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この連載が書籍になりました!『これからのSIerの話をしよう エンジニアの働き方改革

合理化・効率化のために先行投資をする覚悟

2016年11月9日(水)
梅田 弘之(うめだ ひろゆき)

はじめに

みなさん、こんにちは。前回は「社員の定着率をアップするための具体策を講じる」というテーマで、その具体策と効果測定について取り上げました。今回は「会社の改革のためのその3」として、「先行投資」について考えたいと思います。

「会社の改革のためのその3」―合理化・効率化のために先行投資する

1981年にマレーシアのマハティール元首相が「ルック・イースト」政策を打ち出して、日本や韓国の近代化に学ぼうと訴えたのは有名な話です。私は、それにちなんで「ルック・製造業」とよく口にしています。IT業界も製造業のような合理化・効率化を追求しないと、生産性が低い労働集約的産業のままに終わると危惧しています。

「そんなことはわかっているよ」という声が聞こえてきそうですね。では、「自社がどのような合理化努力をしているか5つくらい書き出してみてください」。そう突っ込むと手が止まり、代わりに「わかってはいる。でも忙しくて……」などのできない弁明が口をついて出てきます。”どんな業界でも合理化努力を怠っている企業は淘汰される”。誰しもそう思っているのにできていない。たばこは身体に悪いとわかっているのに止められないのとよく似ています。

合理化・効率化に取り組むためにはどうすれば良いのでしょうか。ポイントは次の4つです。

(1)先行投資をする覚悟を決める
(2)アクションプランを作成する
(3)アクションプランを実施する予算を取る
(4)アクションプラン実施状況を毎月フォローする

今回は、(1)の「先行投資する覚悟を決める」を中心に説明します。

先行投資をする覚悟を決める

製造業は思い切った設備投資を行い、常に合理化努力をしています。翻ってSIerは”出すことは舌を出すのも嫌い”というようなしみったれです。これは常駐・派遣ビジネスが”働いた分だけお金をもらう”というスタイルなため、遺伝子が先行投資という方法を受け入れないからです。

でも、製造業で先行投資を行わない企業を想像してみてください。いつまでも手作業でモノを作っているその企業は、遅かれ早かれ最新設備を導入した他社に淘汰されます。SIerだって同じです。“合理化・効率化を金で買う”という発想に切り替えないと、いつか淘汰されるのです。

そこで今回は「売上高販管費率」から入ります。みなさんは自社の値がどれくらいかわかりますか。政府統計の総合窓口「e-Stat」によると、平成27年度におけるソフトウェア業の売上高販管費率は19%(2150社を対象に調査)となっています。

【データ元:政府統計の総合窓口「e-stat」 H27-1-2のExcelの第3表の数値から計算】

たぶん、SIerの大多数はこの値よりも低く「1桁だ」という企業も多いと思われます。一般に売上高販管費率は低い方が良いとされているので、胸を張る人もいるでしょう。でも、無条件に喜んでいてはいけません。販管費は”販売費および一般管理費”の略称ですが、「販売費」の中には営業部門の人件費や広告宣伝費が、「一般管理費」の中には管理部門の人件費、家賃、福利厚生費、研究開発費などが含まれます。

つまり、営業要員をきちんと組織していない、オフィス環境が粗末、社員旅行などの社内イベントが少ない、研究開発を行っていないなどの課題を数値が表しているとも言えるのです。低ければ低いほど良いとは考えず、抑えるべきコストは抑え、かけるべきところにはお金をかけるようにしましょう。

そのために必要なのがまたまた「KPI」の導入です。ポイントは「ブレークダウン」と「計画対比」でしたね。売上高販管費率というどんぶりでは大雑把すぎますので、営業人件費、広告宣伝費、交際費、研究開発費などの項目別にブレークダウンし、金額だけでなく売上に対する率としても自社なりの目標を設定しましょう。

ここで1つやっかいなのが、勘定科目の統計だけでは今回のテーマである”合理化・効率化のための投資”が見えにくい点です。例えばパソコンやモニター、効率化ツールを購入したり、有料クラウドサービスを利用したりする費用が金額や耐用年数によって「消耗品」「一括償却資産」「固定資産」などバラバラに区分けされてしまいます。そのため、トータルでどれくらいのコストをかけているのかが管理しにくいのです。

でも、「集計が大変だから」と言って大事なKPIを見ないのでは本気度が足りません。過去3年くらいの実績を算出した上で、投資すべきものを洗い出し優先順位を付けて今後3か年の計画を立ててみましょう。え、「販管費を増やしたら利益が減るじゃないか」って? はい、その通りです。先行投資とはそういうものです。覚悟を決めてください。

