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コンパイラーが無料じゃないなんて! 新旧エバンジェリストが語る開発ツールにおけるOSSとは

2017年5月10日(水)
松下 康之
マイクロソフトのOSS戦略、開発ツール担当のエバンジェリストに聞いたOSSラブなマイクロソフトの本音とは? 無償が当たり前の開発ツールをマイクロソフトはどう考えているのか? を探る。

マイクロソフトにおけるOSSへの取り組みの4回目、今回はVisual Studioなどを統括するデベロッパーエバンジェリズム統括本部の2名のエバンジェリストにインタビューを行った。マイクロソフトの中でも最も進歩的にソフトウェアをOSS化しているチームと言ってもいいだろう。今回はJavaのエバンジェリストから転身した佐藤 直生氏とネット的には「ちょまど」というニックネームで有名な千代田 まどか氏(以降、ちょまど)から話を聞いた。

今回の出席者の氏名と所属は以下の通り。

  • 佐藤 直生(さとう なおき)
    デベロッパーエバンジェリズム統括本部
    テクニカルエヴァンジェリズム本部
    Azureテクノロジスト/テクニカルエバンジェリスト
  • 千代田 まどか(ちよだ まどか)
    デベロッパーエバンジェリズム統括本部
    テクニカルエバンジェリスト

ーー自己紹介をお願いします。

佐藤:私は1999年に新卒で日本オラクルに入社しまして、データベースではなくてJavaのApplication Serverのエンジニアとして仕事を始めました。まだJ2EEが出るか出ないかという時代です。その次にSOA関連の製品を担当していました。2010年にマイクロソフトに転職するまでは日本オラクルで最初のエバンジェリストとして仕事をしていましたが、クラウド関連の仕事がしたいなと思っていたところにマイクロソフトから誘ってもらって移りました。その頃はまだAzureもあまり機能が実装されていない頃で仮想マシンが立ち上げられないという時代でしたね。

佐藤 直生氏

ちょまど:私は佐藤さんみたいな大冒険的な経歴は無くてまだ大学を卒業して4年目です。マイクロソフトに入ってからちょうど1年が経ったというところです。最初に入った会社は試用期間が終わったところで辞めたんですけど、Excelにひたすらアプリのスクショを貼り付けるだけの仕事で辛くて辞めました。次のベンチャーに入ったらモバイルアプリを作るっていう話になってその会社の方針でVisual Studio、C#、それにAzureが良さそうだということで使い始めました。まだXamarinが出始めの頃です。私は文系でPCを初めて触ったのも20歳になってからなのであまりIT業界のことは……。

千代田 まどか氏

ーーなんだか両極端なお二人ですね(笑)今回は参加予定の人が急遽欠席ということでこの特集でお世話になっているAzureチームの藤田稜さんにも参加頂いています。

藤田:よろしくお願いします。なんか社内では「ちょまどに業界ネタを教える会」というのがたまに開催されて盛り上がってます(笑)。

藤田 稜氏(写真は第1回取材時のもの)

ーーこれまでのインタビューではAzure、ADやSQL Serverなどのエキスパートに話を聞いてきたんですが、新卒オラクル入社のITエリートと文系でITビギナーという組み合わせはなかなか新鮮ですね(笑)

ちょまど:マイクロソフトに入るまで実物のフロッピーを触ったことがなかったっていうくらい経験が浅いんです(笑)。

ーーちょまどさんにしてみるとソフトウェアを開発するのにOSSは当たり前、クラウドも当たり前という感じですか?

ちょまど:そうですね。開発者としては特にモバイルアプリならバックエンドはクラウドは当たり前という感覚です。マイクロソフトに入るまでフロッピーを触ったことが無かったって言いましたけど、実は「オンプレミス」っていう言葉も来てから知りました。

一同:おー!

ーーそういう感覚だとOSSじゃない開発ツールって考えられないっていう感じですか?

