こころの健康のためのキャリアとは?

2008年9月5日(金)
福島 南

キャリアストレスとは?

 先ほども述べたように、IT業界で求められる人材は、上流の作業ができる人ということになってきていますが、そうなればテクニカルスキルは言うまでもなく、コミュニケーションスキルやリーダーシップ、ヒトやカネを管理する能力をも合わせ持ったヒューマンスキルが必要とされるようになります。

 SEとして順調にキャリアを積んでいけば、自然とリーダーとしての業務内容に変わってきます。しかし、「自分はもともと人付き合いが苦手で、人と話さなくて済むからこの業界に入ってきた」と言ったところで、会社は生涯プログラマーであることを許してはくれません。

 SEからグループリーダー、プロジェクトマネジャーになることは昇進であり本来喜ばしいことのはずですが、ITエンジニアの中にはこの役割の変化にうまく対応できず、自分にはマネジメント能力がないとプレッシャーに押しつぶされて、うつ状態になってしまう方も少なくないのです。

 このように次のステップへの移行期に、今までと異なる課題を与えられ、どう対処したらよいのか戸惑い、できないことを求められているとストレスを感じてしまう、これもキャリアストレスと言えるでしょう。

キャリアストレスの対処法

 どんな企業や組織で働いていても、多かれ少なかれキャリアストレスを感じるものです。このストレスをメンタルヘルスの問題に発展させないためには、一体どうしたらよいのでしょうか?

 これまで説明してきた通り、キャリアストレスはキャリアの節目やキャリアアップといったそれぞれの段階で起こることが多いものです。ですから、次の段階を見通した、いわば準備のようなことが必要になってくるわけです。

 また次の段階だけでなく、どのような感じの人生を生きていくのか、おおざっぱなイメージを持つことも助けになります。このようなキャリアの見通しをつける、「キャリア パースペクティブ(carrier perspective)」を持つことが有効です。

 ただしキャリアビジョンに固執するのではなく、柔軟に変えていくことも大切です。なぜならいつの段階でも、予定は未定だからです。また予期せぬ出来事によりキャリアの方向を転換せざるを得なくなる機会も多くなってきているのです。

 そこで米国スタンフォード大学の教授であるクランボルツ博士は、「Planed Happenstance=計画された偶発性」を提唱しています。これは、「キャリアはいくら綿密に計画しても、予期せぬ出来事によって修正せざるを得ないときがあるが、予期しない偶然の出来事からも開発されるものであり、その偶然を計画されたものとして大いに活用することが大切である」というものです。

 この偶然のチャンスを最大限に生かすためには、自分は何を求めているのか、何にやりがいを感じ、どこに興味関心が向いているのか、という自分自身への自己理解を深めておくことが重要となります。

 次はキャリアアンカーというキーワードについて説明しましょう。

株式会社メンタルヘルス・リサーチ&コンサルティング
産業カウンセラー、キャリアコンサルタント。休職者へのキャリアカウンセリングのほか、復職支援専門デイケアを併設するメディカルケア虎ノ門(精神科クリニック)では、再発予防のための集団認知行動療法などを担当。第3回日本うつ病学会学術奨励賞受賞。http://www.mhrc.co.jp

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