普段の仕事では得られない、新しい知見や発見がある。キャリアアップにもつながる。開発者なら「DevRel」をはじめよう!

2020年2月7日(金)
中津川 篤司

「DevRel」を知っていますか?

「DevRel」(デブレル)という言葉を聞いたことはありますか。ここ数年、私が懸命に広めようとしている単語です。DevRelは「Developer Relations」の略で、開発者と良好な関係を築くためのマーケティング手法です。ここで言う「良好な関係を築く」相手は、例えば開発者向けのサービスを提供する企業とその製品です。有名なところではGitHubやMicrosoft、IBM、Apple、Google、Facebookなどでしょうか。日本企業ならばLINE、さくらインターネット、SORACOMなどがDevRelを行っている会社として有名です。

なぜDevRel(開発者との良好な関係)が大事なのか。その理由とても簡単です。開発者が魅力的な製品やサービスを作ってくれることが、企業にとって自社の製品やサービスを輝かせることにつながるからです。iPhoneやAndroidを例に考えてみます。スマートフォンやタブレットを使いたいと思う理由は、InstagramやLINE、ポケモンGoといったアプリを使いたいからではないでしょうか。スマートフォンに魅力的なアプリが入っていなければ、使いたいと思う人などいないはずです。

では、それらのアプリをすべてAppleやGoogleが開発できるのかと言えば、答えは「ノー」です。アプリストアには数百万を超えるアプリが登録されており、すべて1社で作り上げることなど不可能です。そこで開発者にアプリを販売できる環境(プラットフォーム)を解放し、アプリを作ってもらうのです。そのとき、自分たちのプラットフォームがいかに魅力的で、開発ツールが使いやすく、開発者の制作意欲を刺激できるかが問われるのです。そのための活動がDevRelです。

最近では開発者向けの企業イベント(カンファレンス)が数多く行われています。AppleのWWDC、GoogleのGoogle I/Oをはじめ、f8(Facebook)、GitHub Universe、Unite(Unity)、AWS Summit(AWS)、Think(IBM)、de:code / Microsoft Ignite The Tour(Microsoft)などはグローバルに行われていますし、国内にもCookpad TechConf、LINE DEVELOPER DAY、Rakuten Technology Conferenceなどのカンファレンスがあります。こうしたカンファレンスを通じて開発者に情報を届け、自社や自社サービスの魅力を伝えているのです。

Facebookのテックカンファレンス「f8」の様子

なぜ開発者なのか

数年前、「ITエンジニアが不足する」というニュースが世間で飛び交っていたことは記憶に新しいかと思います。最近では、ITエンジニアの中でもAI技術者が不足すると言われています。GAFAが世界中の開発者を囲い込んでおり、日本企業からの転職が度々話題に上がったりしています。エンジニアは自分たちのプラットフォーム上で動くソフトウェアを作ってくれるだけでなく、自分たちの製品をも魅力的にしてくれる存在ですが、エンジニアの人口は限られており、その争奪戦に勝ち残る上で開発者との良好な関係性は特に重要になると言えるでしょう。その観点で見れば、DevRelを重視すべきなのは開発者向けにサービスや製品を提供している企業だけでなく、開発者を雇用したい企業にとっても同じことになります。

開発者と一般消費者の違いは、開発者は直接の利用者であると同時に、さらに先にいる消費者に向けて製品を作る存在でもあることです。“ソフトウェアが世界を飲み込む(Why Software Is Eating The World)”という言葉が出てきたのは2011年頃ですが、その頃からスマートフォンアプリやWebアプリケーションなどを通じて、世界中のあらゆるサービスがソフトウェア化されています。プログラミングでは難しかった領域もAI、機械学習によって達成されるようになりました。そうした新しい仕組みを作り、実現させているのは開発者の力なのです。

ハッカソンの様子

そのため、DevRelを通じて開発者に自分たちの製品を認知してもらい、使ってもらうことが重要になっています。今、世界中にWebサービスやハードウェアが多数ありますが、それらをすべて使いこなすのは難しいでしょう。開発者は自分が知っているもの、人から聞いたもの、ブログ記事で読んだものなど、見聞きしたものを使ってやりたいことを素早く実現します。DevRelを行っていなければ開発者の記憶に残らない、つまり使ってもらえないサービスになってしまいます。