ちょまど:そうです。実はちょっと前にIT業界の経験が長い人と話をしていたら、「僕が君たちくらいの頃はまだインターネットっていうものが無かったんだよ」って話を聞いて、「え? インターネットが無い? それって水槽の中のサカナなのに水がはいってないくらいの感じ? じゃあどうやって生きていくの?」っていうくらいに衝撃を受けました(笑)。

藤田:なんか私からするとそういうのがもう若い人たちの常識っていう感じなのかもしれませんね(笑)。

ちょまど:もう一つ言えば、開発ツールが有償だと開発者に浸透しにくいって思っていたんですよ。なのでXamarinがマイクロソフトに買収されたって聞いた時にすごく喜んだんです。Xamarinはライセンス代が高かったけど、これによりきっと無償になるし、しかも(XamarinチームはもともとMonoチームが母体でOSS好きなのもあり)XamarinのランタイムがOSSになって人に勧めやすくなるかなって思って。

ーーそもそもデベロッパーに対するエバンジェリストとしてOSSを使った開発環境というかそういうのに慣れているお客さんと対話をするわけですが、「Microsoft♡OSS」になったと言われているのってどの辺からなのですか? 佐藤さんのご意見は?

佐藤:それってここ3年くらいかなと思っています。まだ私がマイクロソフトに入社した頃はプロプライエタリなソフトウェアが主流で、主にそういうモノを売っていたわけですが、3年くらい前から徐々に変わって来たと言う感覚です。でもスコット・ガスリーがEVP(Executive Vice President)になって大分変わったって思います。もちろんサティヤ・ナデラがCEOになったというのも大きいんですが、私個人としては新卒でマイクロソフトに入って一人のデベロッパーからAzureチームのトップになったガスリーと言う人の存在が大きいですね。

あとビジネスの面ではこれまでのライセンスを売る形式とOffice365みたいにサブスクリプションで売る形式があったわけですが、それを「Mobile First、Cloud First」というキーメッセージと共に変えてしまったのがサティアだったので、ビジネスという側面で彼の存在はとっても大きいと思います。開発の方法論もソースコードのリポジトリがGitベースになったり、.NET CoreをOSSにしたりしているので開発のコミュニティにもだいぶ認知されているような気がします。

ーーでもまだマイクロソフトがOSS? っていう人も多いですよね。いつからそういうOSSラブな会社になったのか? と言う部分に興味があるんですけど。

藤田:開発者のメンタリティで言えば、普通に使っているもの、例えばJenkinsがAzureで動いたらいいよねっていう発想で自然にOSSがクラウドに入ってくると言う感じだと思うんですよね。それが自然とサービスになっていったっていう。

佐藤:そうですね。Azureの開発チームも普通にJenkins使っていますので、別に自社製にこだわることはなくてその時その時で良い物を使えばいいという感じですよね。

ーー例えばその感覚でマイクロソフトの中で一番人気のあるOSSはこれだ! みたいなモノがあったら良いかもしれませんね。

藤田:Azureの中で一番人気のあるOSSツールはコレだ! みたいなものは可能かもしれませんね。社内で使っていてこれがオススメのOSSっていうと色々問題があるかもしれません(笑)。もう開発スタイルはアジャイルになっていたりしますけど。

佐藤:そうですね。既にAzureもWindowsもアジャイル開発でDevOpsを行っています。各チームごとに色々スタイルはありますし、ペアプログラミングもやっていると思います。社内で8~10人程度のチームでアジャイル開発を回しています。

藤田:ペアプログラミングとはちょっと違いますけど、最近のVisual Studio CodeもそうですがIDEがすごく利口になっていてなんか開発ツールと対話しながら開発しているっていう感覚はありますよね。関数名とかスッと候補を出してくれたりとか。

ちょまど:Visual Studio 2017とかだとC#の書き方でこっちのほうがカッコイイよ! みたいなことまで教えてくれるんですよ。イケてる感じにコードを書き直してくれるっていうのはなんか対話している感じはします。

藤田:なんだかターミナルを使ってるとコンピューターと会話している感じがするって最近、若い人に言われましたね。GUIだと操作している感覚ですが、コマンドだといちいち結果が出てくるので対話っぽいというのは分かります。

