PivotalとGoogleによる「クラウドネイティブのススメ」

2017年10月11日(水)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
PivotalとGoogleがクラウドネイティブなアプリケーションを推進するためのイベントを開催した。

オープンソースソフトウェアのPaaSのマーケットリーダーであるCloud Foundryを展開するPivotalと、クラウドコンピューティングではAmazon、Microsoftとともに先進的なプラットフォームを展開するGoogleが共同で「クラウドネイティブなシステムを実現するための啓蒙活動」として「Cloud-native Roadshow」を開催した。これはグローバルなマーケティングプログラムとしてPivotalとGoogleが開催しているもので、全米各地、ソウル、東京、香港、パリ、アムステルダム、ミュンヘンなど世界25ヶ所で開催されている1日のセミナープログラムだ。東京では、六本木ヒルズにあるPivotalの日本オフィスのイベントスペースを使って2017年8月25日に実施された。

そもそもGoogle自身がGoogle App Engine(GAE)というPaaSを提供しているのに、なぜ今、Cloud Foundryと一緒にクラウドネイティブなアプリケーションを推進するプロモーションを開催するのか? という疑問を持つ読者もいると思われる。セミナーのプログラムを俯瞰した上での感想になるが、現状ではあまり話題に上らなくなったGoogle謹製のPaaSであるGAEよりも、エコシステムを拡大し続けるCloud Foundryとタイアップしてクラウドに合ったアプリケーションを訴求したほうが、究極的にはGoogleの目指す信頼性の高いクラウドへの移行が早まるという狙いがあるのではないかと感じた。今回のセミナーシリーズには、営業的なリード獲得の目標は設定されていないそうだ。そのことから、とりあえずセミナー開催回数の達成と予算消化のために、3人のエンジニアを25ヶ所に派遣する企画をやってみたのでは? というようにとらえるのは、少々意地の悪い見方だろうか。

イベントではまずPivotalのCameron Stewart氏が登壇し、デジタルトランスフォーメーションの必要性を簡単に紹介した。Stewart氏は金融大手であるJPモーガンチェイスのコメント「シリコンバレーがウォールストリートにやってきて、オレたちのランチを食べようとしている」、つまり金融の世界にもソフトウェアがこれまでのビジネスを破壊的に変革しようとしていることを紹介、しかし「Pivotalもシリコンバレーの会社ですが、私たちは自分が食べるランチは持っていきますよ」と笑いを誘った。「シリコンバレー」は場所を表すのではなく、ソフトウェアに対する姿勢を表していると語り、全ての企業がソフトウェアを戦略的に使って自身で変革を成し遂げなければならない、そのための方法論の一つがクラウドネイティブなシステムであると解説した。

PivotalのCameron Stewart氏

PivotalのCameron Stewart氏

次に登壇したのは、GoogleのCasey West氏だ。最近、PivotalからGoogleに転職したというWest氏は、Googleが考えるクラウドネイティブの定義、意味するところなどについて解説を行った。West氏は、クラウドネイティブをアーキテクチャー、プロセス、カルチャー、プラットフォームの4つに分けて説明した。

GoogleのCasey West氏

GoogleのCasey West氏

アーキテクチャーに関しては、アーキテクチャーの特性がオペレーションの成熟度を決めてしまうこと、プロセスにおいてはマイクロブルワリーにおけるビール醸造の工程を例に挙げて、スモールバッチ(小さな単位で生産すること)によって品質が保たれることなどを説明した。またカルチャーについてはGoogleのエバンジェリストであるKelsey Hightower氏のコメント、「DevOps is group therapy for inefficient tools(DevOpsは使い勝手の悪いツールのためのグループセラピー)」を紹介し、会場から笑いを誘った。またSREについても「SREはソフトウェアエンジニアに運用をデザインさせた時に必然的に起こる結果である」というSREのファウンダーのコメントを紹介することで、カルチャーもしくは考え方としてGoogleの言うDevOps、SREの意味を紹介した。

プロセスはより細かい単位で実行するべき

プロセスはより細かい単位で実行するべき

そしてプラットフォームについては、ダイナミックなDNSやルーティング、ロードバランサー、サービスディスカバリー、自動化、ヘルスモニタリング、リポジトリー、ログの集中管理などを個別に紹介し、その実現の形としてPivotalのCloud Foundryを位置付けた。

Googleの考えるクラウドネイティブなプラットフォームの例

Googleの考えるクラウドネイティブなプラットフォームの例

スライド(上述の写真)の中で、インフラストラクチャーに当たる部分にVMwareが表示されているが、実際にはGCPでもOpenStackでも良いと説明した。つまりインフラストラクチャーへのアクセスはオープンなCloud Provider Interfaceを通じてCloud Foundry Operation Managerから実行、より上位のアプリケーション実行環境への実装などはBOSHを利用し、クラウドネイティブなアプリケーションの開発環境としてはSpring Bootを使ってPivotalが推進する12ファクターアプリケーションを開発する。これが今回のロードショーで推奨されるクラウドネイティブアプリケーション実装環境であるというものだ。

また開発の一環として、Pivotalがオープンソースソフトウェアとして開発を進めているConcourseも紹介され、パイプラインベースの開発工程がアジャイルなスタイルにマッチしていることを強調した。

CIツールとしてConcourseを紹介

CIツールとしてConcourseを紹介

昼食を挟んだのち行われたのは、今回のイベントのスポンサーでもあるSolaceのカントリーマネージャーである山口智之氏の講演だ。Solaceは、メッセージングやデータ統合などのソリューションを展開するカナダの企業だ。今回は自社ソリューションの紹介のために、Pivotal Cloud FoundryとGCPを使ってスマートフォンを車両に見立ててコネクテッドカーからのデータ収集と可視化を行うデモを実施した。GCP上のSolaceのメッセージルーターが、大量に発生するデータをリアルタイムに処理する様子を紹介した。

Solaceのジャパンカントリーマネージャー、山口氏

Solaceのジャパンカントリーマネージャー、山口氏

デモの詳細は以下のリンクを参照されたい。

Tracking the Movement and Maintenance of Connected Cars

最後に再度登壇したCameron Stewart氏は、クラウドネイティブなシステムの代表例としてNetflixを紹介。

Netflixでも使われているSpring BootとCloud Foundry

Netflixでも使われているSpring BootとCloud Foundry

ここでは大規模な分散システムを冗長化するためのオープンソースソフトウェアのライブラリ、Hystrixを紹介した。巨大なシステムであってもマイクロサービス化することで、障害時の影響を最小限に留めておくためのアーキテクチャーがクラウドには必要であることを強調し、そのためのプラットフォームとしてCloud FoundryとGCPが最適であると言うのが、最後に伝えたかった内容であろう。

今回のコンテンツは全て英語と同時通訳、スライドも全て英語という世界を回るロードショーにはありがちな形式ではあったが、ムービーではない実際のデモ、開発過程の実行、NetflixのHystrixの紹介など、参加したエンジニアには有意義な一日だったのではないだろうか。Cloud Foundryと比べるといまひとつ注目されていないSpring Bootを知るきっかけにはなったのではないだろうか。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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