クラウドとBI
SaaSがBIに与える影響とその事例
Salesforce.comに代表されるSaaSは、最終的なアプリケーションをサービスで提供するものです。そのため、現時点ではBIシステムに対する影響は少ないと言えます。なぜなら、これまでのBIシステムは、基本的には開発環境であり、定まった形式を持ったレポートやダッシュボードといった最終的なアプリケーションが製品として提供されているわけではないからです。
しかし、将来的に見ると、OSSと同様、あるいはそれ以上のコスト・メリットを持つSaaSが、より規模の小さい企業にとって選択肢となる可能性が高いと考えられます。その1つの方向性が、特定の業務アプリケーションのデータを対象とした分析レポートの標準的なテンプレートを付加価値とする、BI的なSaasサービスです。このようなサービスは、規模の小さい企業にとって、コスト面だけではなく、自社内では難しい分析レポートの開発といった作業を、標準機能として入手できるというメリットがあります。
実際に、Salesforce.comのデータを前提に、定型的なレポートやダッシュボードを提供するベンダーも現れています。その例の1つが、2010年3月3日に野村総合研究所が発表した「OpenStandia/BI for Salesforce CRM」です。このサービスは、Salesforcom.comのサービスを利用している顧客が、このサービスを付加的に利用することで、商談状況といったデータをBI的に分析し、レポートを作成することを可能にするものです。
このサービスでは、データベースとしてMySQLが、BIツールとして米Jaspersoftの「JasperReports」(コミュニティ版)が使用されています。また、サービスそれ自体がクラウド上に存在し、別のクラウド(Salesforce CRM)と組み合わさることで、完全なクラウド利用サービスとなっています(図3)。
前ページで「現時点でのForce.comのようなPaaS環境は、キー・バリュー型データベースを使用しているがゆえにDWH環境の構築には適さない」と話しましたが、このことはForce.com上に構築されたSalesforce.comにも当てはまり、Salesforce.comが持つデータをDWH環境に蓄積してBI的な分析やレポート作成を行うことが難しいことを意味しています。
OpenStandia/BI for Salesforce CRMの場合、独自のDWH環境とBIアプリケーションをIaaS上に構築し、それをSaaSとして提供することで、このSalesforce.comの弱点を補強し、サービスとしての価値を生み出しています。
まとめ
最終回の今回は、今後、BIシステムに最も大きな影響を与えるであろうクラウド・コンピューティングの技術と、その影響を受けて変化するであろうBIシステムの将来について説明しました。しかし、今回の説明の内容からも分かるように、クラウド・コンピューティングがBIに与える影響は、現時点では、はっきりと見通せる状況にはありません。
しかし、この連載の前半、第1回や第2回で説明した通り、C/S型から3層型への変革に伴って発生したITアーキテクチャの大変革は、BIの世界にも多大な影響を与えました。今回のクラウド・コンピューティングがIT業界全体に大きな影響を与えると予想されている以上、BIの世界がその範囲の外になるとは到底考えられません。
ここ数年間でBIの世界は、メガベンダーによる大手BIベンダーの買収という、どちらかといえばビジネス的な大変動の時期を経てきました。しかし、これでいったん落ち着くかに見えたBIの世界も、再び、大変動の時代の初期に差し掛かっているのではないでしょうか。