[入門編] Ubuntu Serverの基礎(前編)

2013年12月12日(木)
古賀 政純

スケールアウト型サーバーに適したUbuntu Server

Ubuntu Serverの導入対象となるサーバーは、基本的にx86アーキテクチャのサーバーと省電力ARMチップを搭載したサーバーになります。

ARMチップを搭載したサーバーや、HP Moonshotのようなx86アーキテクチャでありながら超省電力を実現する高密度カートリッジ型サーバーの導入においてLinuxが採用されていますが、多くのサービスプロバイダーやオンラインゲームサーバー基盤では、数百台、数千台規模の、高さ1Uや2Uの従来型x86サーバーにLinuxを導入する必要があります。しかし、ライセンスコスト削減のニーズからフリーLinuxの利用が多いのが現実です。

一方、製造業や通信、流通業等の大規模なエンタープライズ向け顧客の部門サーバー等においては、データベースシステムに商用Linuxの採用が見られますが、スケールアウト型システムの導入に伴い、Linux OS自体のサブスクリプション費用のコスト削減とベンダーサポートの両立の難しさが課題になっています。サーバー台数が10台以下のような小規模なスケールアウト型システムでHadoopを稼働させるユーザーでは、オンライントランザクション系の基幹システムから分離された分析基盤であるため、障害時の影響度が低いとはいえ、Hadoop基盤をデータの二次保管庫として利用している場合もあります。

このように、データ保管庫と分析基盤を両立させる等のコスト圧縮を実現しつつも、ベンダーのサポートを両立させたいというニーズは少なくありません。Hadoop以外でも、MySQL等のマスター・スレーブ型データベースシステムでスレーブノードの増加によって性能を向上させる場合なども、サブスクリプションのコスト低減とサポートの両立が課題に挙がっています。

特に、日本の多くのエンタープライズ・ビジネス向けの企業ユーザーは、Linuxの利用においてベンダーサポートを重視します。中でも、本番サービスを展開するデータベースサーバーや大規模メールアーカイブ基盤等、システムの障害発生が社会基盤や組織体に大きな影響が出るようなシステムではその傾向が顕著です。なぜならば、Linuxカーネルやハードウェア監視エージェント、ドライバー類に問題が発覚した場合の対応において、ハードウェアベンダーのサポートが無くなると、問題解決の窓口を失い、サービス開始や継続に大きな影響が出てしまうからです。

この問題の解決手段の一つは、ハードウェアベンダーが提供するOEM版の商用LinuxであるUbuntu Serverを購入することが挙げられます。先の問題解決のためのベンダー窓口を維持しながらも、従来の商用Linux等のサブスクリプション費用の圧縮を同時に実現できるため、OEM版のUbuntu Serverは、日本のエンタープライズ向け顧客の選択肢を一つ増やした形になったといえるでしょう。ただし、Ubuntu Serverは外部ストレージのサポート等にまだ課題があるため、共有ディスク型のHAクラスター等の利用には、豊富な実績を有するRed Hat系やSUSE系のエンタープライズ向けLinux OSを強く推奨します。Ubuntu Serverのデータベース利用としては、DASを使ったスケールアウト型のNoSQL等の分散DB基盤での採用に留めておくのがよいでしょう。

図4:オンライントランザクション系システムと分析基盤は分離させるのが基本。Hadoop基盤はデータの二次保管庫の役割を果たす場合がある(クリックで拡大)

スケールアウト型サーバーを大量に導入するホスティングベンダーやオンラインゲームサービスプロバイダー、クラウド業者にとってもUbuntu Serverは威力を発揮します。通常、Linuxサーバーを大量に導入する場合には、ネットワーク経由で自動インストールを行いますが、Ubuntu Serverには、OSの標準機能として、物理サーバーへのベアメタル・インストールを実現するMaaS(Metal-as-a-Service)が用意されています。

MaaSを利用すれば、大量のノードへのLinuxインストールを簡素化できるため、構築の手間を大幅に削減できます。従来は、大量のノードをインストールするための管理用サーバーに商用のデプロイメント・ツールを構築していましたが、OSのベアメタル配備だけが目的であれば、OSに標準的に添付されているMaaSを使わない手はありません。筆者も業務でHadoopやCassandra等のOSSの動作確認を行うため、大量のUbuntu Serverを配備する必要があるのですが、MaaSサーバー自体の構築も簡単で、Ubuntu Serverの配備もWebブラウザから容易に行えるため、簡易的にUbuntu Serverを複数配備したい時に重宝しています。

図5:MaaSによって大量のUbuntu Serverの配備の手間が劇的に低減する(クリックで拡大)

以下にハードウェアベンダーによるOEM版のUbuntu Serverを購入した場合の特徴やメリットについて簡単にまとめておきます。

  • Canonical社とHPは“ワールドワイドアグリーメント”を締結しているため、Canonical社によるサポートとHPの持つ豊富な技術ノウハウにより、日本HPを一括窓口として提供することが可能
  • OEM版Ubuntu ServerをHPから購入すれば、認定済みのHP ProLiantサーバーでの保守窓口を1本化
  • Ubuntuの導入時および継続的なライセンス費用やサブスクリプション費用はかからない
  • Canonical Ubuntu Server Standardでは、標準時間のサポート
  • Canonical Ubuntu Server Advancedでは、24時間365日のサポートが可能
  • カーネルの基本機能、ブートローダー、ドライバー、ファイルシステム、OSの基本コマンドの他に、OS標準添付のApache、Samba、DNS、FTP、squid、DHCP、NIS、NFS、postfix、OpenLDAP、KVMの機能についてハードウェアベンダーの保守サポートの技術支援を受けることが可能

Ubuntu Serverのサポート内容については以下のURLで確認することができます:
> http://h50146.www5.hp.com/services/cs/availability/sw/list/ts_ubuntu.html

図6:大規模エンタープライズ系システムのユーザーは、サーバーとUbuntu Serverのワンストップサポートを重要視する傾向がある(クリックで拡大)

明日は、スケールアウト型サーバーのHP Moonshotを使って、仮想化を導入せずに物理サーバーで集約を行う方法や、Ubuntu Serverのバージョン情報などについて解説していきます。

日本ヒューレット・パッカード株式会社 プリセールス統括本部 ソリューションセンター OSS・Linux担当 シニアITスペシャリスト

兵庫県伊丹市出身。1996年頃からオープンソースに携わる。2000年よりUNIXサーバーのSE及びスーパーコンピューターの並列計算プログラミング講師を担当。科学技術計算サーバーのSI経験も持つ。2005年、大手製造業向けLinuxサーバー提案で日本HP社長賞受賞。2006年、米国HPからLinux技術の伝道師に与えられる「OpenSource and Linux Ambassador Hall of Fame」を2年連続受賞。日本HPプリセールスMVPを4度受賞。現在は、Linux、FreeBSD、Hadoop等のOSSを駆使したスケールアウト型サーバー基盤のプリセールスSE、技術検証、技術文書執筆を担当。日本HPのオープンソース・Linuxテクノロジーエバンジェリストとして講演活動も行っている。Red Hat Certified Engineer、Red Hat Certified Virtualization Administrator、Novell Certified Linux Professional、EXIN Cloud Computing Foundation Certificate、HP Accredited Systems Engineer Cloud Architect、Red Hat Certified System Administrator in Red Hat OpenStack、Cloudera Certified Administrator for Apache Hadoop認定技術者。HP公式ブログ執筆者。趣味はレーシングカートとビリヤード

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