モノで効率アップを図る

先行投資の覚悟を決めたらポイント(2)のようにアクションプランを立てるわけですが、実は合理化・効率化のアクションプランを立てるのは意外と難しいです。今まで、そういう発想があまりなかったから、何をやったらいいかわからないのです。一番手っ取り早いのは“モノで効率化を手に入れる”ことです。いくつか例を挙げてみましょう。

(1) 拡張モニター

ソフトウェア開発の仕事道具はパソコンなので、パソコンでの作業効率を上げます。まずは、社員に拡張モニターを買ってあげましょう。24インチのモニター価格はだいたい1万4千円くらいです。社員の人件費を3千円として計算すると、たった5時間分効率をアップすればペイできることになりますね。おまけに社員もすごく喜んでくれるので、とってもお得な買い物と言えます。

え、拡張モニターは既に買い与えている? すばらしい。さすがに最近はそういう企業も増えていますからね。では、もう一歩踏み込んで社内に常駐してくれている協力会社の社員はどうでしょうか。もし、その人たちも拡張モニターがなくて不自由しているようなら、その分も用意しましょう。効率アップしてメリットがあるのはこちらですし、その人たちにもいい気持で仕事をしてもらえます。

(2) パソコンの買い替え

みんなが使っているパソコンはどうでしょうか。古くなって動作がもっさりしているのに、はっきりと壊れるまで買い替えを我慢させていることはありませんか。製造業が古い生産設備をリプレースするように、社員のパソコンも買い替えましょう。この場合大切なのは、「言って来たら買ってあげる」という消極的態度ではなく、「こちらから聴いてあげる」という積極的な姿勢です。“社員のための温情”と考えるより“生産性アップのための合理的判断”と割り切った方が財布の紐が緩くなります。

<<コラム>>一人ひとりが合理化・効率化を考える雰囲気作り

エンジニアという人種は、文句を言うよりも自分が我慢すればいいと考えます。遅いパソコンでも我慢して使う、個人のモニターを持ち込んで使う、欲しいツールが有償だったらあきらめてフリーのものを探す、有償セミナーに出たいと言えず、どうしても参加したい場合は自腹で有休を取って参加する。

これらは愛すべき美徳でもあるのですが、効率化の阻害要因にもなりかねません。会社はこのような彼らの性格を理解して付き合う必要があります。プロなのだから効率アップのためには自ら主張する。そんな職場の雰囲気をうまく作ってあげてください。

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図:合理化のためなら喜んでお金を出すという姿勢を見せよう

(3) 開発支援ツール

世の中には開発生産性を向上させるツールがごまんとあります。多くの企業は「使いたいものを使えばいい」という現場任せのスタンスです。でも、現場まかせではお金のかかるツールは採択されず、また、忙しさにかまけて合理化努力が削がれてしまいます。現場の意思は尊重しつつも、もっとツールを積極活用して生産性を上げる方向に引っ張ってあげましょう。

では、全社的にツールの活用度を上げるにはどうすればいいのでしょうか。とっかかりとして、いま現場で使っているツールを調査してみましょう。サンプルとして、当社が以前行った調査結果の一部を簡略化して紹介します。こんな感じのマトリクス(表)にまとめてみると、「へぇ~」って思うような面白い結果が見えてくるはずです。

表:SI社の各部門で使用しているツール

ツールの例 部門A 部門B 部門C
変更管理・構成管理 分散型:Git、GitHub、GitLab
集中型:SVN、VSS、TFS
GitLab TFS SVN
チケット駆動開発 1.OBPMのサブ明細
2.Trac
3.RedMine
4.JIRA
5.Backlog
6.TFSのバックログ
Redmineを使用していたが現在はOBPM RedMine JIRA Backlogを使用 Office365Planner(Todo管理)
継続的統合&自動デプロイ 1.Jenkins
2.Visual Studio
3.TeamFoundation
4.Capistrano
5.CHEF
Chef
Jenkins
AWS管理
EC2の自動起動停止、メール送信
Capistrano
Chef
AWS管理→AWSPlusを利用
Visual StudioとPowerShell
Visual Studioで自動ビルド実行
自動テスト・レグレッションテスト 1.JUnit
2.Visual Studio(Nunit等)
3.vTest
4.Rspec
5.CircleCI
6.Serenium
7.Sikulix
8.RoboForm
・Serenium
・Serenium WebDriver
・JUnit
RubocopをCircleCIにて自動化
RSpec/Capybara
Sikulix
負荷テスト・性能テスト [負荷テストツール例]
JMeter
Load Impact
[性能テストツール例]
JENNIFER
Visual Studio Ultimate with MSDN
JMeter
JMeter+JENNIFER
NewReric JMeter
セキュリティテスト AppScan
Breakman
AppScan AppScan
Breakman
AppScan
コード解析 1.eclipse
2.Visual Studio
3.FindBugs(Java静的解析)
4.Checkstyle
5.Jtest、dotTest
6.FindBugs(htmlソースの表示、スクリプトのデバッグ、cookieの編集も可能)
Eclipsのコンパイルエラーチェック
Checkstyleで静的コード解析
FindBugsでバグ自動検知
Rubocop Visual Studioのコード解析
テスト支援 Advanced REST Client.QuickJava
stealthy
Tile Tabs
WebLog Expert Lite
QuickJava(firefox)
stealthy
Tile
WebLog Expert Lite
文字列ジェネレーター Advanced REST Client
障害検知 AirBrake
slack
AirBrake
Zabix
AirBrakeがエラーを検知、slackに通知
障害分析 OBPM
Qlik Sence
Power BI
OBPM
Qlik Sence
OBPM
Qlik Sence
OBPM
Microsoft Power BI
性能監視 Datadog Datadog
ログ管理 Papertrail
ApacheLogViewer
Apache LogViewer Papertrail

