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日本マイクロソフトCTOが語る“普通のOSS企業“になったマイクロソフトとは

2017年4月26日(水)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
マイクロソフトのオープンソースソフトウェアに対する取り組みについてCTOの榊原彰氏にインタビューを行った。深層学習研究の状況、マイクロソフトが抱える課題など率直に語ってくれた。

今回は日本マイクロソフト株式会社の最高技術責任者(CTO)である榊原彰氏にインタビューを行った。日本アイ・ビー・エムから転職して1年が過ぎた時期に、マイクロソフトのリサーチ部門との深い関係を元にオープンソースソフトウェアに対する姿勢などを解説してもらった。

ーーまず榊原さんがCTOとして具体的に何をやっているのか、教えてください

私のタイトルですが、CTO(最高技術責任者)の他にDirector of NTOという肩書があります。NTOというのはマイクロソフトの中の組織ではNational Technology Officeと言いまして、その国や地域の抱える問題をテクノロジーで解決するというミッションを持っている組織なんですね。その中には法務部門の人間や公共事業担当の事業部の人間と一緒に働いている感じです。例えば、フィリピンの支社の人たちとテレビの地上波のホワイトスペースを使ってインターネットをネットワークインフラが足らない所に届けるみたいな試みをやっています。日本だと高齢化に対応してIoTを使って高齢者のモニタリングをしようとかアクセシビリティを高めるリサーチなどをやっています。

CTOの方は主にMicrosoft Researchの人たちと一緒に研究を行って、機械学習や深層学習に関わっています。マイクロソフトのリサーチ部門は各地に拠点があります。人工知能はレドモンドと北京、ケンブリッジが主にやっています。北京には2,000人ぐらいがMicrosoft Research Asia、略してMSRAと呼んでいますがそこに所属しています。Microsoft Developmentのエンジニアを入れると3,000人ぐらいの規模になると思います。

ーーものすごいエンジニアの数ですね。でも人工知能の研究という意味ではマイクロソフトはあまり世の中に知られていないような

そうですね、マイクロソフトの人工知能はクイズで人間を負かしたりしていないですし、碁の名人にも勝っていないので、地味といえば地味ですね(笑)。でも積極的にGitHubにコードを公開していますよ。オープンソースソフトウェア(以下、OSS)と言う観点ではもうOSSを使うのが当たり前、公開するのが当たり前、貢献も普通にするということでこれと言って頑張ってオープンソースを使おう! みたいなことにはなっていないと言う感じですかね。さすがに「Linuxはガンだ」という人はもう居ないので(笑)。他のプロプライエタリなソフトウェアをやってきた企業であれば一生懸命「OSSをやっています」と宣伝したりするのかもしれませんが、もうマイクロソフトにおいてはそういう必要性さえ感じていないという風に思えます。

ーー(以前在籍されていた)アイ・ビー・エムと比べてもOSSに対する姿勢は変わりませんか?

私は今から約1年2ヶ月前に日本マイクロソフトに転職をしたのですがあまり変わりませんね。実は転職する前に何度も何度も誘われていたんですが、その時は「ダークサイドに堕ちてはいけない!」という風に思い込んでました。アイ・ビー・エムからみればマイクロソフトはダークサイドに見えていたんでしょうね(笑)。スター・ウォーズじゃありませんが、ジェダイの騎士のつもりだったのかもしれません。でも実際に入ってみるとリサーチの人間も開発部門の人間も実に自然とOSSに馴染んでいるという感覚です。

今年の(日本マイクロソフトの会計年度の)数字としてクラウド関連の売上が半分ぐらいになると思いますが、そのAzureの中で動いている仮想マシンも直近の数ヶ月は半分ぐらいがLinuxになるという時代ですからね。マイクロソフト社員はだいぶそちらの方向に変わっていると思いますが、マイクロソフトのパートナーの皆さんもこれまでライセンスで商売をしてきた人たちは早く頭を切り替えてクラウドにいかないとまずいとは思います。プロプライエタリなマイクロソフト製品を売る、のではなくてよりオープンな世界に飛び込むという気持ちが必要だと思います。