ちょまど:(さきほどからマイクロソフトが変わって衝撃を受けていると言う話がみなさんから出てきてますけど、)私からすればVisual Studio CodeのようにエディターがOSSなのは当たり前だし、Mac版のVisual Studioが出たように開発ツールは当然マルチプラットフォーム対応だし。マイクロソフトが変わって衝撃! という話題で一緒に盛り上がれなくて悲しいです(笑)。

藤田:ただ今後はOSSと言う言葉がもう当たり前になって特別に意識しなくなってくるかもしれないですね。「え? このソフト、お金取るの?」っていう感じになるかもしれないですね。

ちょまど:そうですそうです。会社に入って一番驚いたのが「昔はコンパイラーは有償だった」っていう話で、「え? ナニ? コンパイラーが有償ってナニ?」ってこととか、ちょっと前に私の組織の一番上の伊藤かつらさんと話をしていた時に「最初の仕事はコンピューターにTCP/IPを入れる仕事だった」っていう話を聞いて「え? 最初からコンピューターがインターネットにつながらないの? ナニソレ?」って。

藤田:コンパイラーは昔は売ってたんですよね。コンパイラーやIDEが一緒になっていたのが当たり前で。

ちょまど:でも無料じゃない開発ツールっていうのが不思議だったんですよ、ベースが有料だと、開発する人も増えにくいし、結果的に不利益を被るのは目に見えてるじゃないですか。「どんなに良いツール作ってもお金取ったら広まりにくいよ!」って思ってました。XamarinでAndroidとiOS版の両方のアプリを作ろうと思ったら、ライセンス代が1年で25万円くらいかかってたんですよ。私みたいな社会人歴2〜3年の人が趣味でやるには高過ぎる値段でした。

ーーあぁ、そういう感じなんですよね。

ちょまど:でも逆にコンピューターそのものに関する知識が足りなくて困ってるんです。クラウドネイティブだと、サーバーはGUIからポチッと立ち上げるモノじゃないの? って感じです。昔、ツイッターのBotを作ろうとした時にずっとパソコンを立ち上げてるのもいやだなーという話をしたら、友達がRaspberry Piをくれたんですよ。で、「まずココにOSを入れてサーバーを立ち上げてやれば?」って言われて「え? サーバーを立ち上げる? OSを入れる?」って感じで。「メモリを追加する? そもそもLANのケーブルを繋げるってナニ?」って言う感じでホントに勉強することだらけです。

ーーもしも将来何か画期的な技術を取り込んだ言語なりコンパイラーなりがマイクロソフトから出てきたとして、それが有償で売られるということはあり得ると思いますか?

佐藤:無いと思います。TypeScriptにしてもOSSでやってますので。

ちょまど:私も無いと思います。

藤田:ライセンスという意味ではなくてサブスクリプションと言う形式になる可能性はあると思いますね。ソフトウェアとしては値段がどうかというよりも買い易くするというのは非常に大事だと感じていますので、サブスクリプションという感じになるのはアリです。Azureの利用料金もプリペイドカードにしてコンビニで売れたら良いかもしれません(笑)。

今回は、佐藤さんとちょまどさんというデベロッパーにおける新旧の世代の違いを見た感じのするインタビューであった。「コンパイラーが無償じゃないって信じられない!」という率直な感想を聞いた時は軽く衝撃を覚えたが、それが現代のデベロッパーの感覚なのだろう。開発ツールがOSSなのは当たり前、それを拡めることのほうがお金を儲けるよりも重要という指摘は今後のマイクロソフトの開発ツールの発想の原点かもしれない。そんな新世代のデベロッパーをも取り込んで過去から脱却しようとするマイクロソフトのDisruptiveな姿勢を感じとって貰えれば幸いだ。

de:code (decode) 2017

日本マイクロソフトの開発者/アーキテクト/IT Pro 向けイベント「de:code 2017」が今年もやって来る。4月末まで早期割引実施中!
イベント公式サイト→ https://www.microsoft.com/ja-jp/events/decode/2017/

(編注:2017年5月11日20時28分、鈴木更新)誤解を招く表現が含まれていたため千代田氏の発言の一部を修正致しました。

フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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