DevRelで主に行うこと

DevRelに携わる職種は実に多彩です。例えばアドボケイト、エバンジェリストなどがあります。日本で有名な方で言えば、日本マイクロソフトのちょまどさんや寺田さん、日本IBMの戸倉さん、LINEの櫛井さん、SORACOMの松下さんなどがいます。彼ら彼女らの主な仕事はイベントでの登壇やブログや雑誌での執筆、ハンズオンやハッカソンでの開発者サポートなどが挙げられます。開発者コミュニティに参加したことがあれば、こうしたアドボケイト、エバンジェリストと呼ばれる方たちが登壇しているのを見たことがあるのではないでしょうか。

Microsoftエバンジェリスト 寺田さんの登壇

また、コミュニティマネージャーと呼ばれる人たちもいます。開発者コミュニティ、特に企業が提供するサービスに関するコミュニティとして有名なものはJAWS UGが筆頭でしょう。全国に支部があり、毎週のようにイベントが行われています。数千人規模で参加者が集まるJAWS DAYSは圧巻のコミュニティカンファレンスです。大規模ではなくても、コミュニティマネージャーとしてユーザグループを盛り上げる立場の方たちは大勢います。

他にもカスタマーサクセスエンジニア(CSE)やソリューションエンジニア、ソーシャルメディア担当、サポートエンジニア、ドキュメントやブログのライター、翻訳担当者などもDevRelに関係する職種です。もちろん、マーケティング担当者のようにオンライン/オフラインを問わず開発者と向き合い、彼らが製品を使ってくれるように促したり、さらに使い続けてくれるようにサポートする人たちもDevRelに関係していると言えるでしょう。

製品やサービスを知ってもらう、使ってもらうのはマーケティングの仕事です。DevRelは多くはマーケティングの部署に組み込まれます(開発部の一部の場合もあります)。日本ではまだまだマーケティングが弱いと言われたりしますが、DevRelによりマーケティングでも開発者の力が必要になってきています。良いものを作っただけでは売れない現代においてマーケティングは必須で、そこに測定する手法であったり、仕組みを作る上で開発者のスキルを活かせる場面が多くなるのは間違いありません。

DevRelの世界を感じてみよう!

私がこのDevRelというキーワードを日本で紹介して、すでに5年ほど経過しています。その中で多くの開発者(開発者以外も)がDevRelの魅力に触れ、転職したり、会社の中にDevRelチームを立ち上げたりしてきました。開発者の新しいスキルとして、DevRelはとても有効なものだと感じています。

今日から始めるのであれば、まず開発者コミュニティに参加してみることです。毎日のように勉強会が行われており、さまざまな開発者が数多く参加しています。普段社内の人たちと会話や仕事しているだけでは得られない知見や新しい発見が必ずあります。自分の仕事に関係する技術、または興味がある技術に関する勉強会があれば、ぜひ参加してみてください。

コミュニティ勉強会の様子

そしてコミュニティに参加したら、そのレポートをブログにアップしてみましょう。発信することはDevRelの大きなきっかけにつながります。自分のブログなので、自分が感じたことを素直に書けば良いのです。公開すれば、きっと誰かが見てくれるはずです。少しでも多くの人たちに見てもらうため、コミュニティ指定のハッシュタグを付けてブログのURLとともにTwitterで発信すれば、イベントに参加した人だけでなく参加できなかった人たちにも読んでもらえるはずです。さらに感想までもらえれば、また参加のモチベーションになるでしょう。

さらに一歩進んで、自分が登壇者になることもできます。20~30分の発表は無理でも、LT(ライトニングトーク)で5分というものもあります。5分であれば、自己紹介をしてTipsを1つ2つ発表するだけです。話が上手な人は笑いをとったりできるかも知れませんが、そんなことは気にしなくても構いません。「こんな話はみんな知っているだろう」という決めつけも必要ありません。「自分の常識は他人の非常識」で、知らない人も大勢います。

