PostgreSQLのEnterpriseDB、リーンなビジネスでオラクルマイグレーションを推進
2016年2月18日、オープンソースのRDBであるPostgreSQLの商用版を販売するEnterpriseDB(日本法人、エンタープライズDB株式会社)は年次のイベントである「EnterpriseDB Summit Tokyo 2016」を都内で開催、キーノートに登壇したEnterpriseDBのセールス担当VP、Graham Pullen氏(VP of Asia Pacific & Japan Sales)とエンジニアのMark Jones氏(Principal Engineer)に話を聞いた。
カンファレンスの冒頭では日本法人であるエンタープライズDB株式会社の代表取締役社長、藤田祐治氏が挨拶に立った。ここで2月から始まる新しいライセンスについて説明が行われた。これまでのCPUのソケット単位での価格体系からCPUに含まれるコア数、更に仮想化やコンテナーでの利用を想定したものに変更されるという。
これに関しては、昨年改定されたオラクルのデータベースのライセンス、Standard Edition 2の制限が従来のライセンス(SE、SE1)から制約がより厳しくなっている状況に対してのEDBからの回答という意味合いもあるのだろう。オラクルからのマイグレーションがEDBのビジネスの約半分を占めるという状況からすると小さな規模でオラクルのデータベースを使っている既存顧客に対してはより魅力的にみえると思われる。
その後のキーノートに登壇したのはグラハム・プレン氏だ。プレン氏はエンタープライズにおけるIT予算の更に縮小し、よりコストを下げる方向に向かっていることを説明した後、ガートナーの調査結果を元にオープンソースのDBMSが2009年から商用のDBMSと比較して機能やエンジニアの数などを比較しても遜色のないものに成熟してきたことを紹介。前職はOpenTextのセールスVPだったプレン氏だが、オープンソースのユーザーにとっての「コストが安いのは結構だがノンサポートは受け入れがたい」という部分がEnterpriseDBの成長のキーであることを強調したプレゼンテーションであった。
次に登壇したマーク・ジョーンズ氏はEnterpriseDBを活用した事例に関して紹介。かつてオラクルデータベースのトレーナーであったジョーンズ氏はヨーロッパで主にプリセールスやトレーニングなどに従事しているという。ヨーロッパでは既に高価なオラクルからPostgreSQLへの移行は止められない動きであり、これまでのミッションクリティカルなシステムはそのままオラクル、それ以外をコスト削減の目的でオープンソースにマイグレーションするというものからミッションクリティカルなアプリケーションですらオープンソースのDBMSに移行しつつあるという。その他、最新情報としての新機能などを紹介した。
その後、プレン氏とジョーンズ氏にインタビューを行った。主な質疑応答は以下の通り。
--アジアパシフィックを担当するセールスのVPとしてメルボルンにおられるグラハムさんと今回はイギリスから初めて来日されたマークさんですが、昨年、マーケティング担当のキース・アルシェイマー氏のインタビューから約1年が経ちました。この1年でのEnterpriseDBのビジネスのアップデートをお願いします。
2015年4月のインタビュー記事:https://thinkit.co.jp/story/2015/04/21/5711
プレン:私は日本を含むアジアパシフィックのセールスを担当していますが、ビジネスは順調に成長しています。今のところはオラクルからのマイグレーションとそれ以外の新規のアプリケーションでの利用がだいたい50%づつという感じです。
ジョーンズ:実際にあらゆる場所でデータベースの管理者と話をするとものすごい量の質問を受けます。どれもオラクルにかかっているコストを削減するためにどうしたら良いのか?どうやってマイグレーションするのか?に関してです。オラクルでなければならないアプリケーションもありますが、PostgreSQLは進化していますので、スケールアウトしたい構成をとりたければ、シャーディングも可能ですし、JSONのデータも扱えます。そういう意味ではこれまで以上にオラクルからの乗り換えは進むと思います。
--去年のインタビューでは東京のオフィスはまだレンタルオフィスでしたが、それは相変わらずですか?
プレン:それはそのままですね(笑)EnterpriseDBは全体で約250名ほどの社員となっていますが、我々のビジネスにおいては大きなオフィススペースを用意する必要はそれほど無いように思います。実際に私はメルボルンでマークはイギリスですしね。大きなオフィスがなくてもビジネスは進められます。
ジョーンズ:現在、イギリスには25名ほどのスタッフがいますが、そのほとんどはエンジニアでヨーロッパをプリセールスやトレーニングなどのために飛び回っています。こういう風に日本にも呼ばれれば来ますけどね(笑)実際にはイギリスの拠点にはセールスよりもエンジニアのほうが多いのです。
プレン:特にセールスのためにはガートナーのマジック・クアドラントのリサーチ結果が大いに役に立っています。オープンソースのRDBでは我々が最も高い評価を得ていますので、特に大きな予算を宣伝のために使わなくても問題は無いと思っています。
--ソフトウェアのアップデートの件について、先ほどのキーノートでは1年に1回の大きなアップデートということでしたが、最近のオープンソースソフトウェアの例ではOpenStackが半年に1回のアップデート、Sparkは3ヶ月に1回のアップデートです。EDBはそれでも1年に1回なのですか?
プレン:我々が世界中のCIOなどと話をする中では1年に1回のアップデートで良いというのが結論なのです。実際に稼働しているシステムを止めたくないというのがその理由であるように思われます。
ジョーンズ:ただし、セキュリティのアップデートやパッチなどが発生した場合は即座に対応するようになっています。
--今後のEnterpriseはDBが成長をするにあたってどのような領域を狙っているのかを教えてください。
プレン:日本は我々のビジネスの中で昨年比50%の成長を成し遂げている国なので、より大きな案件、エンタープライズサイズの企業での案件を達成することを期待しています。日本は今4名ですが、これから数人増やす予定です。そしてパートナーと協力してもっとPostgreSQLを推進していこうと思っています。注力するポイントは3つあります。最初はもちろんパートナー。パートナーはEDBの中でも非常に重要なのです。クラウドへの対応も非常に重要な方向です。その意味ではGoogleもAmazonも非常に需要なパートナーです。それらのプレイヤーは競合ではなく新しいビジネスを拡げることが出来るチャンスだと思っています。最後のポイントは政府機関ですね、イギリスを始めとしてオープンソースソフトウェアを選択する場合には必ずサポートを行わなければならないという規則がある場合に、EDBが提供できる価値は評価されるでしょう。その3つのポイントに注力しながら、ビジネスを推進していくつもりです。
質疑応答の中でプレン氏からは「日本でのPostgreSQLのコミュニティについてどう見えているのか、教えてくれないか?」と質問された。日本ではコミュニティとしてJPUGがあるが、昨今のHadoopやSparkなどの盛り上がりに比べて見劣りがすると言わざるをえないというのが正直なところだった。RDBが既に枯れた技術でビッグデータなどの非整形データおけるイノベーションに比べて新しいソフトやニュースが少ないのもその影響だろう。プレン氏は次のイベントにはPostgreSQLを開発するPostgreSQL Global Development GroupのCo-Founder、PostgreSQLの生みの親とも言えるBruce Momjian氏を呼ぶべきと提案してくれた。実際に今後のPostgreSQLの方向性を見据える上ではアーキテクチャーを考える主要な人物に話を聞くのが最短距離だろう。
Brouce Momjian氏の過去の名刺がインターネットで公開されているが、日本のSRAとも深い関係にあるようだ。次回の来日の際にはぜひインタビューしてPostgreSQLの将来構想を聞いてみたい。
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