プロセスを変える - ビジョン
はじめに
前回までのおさらいです。本連載では、プロセスはチーム作りのための道具であるという位置付けで話を進めています。
プロセスは、ゴール、マイルストン、ガイドライン、ルール、ロールから構成されます。ゴールは全要件が満たされている状態であり、辿る経路(マイルストン)は様々です。しかし、辿る経路にはパターンがあります。そして、パターンは一連の流れがサイクルとなって循環するようになっています。
このサイクルはフィードバックループを形成しており、フィードバックを活用することで活動を洗練することが出来ます。フィードバックを活用するには、活動の結果と過程を理解することが有益であり、そのために「見える化」を用います。
今回は、見える化によって現状を理解した後に、活動を見直していく手続きについて説明します。活動を見直したら、後は活動に戻るだけです。これで、1つのサイクルが完成することになります。
未来の可能性を計算する
見える化により現状(過程と結果)を理解し、「こうしたら、こうなった」という理論を構築しました。次は、構築した理論から未来の可能性を描きます。
例えば、経過した時間が160[h](20[日]×8[h])、完了した要求の量が30[pts]、未完了の要求の量が120[pts]だとすると、速度は完了した要求の量を経過した時間で割った30/160[pts/h]になります。要求の量が0[pts]になるには、未完了の要求の量120[pts]を速度で割った640[h]が必要と見積もることが出来ます。
以上は単純な予測に過ぎず、活動の取り組み方を変更すれば、速度や燃費を向上できる可能性があります。そこで、速度や燃費に関して現状のボトルネックになっていると思われることについて「もしこうしたら、どうなる?」といったことを考えます。未来を想像した場合、様々な想定が考えられます。チームのメンバで意見が一致するとは限りません。むしろ、未来の予測は一致しないことが多いでしょう。また、容易に意見が一致する場合には要注意です。未来は不確かなものであるにも関わらず、1つの可能性しか想像できないとしたら、強い思い込みを持っているかもしれません。未来の可能性は複数あるものです。(図1)
図1:未来の可能性は複数ある |
ギリギリの難易度で集中力を高める
未来を正確に予測することは出来ません。もしかしたら出来る人はいるのかもしれませんが、私はそのような人に会ったことがありません。そのため、様々な未来の可能性を想像することになりますが、想像した未来のなかにチームの望む未来があるとも限りません。未来を予測した時、望む未来を想像できないことがあります。望みのない状態で今後の方針を検討することは虚しいことではないでしょうか。チームに諦めの色がにじみ、現状維持を続けている状況を見かけます。
ポジティブ心理学の研究の成果によれば、ポジティブ感情は仕事の成果に良い影響を与えます。また、フロー理論によれば、課題の難易度と自己効力感は集中力に関係します。課題の難易度が低すぎると退屈になり集中力は低下し、課題の難易度が高すぎて自分にはどうしようもないと感じる(自己効力感が低い)と諦めになり集中力は低下します。難しさを感じながらも自分で何とか対処できると感じている時、集中力は高まる傾向にあります。
未来に望みのない状態では、仕事の成果を期待できません。危機感や怖れは人を動かす動力にはなり得ますが、適切な行動を導き成果をあげるという点からは効果的とは言えません。危機から逃げる行動では、方向に統一性がなく、チームはバラバラになりがちです。一方、目的を目指す行動では、方向が統一され、チームは協力し易くなります。方向性を共有しつつ危機感を持つのであれば、両者の特長を上手く活かすことが出来ます(図2)。
図2:危機感と目的意識における行動の違い |