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  インタビュー

OPNFVのディレクターに訊く「コードを書かないOSSプロジェクトを成功させるためには?」

2017年7月11日(火)
松下 康之
テレコムキャリア向けネットワーク機能の仮想化を目指すOPNFVのディレクターが来日。他とは違うソフトウェアとそれを推進する際のポイント、今後の計画などについてインタビューを行った。

Linux Foundation配下のプロジェクトであるOPNFVはOpen Platform for NFVの略で、主にネットワークキャリアが使うシステムをオープンソースで実装するというのが目標のプロジェクトである。ここで言うNFVは、Network Function Virtualizationである。ネットワークキャリアの基盤システムはこれまで、専用のハードウェアとソフトウェアで実装されてきた歴史があるが、それをオープンソースソフトウェアとコモディティのx86サーバーで置き換えよう、さらに仮想化を使ってより使いやすいシステムを作ろうというのがOPNFVプロジェクトのゴールだ。

今回、そのOPNFVプロジェクトのディレクターであるHeather Kirksey氏が来日。Think ITが単独インタビューを行った。これは東京で開催されたOpen Source Summitと、2017年6月12日から北京で開かれたOPNFV Summitに向かう途中に行われたものだ。

OPNFVのディレクター、Heather Kirksey氏

OPNFVのディレクター、Heather Kirksey氏

自己紹介をお願いします。

私はOPFNVプロジェクトのディレクターとして、OPNFVに関するマーケティングや広報、それにテクニカルな部分についても統括をしています。実際には様々な企業からボランティアという形でスタッフに参加してもらっているので、その人達と協力しながら仕事を進めているということですね。私自身の経歴としては、過去にAlcatel-Lucentでネットワークキャリア向けのシステムを担当していました。プロダクトマーケティングやビジネス開発などもやっていました。Alcatel-Lucentでは特に標準化を進めていました。その時に少し変わったこと、オープンソースソフトウェアに関わることをやりたいと思い、MongoDBに移りました。ここでLinux FoundationのJim Zemlinに出会って、「OPNFVというプロジェクトがあるけど、興味ある?」と誘われたというのが、今のポジションについたきっかけですね。それ以前にもテレコム関係のシステムには関わってきたので、また元に戻ったと言う感じです。

Kirkseyさんのグループには何人ぐらいがいるのですか?

我々のチームはさほど大きくはありません。広報やイベント担当、それにインフラのエンジニア、フリーランスのライターなどが、Linux Foundationの仕事と掛け持ちしながら関わってくれています。

OPNFVのプロジェクトとしての状況は?

OPNFVプロジェクトは、上手く行っていると思います。OPNFVは他のオープンソースソフトウェアのプロジェクトとは少し異なっています。それはなぜかと言えば、OPNFVは主にシステムインテグレーションを行っているからです。OPNFVを構成するOpenStackやOpenDaylight、FD.ioなどのプロジェクトには実際にコードを書くコントリビューターがいますが、OPNFVではコードを書くということではなく、インテグレーションとテストを主に行っています。その中でも特にテストやCI/CDといった部分においては、OpenStackなどのUpstreamのプロジェクトと協調しながら進めています。プロジェクト自体も今回4つ目のリリースを出したことで、かなり成熟してきていると思います。

OPNFVが少し違う、つまりOpenStackやOpenDaylightなどの他のオープンソースを使ってインテグレーションを行うというのは具体的になんなのですか?

具体的に言えばXCI(Cross Community CI)という継続的インテグレーションの部分について説明しましょう。これはOPNFVを構成するOpenStackとOpenDaylight、それにFD.ioのソフトウェアをまとめてインテグレーションするというもので、それを実際に実行して検証する場としてOPNFVのPharos Labというプロジェクトがあります。これはLinux Foundationと協力をしてくれるベンダーが拠点として全世界に設置しているOPNFV検証のためのラボですが、そこで複数のソフトウェアを一度にインテグレートして、不具合や互換性などの検証を行います。OpenStackやSDNコントローラーであるOpenDaylightやONOS、OpenContrailなどを実際にデプロイしてみて、動作を確認するわけです。

OpenStackもOpenDaylightもかなり複雑なソフトウェアだと思いますが、それを一度にインテグレーションするのですね? それはなかなか野心的というか勇気の必要なプロジェクトのように思えますね(笑)

