自動化で運用管理コストを削減する

2009年12月2日(水)
星野 敏彦

はじめに

今回の連載では、データセンターの運用を効率化する各種の方法を、具体的な技術動向や事例、ツールの解説などを交えて紹介していきます。3回の連載を通じて、運用の自動化、仮想化技術を適用したIT環境の運用管理、ITサービス管理、資産管理などを解説します。第1回の今回は、主に自動化に着目し、現在のデータセンター運用の姿を把握します。

コスト削減の対策としては、例えば、IT資産(ハードウエアやソフトウエア)の新規購入を控え、新規ITプロジェクトを凍結し、既存の保守サポート契約を見直し、運用への外注を抑える、ないしは、アウトソースする、などが考えられるでしょう。その反面、コスト削減策が原因でネットワークやサーバーがダウンするなどして、ビジネスへ影響を及ぼすことは許されません。

現在のところ、コスト削減策を推し進める中で、サーバーや周辺機器などを統合する“ITコンソリデーション”が有効な手法の1つであると認識されています。複数のデータセンターを保有する企業では、データセンターの統廃合も選択肢になるでしょう。

米Hewlett-Packard(以下、HP)では、全世界に85カ所あったデータセンターを米国内の3カ所に統合しました。各サイトは真っ暗な(Lights-out)状態の無人化データセンターで、運用は遠隔管理されています。これによるITコスト支出削減効果は今後数年間で約10億ドルと見込んでいます。

HPでは、ここで培ったノウハウや経験、使用した製品を、“HPデータセンター・トランスフォーメーション”というコンセプトの下、顧客へソリューション提供しています。こうしたソリューションは、大きく次の4つに分類できます。

  • IT環境を統合・仮想化する「コンソリデーション」
  • エネルギーおよびスペースの効率化
  • 事業継続・災害対策
  • IT運用プロセスを自動化する「データセンター自動化」

このうち、データセンター自動化は、無人化データセンターを実現できる重要な技術です。これにより、ハードウエアとソフトウエアのプロビジョニングや変更管理の定型作業を標準化・自動化し、人的エラーの発生するリスクも抑え、運用管理コストを削減します。以下では、具体的に自動化の内容、機能などをご紹介します。

HPのデータセンター自動化とは?

技術市場調査会社の米Forrester Researchでは、データセンター自動化は、「ハードウエア、ソフトウエアおよびプロセスが協力してITオペレーションを合理化することができる手法の組み合わせ」で、「ITオペレーションとITサービス管理チームが設計からオペレーションや保守に至るまでのサービスを実現するために役立つ高度な手動処理を自動化する」ことと定義します。

ここで、データセンター自動化も、ITサービス管理の視点から検討されなければならない点に注意してください。ITIL(Information Technology Infrastructure Library)をベースに考えると、データセンター自動化も、IT戦略、IT設計・開発、IT運用といった全ライフサイクルの視点から、データセンターの運用、管理で中心的な役割を担う「人」、ビジネスの円滑な進行をサポートする「プロセス」、基盤となる仕組みを構築する「テクノロジー」の3つにバランスよく取り組んでいく手法をとることになります。

以上から、データセンター自動化には、次の4つの機能が必要と考えられます。

1)ネットワーク、アプリケーション、サーバー、ストレージからサービス全体を可視化するとともに構成情報を一元的に管理できること。

2)ITプロセス自体を自動化すること。

3)変更および構成管理の自動化。ネットワーク機器の増設やサーバーのプロビジョニング、OSのインストールや設定、サーバー更新、パッチ管理など、多くは人手でまかなうような労働集約的な作業を自動化すること。

4)ITプロセス全体をトレースおよびトラッキングできること(誰がいつ、どこで何をどうしたか、作業履歴はすべて記録され、レビューされなければなりません)。

次ページでは、上記で最も重要と思われるITプロセス自動化を説明します。

ITプロセス自動化

ITプロセス自動化とは、IT部門における労働集約的な日常の各種定型作業を自動化し、監視やトラブル・チケットなどのシステム運用管理システムと連携して、一連のワークフローに従い自動実行されるための仕組みです。ITシステムを管理する製品は、システム監視、チケット発行、変更・構成管理の3つに分類されますが、ITプロセス自動化はこれらとは異なる新しいカテゴリーに位置します。

では、具体的にITプロセス自動化にはどのようなものがあるでしょうか?

1)インシデントの自動化

日々発生するアラートに対して、トラブル・シューティングのためのチェック作業を自動化することにより、共通のアラートやインシデントの優先順位を設定して、障害対応のスピード・アップが図られます。

  • サーバー・ヘルスチェック
  • ネットワーク・ヘルスチェック
  • データベース・ヘルスチェック
  • 構成チェック
  • 接続チェック
  • エラー状態をチェックするためのログファイルのスキャンなど

2)反復的な保守作業の自動化

手作業で行われている保守作業を自動化することで、コストと時間を節約することができます。

  • ファイル・サーバー/プリント・サーバーのリブート
  • パスワードの変更
  • ユーザーの作成
  • ログ・ファイルのレビュー
  • ディスク容量増加動向の予測
  • データ・バックアップの実行など

3)IT運用システムの統合

ITシステム監視システムやサービス・デスク製品が導入されていても、統合されずに独立した状態である場合、ITプロセス自動化では、これらの各種管理ツールをシームレスに統合することで、オペレーターの手作業を軽減することができます。

  • 監視システムで検出されたアラートを元に、チケットを自動生成
  • 障害対応の進ちょくを反映して、チケットを自動更新、クローズ
  • チケット・システムでの詳細な監査証跡を自動収集など

