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この連載が書籍になりました!『これからのSIerの話をしよう エンジニアの働き方改革

社員の育成・スキル向上と真剣に向き合う

2016年11月24日(木)
梅田 弘之(うめだ ひろゆき)

はじめに

みなさん、こんにちは。この連載は、日本のIT産業を支えるSIerが本来の魅力あふれる仕事をして、ユーザーに感謝され、諸外国のようにITエンジニアが憧れの職業と思われる、そんな復活を果たすための応援メッセージです。耳に痛いようなことも提言しますが、私自身もIT業界の一員として試行錯誤しながら経営しているので、一緒に考えて改革していければと思っています。

「会社の改革のためのその4」―社員の育成・スキル向上と真剣に向き合う

ここで、これまでに「会社の改革のために」提言してきたことをおさらいしましょう。

その1 「KPI管理を導入する」
その2 「社員の定着率をアップする」
その3 「合理化・効率化のために先行投資をする」

社員の育成やスキル向上を口先だけにしない。そのためにKPIを設定して、定着率を監視し、必要な先行投資をする、ということを前ふりとして論じてきたわけです。

今回は、本連載の第1回で”企業が取り組まなければいけない問題”のトップに掲げた「社員の教育、人材育成、スキル向上」がテーマです。社員の定着率アップにつながりますし、会社の総合力を上げるための王道なので、一緒に掘り下げて考えましょう。

成長を願っているだけではダメ

「お父(母)さんは私(僕)のことなんかちっとも気にかけてくれない」。ドラマで子供がそんな不満をぶちまけるシーンをよく見かけます。親は親なりに子供の成長を願っているのですが、なかなかそれが伝わりません。また、どのようにすればいいか分からないのが子育ての難しさです。

会社も一緒で、経営者は社員の成長を心から願っています。でも、人の育成方法には正解がなく、手ごたえ(効果)も計りにくいものです。何かやっても長続きしなかったり、長続きしても形骸化したりで、十分できていると胸を張れる経営者はほとんどいないでしょう。そして、いろいろ取り組んでいるのに「うちの会社は社員の教育・育成ができていない」などと社員アンケートに書かれてショックを受けるわけです。

まあ、ドラマの親も心で願っているだけで、実際には子供と一緒の時間を持たない、子供の話を聴く努力をしていない、など仕事中心だったりするわけです。経営者にしても顧客にばかり目が行って、ついつい社員とのコミュニケーションを疎かにしてしまうことが多いのは否めません。

“成長を願っている”ことと“具体的に努力している”ことには大きな隔たりがあります。そこで、具体的なアクションにまで踏み込んでみたいと思います。と言っても、前述のように“正解がない”のが育成ですから、ここでは当社で行っている様々な活動を紹介します。

まずは、「目標管理」と「勉強会」です。

目標管理制度(MBO:Management by Objectives)

1954年にP.F.ドラッガーが提唱した目標管理制度は、みなさんの会社でも導入しているのではないでしょうか。日本では“会社が社員を育てる”という文化とマッチしたようで多くの企業が取り入れていますが、本家のアメリカではあまり使われなくなっているようです。

さすがに60年も前のものなので、「時代遅れだ」「事業のスピードに合わない」などと批判も多く、廃止する企業もあります。でも、社員が自ら目標を立てることの重要さは自己成長のための肝だと思いますし、それに代わる有効な手段もないので、当社では創業時からずっと使い続けています。

(1)目標管理の課題

目標管理についてネットで検索してみると、どのサイトも「日本の目標管理は成果主義のツールとして使われているからダメ」という論調ばかりです。確かにそういう面もあるでしょうが、本当にそれが一番の課題なのでしょうか。ネットで調べて、そこに書かれている内容を自分なりの文章で解説する。その連鎖でどれも同じような内容ばかりになってしまうのはネットの訝しい特性です。

ちゃんと自分の頭で考えてみましょう。私なりに考えてみて、自社で20年間やってきて感じている目標管理の課題(難しさ)は次のようなものです。

【目標管理制度の課題・問題点】

  1. 強制的に目標を立たせられるためやらされ感が強い
  2. 良い目標を立てる(立てさせる)のが難しい
  3. 人によって立てる目標の難易度が異なり不公平になる
  4. 上司によって目標達成の判断の甘さ、厳しさが異なり不公平になる
  5. 仕事ができると目標達成できるの相関が低く、点取り屋が得する
  6. 自己評価を高く付ける方が得する
  7. 目標を達成できない人が多く、かえってモチベーションが下がる
  8. 目標によっては達成度が数値で測りにくく、評価が曖昧になる
  9. 無理に達成度を測りやすい数値目標にすると本来の目標から遠ざかる

目標管理の難しさは、制度そのものよりも運用面にあります。人(評価される人)と人(評価する人)の関係や性格に依存する面が大きいので、どうしても軋轢が生まれたり不公平感が漂ったりするのをなくせません。

