクラムにおけるフィードバック

スクラムはV字モデルにおけるフィードバックの問題を解消します。図5はスクラムの大枠の流れを示した図です。

図5:スクラム(クリックで拡大)

第3回では写真撮影のゲームを例えとしてスクラムの流れを説明しました。図5におけるプロダクトバックログは顧客から提示された写真に該当します。つまり、顧客から提示された要求です。スプリントゴールは1ヶ月で撮影することを決めた写真に該当します。スクラムでは、1ヶ月でV字モデルにおける要求定義から受け入れテストまでを行い、動くシステムをリリース可能な状態にします。1ヶ月間の開発期間をスプリントと呼び、顧客の要求を満たしきるまでスプリントを繰り返します。

スクラムでは、スプリント毎にシステムを成長させ、スプリントが終了する毎に動くシステムが完成します。システムの使用者は完成したシステムを使うことが可能であり、使用者からのフィードバックを得られます。また、フィードバックによって得られた変更点はプロダクトバックログに反映され、次回以降のスプリントで解決する要求となります。スプリントを繰り返すことで、フィードバック結果の反映を可能とします。

スクラムではV字モデルにおけるフィードバックの問題は解消され、イチかバチかのギャンブルを避けることができます。もちろん、スクラムを採用することで発生するいくつかの問題を解消する必要性が新たに生まれます。プロジェクトの目的と個性に応じてプロセスを選択することが大切です。

株式会社SRA

(株)SRA コンサルティンググループ所属。米国スリーインワン・コンセプツ社の提唱するストレスマネジメント手法を実践する同社認定のコンサルタント・ファシリテータ。人間の心に興味を持ち、脳科学、心理学、仏教などを学ぶ日々。個人と組織の力を引き出すために、ファシリテーションを社内外に展開中。

株式会社SRA

産業開発統括本部 製造・組込システム部 コンサルティンググループ オブジェクトモデリングスペシャリスト
1956年生まれ。コンピュータメーカを経て1982年にSRAに入社。
最初の10年は、プラント制御やデバイスドライバ等のリアルタイムシステム開発に従事。次の10年は、Webアプリケーション等のビジネスアプリケーション開発に従事。この間に習得した様々な分析設計手法を活かして、次の10年は、開発プロセスのコンサルテーションを担当中。趣味はクラシック音楽とギター、本格ミステリ、仏教(宗教としてではなく哲学・心理学として面白い)。

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