確かに全てというのは野心的だったかもしれません。最初にこのアイデアをOpenStackの人たちに話した時は「なんでそんなことをするんだ?」と理解されませんでしたが、その必要性を説明した後は理解してくれましたよ。これは完全に繋がったCI/CDパイプラインで、全てがJenkinsで構成されたジョブになります。XCIの目指すところは、ラボに存在する複数のハードウェアがそのジョブに合わせてダイナミックにリソースを使えるようにするところです。さらに言えば、このラボの利点は様々なベンダーがインテルのサーバーからARMのサーバーまで、多様なシステムを検証できるというところでしょう。OpenStackからOpenDaylightそれにFD.ioまでインテグレーションしようとするとかなり時間がかかりますので、これをDevOpsのスタイルでCI/CDを実行できるというのは、テレコムキャリアにとっては非常に有意義であると思います。

様々な構成を検証できるというのは第一段階としては必要でしょうが、実システムで使おうとすると今度は性能についても気にかけることになりますよね? 性能に関してはどうやって検証するのですか?

OPNFVの中にはテストや性能評価を包括的に実行するためのYardstickというプロジェクトがあります。これはETSI(European Telecommunications Standards Institute)の標準に準拠したネットワーク機能の性能を評価するためのもので、そのプロジェクトの下で様々なテストを行うツールが開発されています。例えばストレージの性能を測るStorePerf、仮想スイッチの性能を測るVSperf、より新しいものではNFVbenchなどの様々なツールが開発されています。

OPNFVにとってのチャレンジとはなんですか?

ひとつはコアの部分についてはコードを書かずに他のオープンソースソフトウェアのインテグレーションを行うという立場なので、他のオープンソースソフトウェアのメンバーに対してOPNFVが必要であるということを納得してもらうことですね。特にOpenStackなどのコミュニティにとっては、テレコムキャリアというちょっと違う使い方の人からいきなり「こういう機能を実装してくれ」と言われても通じないことがありますから。そういう場合には、すでにあるコミュニティにとって理解できるやり方でコミュニケーションを取らないといけないと思います。これは過去のOpenStack Summitであったことですが、テレコムキャリアの人たちが集まるミーティングにOpenStackのコントリビューターがやってきて「この人達はなんで英語を話していないんだ?」とコメントしたことがあります。つまり英語で話しているのに、略語が多くて理解できなかった(笑)ということなんですけどね。

確かにテレコム業界にはものすごく多くの4文字の略語が存在して、他の業界の人から見れば理解できないことが多いんですよね。

過去にOPNFVとOpenStackのエンジニア間でコミュニケーションがうまくとれなかったこともありますが、今はだいぶ良くなったと思います。

将来の計画を教えてください。

OPNFVを構成するソフトウェアのCI/CDをより進めることと、他のツールを充実させることですね。分析の機能としてはPaNDAというプロジェクトが立ち上がっています。他にも色々なプロジェクトが並行して動いており、これからもOPNFVは進化していくと思います。またテレコムキャリアは、DevOpsというかアジャイルな開発に慣れていない企業がまだまだ多くあります。そういう人たちにも、このOPNFVを構成するオープンソースソフトウェアのアジャイルな開発スタイルを理解して使ってもらいたいですね。例えばFD.ioからは一日になんどもパッチの情報が流れています。それぐらいアジャイルにソフトウェアの開発を行っているのです。OpenStackもOpenDaylightも同様で、非常に素早く開発と実装を行うというスタイルですよね。それをどんどん拡げていければと思います。

短い時間の中でOPNFVについて的確にアップデートを行ってくれたKirksey氏だった。OPNFVが目指すところの一つの例としてはOPNFVとOpenStackを使ったフェイルオーバーのデモ、これはOpenStack Summit Barcelona 2016のキーノートで行われたものだが、それが参考になるだろう。これはモバイルネットワークのコアの機能を実行中のサーバーのケーブルを切断しても通話が切れないというフェイルオーバーの機能をOpenStackとOPNFVのDoctorというモジュールが実装したもので、NECとドコモの協力が大きかったという。

OpenStackとOPNFVのOpenStack Summit Barcelona 2016でのデモ
Demo: OpenStack and OPNFV - Keeping Your Mobile Phone Calls Connected

OPNFVが成功するかどうかは、他のオープンソースソフトウェアとの連携と複雑なソフトウェアの自動化、それにテストや性能評価、分析など周りのソフトウェアの充実がポイントだろう。今後のOPNFVにも注目していきたい。

フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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