ネットワークの接続形態あれこれ(前)
前回までは、2台のコンピュータの間で、シリアル通信でデータを送るという話をしました。しかし2台の機器が通信できるだけでは、ネットワークとは言えません。今回から、ネットワークの要件である多数の機器、つまり3台以上の機器で相互に通信することを考えてみます。
接続の形態
2台の機器を接続するだけなら、1本のケーブルで直結するだけです。しかし、3台以上の機器を接続し、それらが相互に通信できるようにするにはどうすればいいのでしょうか? もちろん前述したシリアルポートでは、このような接続を実現することはできません。3台以上の機器を接続するためには、何らかの切替機を使ったり、あるいは切り替えが不要な別の通信方式を導入する必要があります。ここでは、多数の機器を接続するために交換機を使う方法、すべての機器をループ状の配線で接続する方法、1本の通信ケーブルを共用する方法について説明します。
交換機を使ったスター型接続
シリアルポートを使って3台以上の機器を接続する場合、シリアルポート切替機を使うことができます。一般に使われている切替機は、ユーザーがスイッチを操作して接続を切り替えますが、ネットワークを構築するにはもっと複雑なものが必要です。
まず、ネットワークの規模に応じた多数のポート(接続用のコネクタ)が必要です。そしてこれらのポートのうち、任意の2つを接続できなければなりません。もちろん、接続の切り替えを人間が行っては意味がありません。機器側からの要求に応じて、自動的に動作する必要があります。
このように多数の通信ポートを持ち、それらの間を任意に接続できる機器のことを「交換機」(スイッチ)と呼びます。そして、交換機を使って通信路を自由につなぎ換え、任意の機器の間を接続することを「回線交換」といいます(図1)。
各機器は、通信ケーブルを交換機に接続します。そのため交換機を中心に、各機器が放射状に接続されるという配線の形状になります。このような接続形態を、スター型接続といいます(中央から光が放射されているイメージ)。
交換機を使って回線交換するという方法は、日常使っている電話のシステムと同じです。各契約者の元に置かれた電話機は、電話線を介して電話局の交換機に接続されています。そして電話機から交換機に適切な指示をする(相手番号をダイヤルする)ことで、交換機はその電話回線を目的の回線に接続し、2台の電話機の間の通信が確立し、通話できるようになります。
リング型接続
交換機を使わずに3台以上のコンピュータを接続する別の方法もあります。次の図2のように各機器の通信ポートの入力端子(RxD)と出力端子(TxD)の間を接続するとどうなるでしょうか? 各機器のポートのデータ送信端子TxDを、隣のコンピュータの受信端子RxDに接続します。隣のコンピュータのTxD端子は、さらにその隣のコンピュータに接続します。通常のシリアルポートの用法では、2台のコンピュータの間でデータの送受信端子を接続しますが、これを多数のコンピュータの間で輪になるように行うのです。
4台のコンピュータを図のように接続した場合、各機器は自身の隣の機器にデータを送ることができます。AからはBにのみ、BからはCにのみ、CからはDにのみ、DからはAにのみ送れます。逆向きには送れませんし、直接つながっていない相手に送ることもできません。
ネットワークを構築するためには、任意の相手と通信ができなければなりません。例えばコンピュータAからコンピュータCにデータを送るにはどうすればいいでしょう? 答えは簡単で、コンピュータBが、Aから受信したデータをCに中継すれば、AからCへの送信が実現できます。つまりそれぞれのコンピュータは、データの送信と受信以外に中継という処理を行うことになります。
このようにすれば、任意の数のコンピュータを環状(リング状)に接続し、その中の2台が通信を行うことができます。このような接続をリング型接続といいます。
リング型接続で任意の2台の機器の間の通信を行うためには、接続している各機器が、受信データを隣宛てに中継できなければなりません。もし途中のコンピュータの電源が切れていたり、トラブルを起こしていると、中継がそこで途絶え、通信が行えなくなってしまいます。機器がダウンしている時は、受信端子と送信端子を直結してしまうような構造になっていれば、つまり機器の状態に関わらず、中継だけはできるようにしておけば、このような事態を防ぐことができます。
ケーブルを共有するバス型接続
交換機を用意したり、配線をわざわざリング状に接続しなくても済む、もっと簡単な方法もあります。各機器の通信インターフェイスの送信端子と受信端子を、すべてまとめて電気的に接続してしまうのです(図3)。
シリアルポートではこのような接続はできませんが、送信端子、受信端子をすべてまとめて接続できるインターフェイスであれば、簡単に多数のコンピュータを接続することができます。
非常に乱暴な方法のように思えますが、通信は可能です。ある機器が送信したデータは、自身も含めて、ほかのすべての機器で受信されます。例えばコンピュータAが送信端子から送出したデータは、B、C、Dの受信端子で受信されます。もちろんAの受信端子でも受信されます。このような接続により、あるコンピュータが送信したデータを、別のコンピュータで受信できます。つまり、接続された任意のコンピュータの間で、データのやり取りが行えるということです。
この形の接続は、1本の共通母線(バス)となる長い通信ケーブルに、すべての機器の送受信端子を接続するという形になります。つまりすべての機器がこのケーブル(メディア、あるいは媒体)を共有するということです。このような接続形態はバス型接続と呼ばれます。
この方式の問題は、複数のコンピュータが同時にデータを送信すると、データの信号が通信ケーブル上で混じってしまい、データを正しく受け取れないという点です。データの衝突を防ぐためには、個々の機器に対してデータ送信の許可を与える調停メカニズムが必要になりますが、このような仕組みを導入するとシステムは複雑になってしまいます。そこで発想を変え、データの衝突を防ぐのではなく、運悪く衝突したらやり直すことにします。
衝突によるデータの再送信が起こると、その分、通信の効率は低下します。しかし、調停機構などが不要なため、ネットワークの構造はとても単純になります。現在広く使われているイーサネットは、現在では接続形状が変わっていますが、もともとはこのようなバス型接続のネットワークとして開発されたものです。
この記事のもとになった書籍 | |
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榊 正憲 著 |
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