これという決定版がないので各社試行錯誤しているわけですが、どのように工夫しているかはオープンになっていなく手探り状態です。お互いに公開し合える場があるといいなぁと思いつつ、“先ず隗より始めよ”で当社の運用を公開しましょう。

(2)当社の目標管理制度(総合職の例)

1. 目標のバランスと比重、難易度

業績目標(70)、資格取得・自己啓発(15)、社内環境改善(5)、全社目標(10)という4つのカテゴリーで、それぞれ1~3個の目標を立てています。比重が一番大きい業績目標は「参加しているプロジェクトでどう活躍するか」などの業務的な目標です。資格取得・自己啓発はMCSAや簿記など個人のスキルアップ目標、社内環境改善は「みんなが気持ち良く仕事ができる職場とするために自分が何をするか」といった目標を立てています。

最後の全社目標は毎期テーマが代わるもので、社長が今期に目指す方針を示し、それに沿った目標を立ててもらいます。例えば、2016年度は“チームの一員としてチーム力を高める”というテーマです。「チームに対して自分は何ができるか、何をすべきか」「どのようなチームであるべきか、何を変えるべきか」「他のチームや会社のために、自分は何ができるか、何をすべきか」という問いかけに対し、個人の目標を立ててもらっています。

4つのカテゴリーのカッコ内は配点比重で合計100点になります。ただし、目標ごとに難易度を3段階で設定して難易度係数がかけられるので、例えば簡単な目標ばかり並べると合計が100点に届きません。

2.目標の立て方

会社の目指す方向と個人の目標のベクトルがずれてしまうとお互いに困ります。そのため、会社>部門>個人という順番でブレークダウンします。まず、会社が期初に中期経営計画を立てます。それを元に各部門がアクションプランを立て、そのアクションプランを意識した上で各人が個人目標を立てるという流れです。

個人個人に合わせた最適な目標を立てられれば成長につながります。そのため目標設定がとても大事なのですが、これがなかなか難しいです。個人が立てたプランを上司と話し合い、納得したものを目標にしているはずですが、上司の指導力不足で妙ちくりんな目標になってしまったりします。そして、評価の際に「そもそもこんな目標にしたのがおかしい」となってしまうことも多いのです。

一般に目標管理では、評価の公平性を保つために「できるだけ達成度を客観的に判断できる目標を立てる」と言われています。しかし、このべき論は営業なら数値目標が主体なので楽なのですが、エンジニアの目標は「品質を向上させる」「クラウド技術を向上させる」などのように達成度がわかりにくいものばかりなのでそう簡単にはいきません。

これらをなんとか数値目標にしようとして「バグを何件以内に抑える」とか「クラウドの勉強会を3回以上開催する」などの変な数値目標を立てている例も見かけます。本来その人にとって一番大切な目標は「品質の向上」であるのに、達成度を客観的に判断しにくいからといって「プログラムを10本以上書く」などの別の目標にしている本末転倒な例もよくあります。

無理に数値で評価判定しようとすると変な目標になるし、そうでなければ評価を測るものさしが曖昧で属人的になってしまう。この問題は難しく、20年やっても一向に答えが見つかりません。

3.フォロー

初期の頃は半期に1度目標を設定し、半期末に達成度を評価するというやり方でした。でも、考えてみると上司の役割は「目標を評価すること」ではありません。……なんて言うと「良い目標を立てさせることだ」と思うでしょうが、実はそれでもありません。

上司の役割は「目標を達成させること」なのです。そのためにはフォローが必要です。そこで当社では10年くらい前から隔月で目標管理面談を行うことにしました。これは進捗状況をフォローして”お尻を叩く”という意味合いもありますが、当初立てた目標が現状と合わなくなって別の目標に変えたり、部下(場合によっては上司)の悩み相談を受けたりなどもあります。

部下全員と面談する上司の負担は増えますが、コミュニケーションの機会が自動的に得られる効果は非常に大きく、転職を考えている人を早めにキャッチして食い止めることにも役立ちます。

図:上司の役割は「目標を達成させること」

4.評価

前述のとおり、どのサイトも「目標管理を成果主義の道具にしてはいけない」と論じています。では、目標管理の結果を全く報酬とリンクさせない方がいいのか。この課題に対しては大いに迷っています。結果が報酬に関係するからこそ個人が一生懸命取り組むし、上司も真剣に部下の目標と向き合う。当社ではそう考えて、結果を賞与支給額に反映する方式をとってきました。でも、賭けない”健康マージャン”が市民権を得る時代です。思い切って賭けない(報酬とリンクしない)”健康目標管理”に切り替えるべきなのかも知れません。