ーーただ前回のインタビューでも全てがOSSになるわけじゃない、Windows、Active DirectoryそれにAIのテクノロジーはそのままプロプライエタリとして残るのでは? という意見もありましたが

AIの分野で言えば、画像認識や音声認識のようにAPIで提供されているサービスはIBMやGoogleもやっていますし、ある意味、コモディティ化していくと思います。APIを公開していかに使いやすくするか、プログラミングをしなくても簡単にモデルを作れるか、という部分に興味が移っているとは思いますね。そうするとそういう部分での勝負はもうあまり意味がない。

そこではなくてフレームワーク、マイクロソフトでいうところのCognitive Tool Kit(CNTK)にもっとフォーカスしていくということになります。これはGitHubで公開もしていますし、言語も独自のBrainScriptだけではなくPythonやC++もサポートしています。もうひとつ、マイクロソフトの深層学習は高速であるというのが一つの評価になっていますのでその部分にもっと注力すると思います。部門としてのMicrosoft researchについては今までと同じように研究発表を行ってGitHubで公開という流れは変わらないと思います。

ーーレッドハットはOSSに対してUpstreamバージョンとサポートを行うバージョンを並行して提供するというのが基本姿勢ですが、マイクロソフトにとってはクラウドとオンプレミスで同じソフトをそのプラットフォームに合わせてサポートするという姿勢に感じるのですが

そう言っても良いと思いますね。ただ単純にポーティングをしたのではなくて、クラウドであればちゃんとマイクロサービス化してエラスティックに動くようになっています。SQL Serverはオンプレミスとしてももちろんありますが、Azure上ではバックエンドがマイクロサービスになっていてちゃんとクラウドのアプリケーションらしく動きます。Azure StackもオンプレミスのIaaSというよりもパブリッククラウドであるAzureとのハイブリッドのIaaSですから。

ーーグーグルですと社内のシステムに関する公開情報が多くてその流れでTensorFlowに注目が集まっているという感じですが、マイクロソフトに関して言えば情報発信が少ないというのがちょっと地味さに拍車をかけているというか

私の感覚ですが、OSSの部隊はどうかわかりませんが深層学習についていえばコミュニティの醸成が下手だなという感じはしますね。あと深層学習についてもドキュメントがまだ日本語化されていないという欠点はありますね。そこはこれから改善していかなければいけないと思います。

ーーグーグルのディープラーニングだとエバンジェリストはあの人、みたいにすぐに名前が出てきますが、マイクロソフトだとそれが無いんですよね。

必要な時に必要な情報を出していない、タイミングが悪いと言う感じですかね。ただ昨年、Microsoft Researchが設立25周年ということでアワードを設けてそのイベントをやった時に日本からもいくつかの大学から参加していただきました。その後、参加者の先生からマイクロソフトは量子コンピュータをなかなかしっかりやっているという感想を頂きましたので、もう少し情報発信のほうに力を入れないといけないという気持ちになりましたね。まぁ、期待していてください、近々AI関連の大きな発表も予定していますので。

※インタビュー収録後に発表された「Microsoft Translator」に関する参考記事: http://cloud.watch.impress.co.jp/docs/news/1053976.html

元アイ・ビー・エムということで情報システム全般から深層学習、機械学習、量子コンピュータまで幅広い知識を持っている榊原氏。余談として昨年、かつてサン・マイクロシステムズのCEOとしてマイクロソフトと敵対していた当事者であるスコット・マクニーリーと食事をした際に「今のマイクロソフトはすごく良くなった」と褒められたエピソードを教えてくれた。シリコンバレーではオープンソースなマイクロソフトという定評がある、という現れだろうか。今のマイクロソフトが抱える課題についても率直に語ってくれた。マイクロソフトの深層学習について日本での活動に期待したい。

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著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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