HP ソフトウエアによるITプロセスの自動化と導入効果

「HP Operations Orchestration software」は、ITプロセスの自動化支援ツールとして、インシデントや問題、プロビジョニング、変更要求、複雑なワークフローの対応などに要する時間を短縮することができます。HP Operations Orchestration softwareは、ITサービスや基盤プロセスをサポートする従来のサイロ型のITシステムを統合するので、日常的な保守作業だけでなく、複雑な変更調整やワークフローの効率化も促進できます。

また、HP Operations Orchestration softwareは、HPだけでなく、サード・パーティーが提供するさまざまなシステム管理製品との緊密なインテグレーションによって、データセンターの基盤を一元管理して、エンド・ツー・エンドのIT管理プロセスを自動化します。

HP Operations Orchestration softwareの導入効果として、次のような事例があります。

(1)インシデント管理の迅速化。月当たり5000~8000のインシデント対応を8名のスタッフで行っていたものを、年間500万ドル節約するとともに、平均復旧時間(MTTR)も短縮しました。

(2)変更管理プロセス自動化。エンド・ツー・エンドのプロビジョニングに数週間かかっていたものが、30%以上の手順を自動化して、作業も1日以内で完了するようになり、年間約400万ドルを節約しました。

(3)災害復旧とフェイル・オーバー。災害復旧試験を行うにあたり、50人ほどのスタッフで6~7時間かかっていたものが、フェイル・オーバーのプロセスを自動化することで、80%のリソースを削減できました。

(4)仮想化環境の管理とプロビジョニング。これまで100日近くかかっていた仮想データセンターのプロビジョニングが、4時間以内で完了するようになり、ミスも報告されなくなりました。

次ページでは、IT資源の変更・構成管理を自動化するツールと事例を紹介します。

変更および構成管理の自動化とHPソフトウエア

次に、サーバー、ネットワークの変更および構成管理の自動化ツールと事例を紹介します。

1)サーバー自動化

サーバーの自動化とは、サーバーのベースラインの確立から、ベアメタル・プロビジョニング、パッチの適用、構成管理、スクリプトの実行、監査、さらにサーバー仮想化、仮想マシンの各種設定にいたるまでの物理、仮想サーバーとアプリケーションのライフサイクルを管理することです。

「HP Server Automation software」は、ITプロセスの自動化と統合して、物理、仮想サーバーのライフサイクル管理を実現し、変更管理、インシデント管理、およびリリース管理プロセスを自動化します。

ITサービス事業者のEDS(2009年にHPと合併)では、ある企業に対して、毎週350台のLinuxサーバーのビルト・インが必要でした。この作業を行うには、これまで1人あたり1日4台のサーバーのビルト・インを実行し、完了までに3週間の工数が必要でしたが、自動化によって、350台のLinux サーバーのビルト・インに、2名で2日の工数で対応できるようになりました。

2)ネットワーク自動化

ネットワークの自動化とは、ネットワーク・デバイスのプロビジョニングから、変更管理、コンプライアンスおよびセキュリティ管理に至るまで、ネットワーク運用ライフサイクル全体を自動化することを指します。

HP Network Automation softwareは、リアルタイムの変更検出、構成、コンプライアンス、アップデート、ACL(Access Control List)管理、プロビジョニング、パッチ適用を自動化し、主要なネットワーク機器ベンダーのデバイスに対応しています。

EDSの事例では、数千のネットワーク・デバイスのポリシー・コンプライアンス・チェック作業に15週間も要していましたが、自動化で、5時間程度に圧縮することができました。

まとめ~データセンター自動化のメリット

HPでは、上記に紹介したほかにも、2つの関連製品があります。

(1)「HP Universal CMDB software」 サーバーやネットワーク、ストレージ、アプリケーションなどの構成項目と各要素間の複雑な関係を自動的にモデル化した構成管理システム。

(2)「HP Storage Essentials software」 サーバーからストレージまでの相関関係を可視化し、ストレージ・デバイスの監視、性能分析、プロビジョニングを行うストレージ・リソース管理ソフト。

データセンター自動化は、定型的な日常業務を自動化することによってコストの削減が期待できるITイニシアチブです。すでに海外のみならずわが国でもデータセンター自動化の実用、導入が進められています。

データセンター自動化を実施することによって、コスト削減のほかにも、次の3つのメリットがあります。

1)可用性の向上

ITサービス管理のベスト・プラクティスに基づく変更管理および構成管理、導入時のビルド・構成の標準化を可能にし、人的ミスをなくすことで、ネットワーク、サーバー、アプリケーション、ストレージの可用性を高めます。

2)コンプライアンスの向上

法令や業界基準などに基づく監査や対応、レポート作成を自動化することで、監査準備の時間とコストの両方を節減して、コンプライアンスの実現を支援します。

3)災害復旧

災害復旧やフェイル・オーバーのテストでは、多くの作業を特定の順序で実行することが求められます。この点、自動化に適しており、自動化によって、ミスの発生を防ぎ、プロセス情報が可視化されます、

次回は、近年急速に導入されている仮想環境に対して、IT運用管理はどのように対応すべきかを解説します。

【参考製品】

「HP Operations Orchestration software」
「HP Server Automation software」
「HP Universal CMDB software」
「HP Storage Essentials software」

日本ヒューレット・パッカード ビジネス・テクノロジ・ソリューションズ事業本部
国内システムインテグレータおよび外資系通信会社でエンジニア、マーケティングを経て、2001年日本ヒューレット・パッカード株式会社入社。2007年、米HPによるOpsware買収に伴い、データセンター自動化製品のマーケティング活動を担当。CISSP。
http://twitter.com/momotoshi/

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