もし、あなたが何かのプログラミング言語やフレームワーク、クラウドサービスが好きならば、ぜひそれを他の人に広めてみましょう。いわば非公認のエバンジェリストです。「技術力ないし」なんて思わないでください。まず必要なのは情熱です。「そのサービスが好きだ」「ぜひ他の人に使ってもらいたい」という気持ちこそが大事です。例えばブログを書いたり、そのネタで登壇しても良いでしょう。コミュニティに参加するだけでも楽しいですが、発表側に立つとフィードバックの量が圧倒的に違います。多くの人に「あの話は良かった」「ためになった」と言ってもらえたら、きっとあなたの世界は一変するはずです。

DevRelのカンファレンス「DevRelCon」

DevRelは日本だけでなく、海外でも積極的に行われています。そうしたDevRelに関わる人たちが集まって開催されるカンファレンスが「DevRelCon」です。オリジナルは「DevRelCon London」ですが、他にサンフランシスコや中国、日本でも行われています。私は日本で行われているDevRelCon Tokyoの主催者です。

「DevRelCon Tokyo 2019」の様子(登壇者は筆者)

DevRelCon Tokyoでは、全セッションが英語で行われます。また雰囲気も海外のカンファレンスに似せており、日本にいながら海外カンファレンスの雰囲気を体験できることが特徴です。2017年から開催しており、2020年は2月28~29日に第4回目となる「DevRelCon Tokyo 2020」が開催されます。

スピーカーは、開発者であれば誰でも聞いたことがある企業に所属する方々ばかりです。Google、Microsoft、IBM、Red Hat、Arm、Dropbox、GitHub、Tableau、Cloudflare、Shopify、Twilioなどです。日本からもメルカリや楽天などの方が登壇されます。

日本と海外の違いとして、マーケティングの考え方や雇用とチームマネジメントのあり方、コミュニティがオンライン寄りであるといった点が挙げられます。海外の場合は世界をターゲットにしているため地域コミュニティが国単位になることも多いです。日本のように各都道府県、さらに市町村単位のケースは見かけません。オフラインコミュニティの強さは日本の特徴と考えられますが、マーケティングでは海外の方が2、3歩進んでいる部分も多いので、DevRelConで学べる点は数多くあります。

DevRelに興味を持ったなら…

もしDevRelに興味を持ったなら、ぜひ「DevRel Meetup」に参加してみてください。都内で毎月イベントを行っているDevRelに関するコミュニティです。DevRel全般をテーマとするDevRel Meetupのほか、コミュニティに特化した「DevRel/Community」、英語版の「DevRel/English」、初心者向けの「DevRel/Beginners」があります。自分に合ったものを見つけて参加してください。

「DevRel Meetup in Tokyo」のWebサイト

また、ぜひDevRelCon Tokyoへの参加もお勧めします。1年に1回しか行われないカンファレンスに参加できるチャンスをお見逃しなく。ここでの体験がきっかけでDevRelの道を歩み始めた人たちも大勢います。海外の雰囲気を知ると同時に、ぜひキャリアアップを目指してみてください!

【2/28~29】「DevRelCon Tokyo 2020」が開催!

イベント公式サイト→https://tokyo-2020.devrel.net/

DevRelCon Tokyoは2017年からはじまり、今年で3回目になります。DevRelConはグローバルなカンファレンスとしてロンドン、サンフランシスコ、中国、日本で行われ、各地で毎回規模を拡大しています。DevRelCon Tokyo 2020ではYAPCやbuildersconの主催者で知られる牧さんや、Debian JP Projectの創設メンバーとして知られる鵜飼さん、Women Who Code TokyoのTuttiさんがキーノートをつとめます。さらにGoogle、Microsoft、IBM、Arm、Dropbox、GitHub、Tableau、Cloudflare、Shopify、Twilioなど有名企業の方々が多数登壇します。彼らのDevRelにおける経験、テクニックを学べる唯一無二の機会になります。ぜひご参加ください!

discount code「THINKIT」で11,000円引き!20,000円→9,000円、お申し込みはお早めに。

チケット申し込みページ(割引適用済み)
https://ti.to/devrelcon-tokyo/2020/discount/THINKIT

オープンソース・ソフトウェアを毎日紹介するブログMOONGIFT、およびスマートフォン/タブレット開発者およびデザイナー向けメディアMobile Touch運営。B2B向けECシステム開発、ネット専業広告代理店のシステム担当を経た後、独立。多数のWebサービスの企画、開発およびコンサルティングを行う。2013年より法人化。

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