なお、ここではツール名だけを羅列していますが、「実際にはどのように使っているか」「効果はどうなのか」「この後どんな利用をしたいのか」などのコメントも付記しています。

また、この表は開発ツールや運用ツールの一部のみ紹介していますが、ドキュメント作成・管理、ファイル比較、エディタ、情報共有、データベース操作、デザイン、ディスク管理、パッケージ管理・ランチャーなどのユーティリティ系ツールも幅広く調査しています。

調査結果がまとまったら、それを社内で情報共有します。おそらくフリーのツールが中心となっているでしょうが、合理化のためなら有償のツールもタブーではないと宣言してください。部門やチーム別にマトリクス化することで、自分たちの合理化できていない部分がはっきり自覚できます。そして、よそで使っているツールを試してみようという機運が高まればしめたものです。

(4) 開発手法

実は上記の調査はツールだけではありません。各部・各チームの開発スタイルについてもまとめています。例えば、アジャイル開発かウォーターフォール開発か、アジャイルの場合は、デイリースクラムやイテレーション開発、ペアプロ、テストファースト、チケット駆動開発などのプラクティスごとにどのようにやっているかをヒアリングします。

特に重要なポイントは踏み込んで調べてください。例えば、設計者とプログラマー、プログラマーと単体テスト担当者は分けているか、単体テスト仕様書は誰が書いているか、などチームごとに違いそうなところをヒアリングすると、お互いに気づきが生じて工夫につながります。

社内の意識を変える

調査を行い、結果を共有して今後のアクションを各部で考える。それによって得られるものが合理化・効率化への”意欲”です。「合理化しなければ生き残れない」「お金をかけてもいいんだ」「非効率なやり方はダサい」。そんな意識改革をぜひ、全社で展開してください。

なお、ポイント(3)のようにアクションプランの実施には予算化が必要です。ツールやマシンの購入費だけでなく、アクションプランを行うための人件費も予算に見込んでください。担当を決めても、実際に作業する時間を見込んで予算化しなければ、後回しになってきちんと実施されません。また、ポイント(4)で示したようにアクションプランはきちんとガントチャートに記載して、最低、月一回はフォローすることが肝要です。

今回は、「会社の改革のためのその3」として、合理化・効率化のための先行投資をテーマにしました。合理化を口だけにしないためにも、まず経営者自身が意識改革する。その必要性が伝わってくれたらと願っています。

著者
梅田 弘之(うめだ ひろゆき)
株式会社システムインテグレータ

東芝、SCSKを経て1995年に株式会社システムインテグレータを設立し、現在、代表取締役社長。2006年東証マザーズ、2014年東証第一部上場。

前職で日本最初のERP「ProActive」を作った後に独立し、日本初のECパッケージ「SI Web Shopping」や開発支援ツール「SI Object Browser」を開発・リリース。日本初のWebベースのERP「GRANDIT」をコンソーシアム方式で開発し、統合型プロジェクト管理システム「SI Object Browser PM」、アプリケーション設計のCADツール「SI Object Browser Designer」など、独創的なアイデアの製品を次々とリリース。最近は、AIを利用したサービスに取り組んでいる。

主な著書に「Oracle8入門」シリーズや「SQL Server7.0徹底入門」、「実践SQL」などのRDBMS系、「グラス片手にデータベース設計入門」シリーズや「パッケージから学ぶ4大分野の業務知識」などの業務知識系、「実践!プロジェクト管理入門」シリーズ、「統合型プロジェクト管理のススメ」などのプロジェクト管理系、最近ではThink ITの連載をまとめた「これからのSIerの話をしよう」を刊行。

「日本のITの近代化」と「日本のITを世界に」の2つのテーマをライフワークに掲げている。

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