目標管理の評価は、自己評価>上司1(課長)評価>上司2(部長)評価>全社確認の4段階で行っています。賞与に反映するので、上司の好き嫌いや恣意性、偏向が入らないようにいろいろな人の目で評価が公平かどうか細心の注意を払ってチェックしています。

でも、そこまでやっても”自己評価の高いアピール型の人は、自己評価の低い謙遜型の人よりも最終評価が高くなりやすい”という目標管理制度が抱える問題は解消しきれていないのが現実です。

なお、最後の全社確認には私(社長)も参加して事業部によるばらつき(甘い/辛い)がないかを見比べて、偏っていると思われる場合には調整しています。

社内勉強会

「社内勉強会が活発な企業は伸びる」と言われます。私もそう信じて勉強会を重視しています。当社では2種類の勉強会を行っています(人事主導の研修は除く)。

1.月初勉強会

毎月1回の全社ミーティング前に行っている勉強会で、起業2年目(1996年)から続いています。40分くらいの時間で全員参加を基本としています。

・先端技術をテーマにする

勉強会では、今の仕事に必要というよりも、ちょっと先の技術やトレンドをテーマにしています。日ごろ仕事に忙殺されているとなかなか新しい技術のキャッチアップが疎かになるので、各人に最新技術への関心を仕込むことを狙っています。私はこれを“真珠の核入れ”と称しており、大きな真珠に育て上げるのは各人の役目です。

・プレゼンスキルの向上

もう1つの目的が“プレゼンスキルの向上”です。エンジニアはプレゼンする機会が少ないので、自分がプレゼンをする、プレゼンを聴く、という場を増やすわけです。たかが社内勉強会なのですが、20年も継続していると講師のプレゼンスキルのベースも上がってきます。講師は事前に自部門の上司や同僚たちを相手に予行練習して指摘を受けてから本番に臨みます。また、勉強会終了時には司会者に指定された人がプレゼンの内容や話し方がどうだったか総評するようにもしています。

・オープン参加

ちょっと変わった試みですが、この勉強会は社外の方も参加できます。ホームページに次回の勉強会テーマを掲示して、そこから参加申し込みができるようになっています。これは「せっかくの勉強会なので社外の人たちにも役立ちたい」という思いと、社外の方も参加するとそれだけ緊張感をもってプレゼンできるメリットを考えての取り組みです。

2.実践勉強会

月初勉強会が先の技術やトレンドをテーマにするのに対し、“今まさに必要なこと”をテーマにするので実践勉強会と呼んでいます。会社キックのものは就業時間内に行いますが、 誰か(ネタや問題意識を持っている人)が企画して、定時後に参加希望者が集まって行う自発的な勉強会です。

このような自主的な勉強会が活発に行われているときは、職場内に”学ぼう”という意識が高まり会社がいい状態にあります。月初勉強会も実践勉強会も会社のホームページでこれまでやったテーマを一覧で公開しています。

ちなみに、2015年の実践勉強会の開催数を数えてみたらちょうど60回でした。毎月の実践勉強会開催頻度を見ると、会社の健康状態が垣間見られるように感じています。

今回は、「会社の改革のためのその4」として、社員の育成、スキル向上と真剣に向き合うことをテーマにしました。「百の総論より一つの具体例」をモットーにしているため、具体例として当社の「目標管理制度」と「勉強会」の取り組みを紹介しました。どちらも創業時から20年以上も続けているもので、試行錯誤して現在の形になっていますが、未だに悩むことが多いです。次回以降もいろいろな取り組み事例を公開していきますので、お楽しみに!

著者
梅田 弘之(うめだ ひろゆき)
株式会社システムインテグレータ

東芝、SCSKを経て1995年に株式会社システムインテグレータを設立し、現在、代表取締役社長。2006年東証マザーズ、2014年東証第一部上場。

前職で日本最初のERP「ProActive」を作った後に独立し、日本初のECパッケージ「SI Web Shopping」や開発支援ツール「SI Object Browser」を開発・リリース。日本初のWebベースのERP「GRANDIT」をコンソーシアム方式で開発し、統合型プロジェクト管理システム「SI Object Browser PM」、アプリケーション設計のCADツール「SI Object Browser Designer」など、独創的なアイデアの製品を次々とリリース。最近は、AIを利用したサービスに取り組んでいる。

主な著書に「Oracle8入門」シリーズや「SQL Server7.0徹底入門」、「実践SQL」などのRDBMS系、「グラス片手にデータベース設計入門」シリーズや「パッケージから学ぶ4大分野の業務知識」などの業務知識系、「実践!プロジェクト管理入門」シリーズ、「統合型プロジェクト管理のススメ」などのプロジェクト管理系、最近ではThink ITの連載をまとめた「これからのSIerの話をしよう」を刊行。

「日本のITの近代化」と「日本のITを世界に」の2つのテーマをライフワークに掲げている。

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