台湾のOpenStackインテグレーターのinwinSTACK、日本でのビジネス展開を語る
OpenStack Summitは半年に1回開かれるOpenStackのカンファレンスだが、昨年のTokyo Summitや今年のAustin Summitで目についたのが、台湾から参加しているベンダーの多さだ。日本のNECや日立、富士通、NTTなどに混ざって多くの台湾のベンダーがブースを構えて売り込みを行っていた。中でも今年からOpenStack Foundationのゴールドメンバーに加入したinwinSTACKは、2016年8月29日に都内で開催されたオープンソースの分散ストレージソフトウェア、Cephのコミュニティイベント、「Ceph Day」にも参加して存在感を示していた。そこで、inwinSTACKでAPAC地域を担当するJimmy Kao氏(Director of Business Development)に、台湾におけるOpenStackの概要、顧客ニーズの変化、それに日本市場でのビジネス開発についてインタビューを行った。
まず簡単に自己紹介をお願いします。
Kao氏:inwinSTACKは、約3年前にOpenStackについて本格的にビジネスとして取り掛かりました。その頃、台湾でOpenStackについて知っている人は、きっと50名くらいだったと思います(笑)。しかし我々は早くからOpenStackに注目していまして、2014年に台湾で初めてOpenStack Dayを企画して実施しました。2015年にも同様のイベントを開催しました。この2015年のイベントには、700名を超える方が参加してくれました。このように、OpenStackは台湾でも急速に注目を集め始めていると思います。2016年の3月には、台湾で世界初のOpenStackハッカソンを行いました。これにはOpenStack Foundationのメンバー、ジョナサン・ブライスも来てくれて、大変盛り上がりましたね。会社としてはinwinグループの一員で、2013年に創立しました。OpenStackと分散ストレージであるCephに特化したソフトウェアの開発とインテグレーションを行っています。
そのハッカソンの優勝者が、OpenStack Summit Austinで紹介されて登壇したチームですね。
Kao氏:そうですね。あの時にも台湾としての盛り上がりを感じてもらえたと思います。
inwinSTACKは台湾発のOpenStackとCephに特化したシステムインテグレータということですが、OpenStackに注力しているのはなぜですか?
Kao氏:最大の理由は、台湾の企業のソフトウェア、ITインフラストラクチャーに対する見方が変わってしまったということですね。VMwareやMicrosoftなどのプロプライエタリなソフトウェアはこの先、袋小路に入ってしまって将来性がなく、行き止まりになっており、オープンソースソフトウェアにこそ未来があると考え始めている企業が多いということです。興味深いことに、我々のOpenStackの最初の顧客は銀行でした。彼らから見れば、自社の中にクラウドインフラストラクチャーを構築する際の選択肢としては、OpenStackが最も適していたということです。
台湾国内における我々の顧客は、一部の大企業と非常に多くの中小企業。そして政府や公共機関になります。エンタープライズだけではなく中小の顧客においても、クラウドは無視できない流れになっています。ですので、台湾で得たインテグレーションやユースケースは、日本においても有効なはずです。それらの経験を活かして、日本でもビジネスを拡大したいと思っています。
銀行が最初のOpenStack導入事例というのは非常に興味深いですね。日本などではNTTなどのテレコムキャリアなどが先行していますが。
Kao氏:それは私たちもちょっと想定外だったのですが、台湾のテレコムキャリアは意外と保守的なようです。OpenStackやCephのようなオープンソースソフトウェアがもてはやされている背景には、もう一つ大きな理由があると思っています。それはUberやAirbnbのように、これまでの事業経験を全く持っていないベンチャーが既存のビジネスを脅かしているという状況を理解しているということです。UberやAirbnbはソフトウェアでビジネスを実現していますし、その力で既存の企業のビジネス領域に進出しているということですね。
この状況を体験している台湾の企業は、もはやプロプライエタリなソフトウェアでは差別化が難しいということに気がついてしまったように思えます。我々は、かつてVMwareのリセラーをしていた経験があります。当時はシステムインテグレーターから顧客に対して「このようなシステムを作りましょう」と提案していたんですが、最近は顧客のほうから「このようにクラウドを作りたい」と言ってくるようになりました。オープンソースソフトウェアであれば、顧客も自ら情報を得てシステムを設計することができるのです。
そしてさらにもう一つ、台湾では日本とは異なる点があります。それは、パブリッククラウドサービスが日本ほど使われていないということです。特にAmazon Web Serviceはほとんど使われていません。ですので、パブリッククラウドよりもプライベートクラウドを先に作ろうとする時に、OpenStackが選ばれるということではないかと思います。
AWSがあまり使われていないのは興味深いですね。どうしてでしょう?
Kao氏:AWSは、台湾では公共の駐車場のようなものとみなされているからかもしれませんね。駐車場でなにか盗難や事故があっても、自分でなんとかしなければいけません。そんなところに、自分の大切なランボルギーニは停めないでしょう(笑)? あと日本の方はアメリカの企業が作った製品やソリューションに対して信頼があるが、台湾の人はそうでもない、という感覚的なことかもしれません。
これからのビジネス展開について教えてください。
Kao氏:台湾でのOpenStack導入を進めていくことは、これまで通りやっていきますが、日本でもパートナーを作ってビジネスを拡げていきたいと考えています。我々は非常に素早く判断して行動に移せますので、そのスピードを武器にしたいと思っています。あと日本のお客さんはサポートの質に対してとても高い要求があるので、日本に拠点を作り、日本人のサポート担当を用意することも考えています。日本の企業とのジョイントベンチャーという形になるかもしれません。そのために当初は、利益をあげることより、まずは事例を作ってそれを横に拡げていくことを優先してやっていくつもりです。
それと日本で2015年にOpenStack Summitが開かれたように、いつか台湾でもOpenStack Summitを開きたいと思っています。OpenStackの「M」のリリースは「Mitaka」というように日本の地名から取られていますよね? 「T」のリリースはまだだいぶ先になりますが、「T」のリリースが行われる時にはぜひ、台湾由来の名前のリリースにして、同じ年に台湾でOpenStack Summit Taiwanを開きたいというのが将来の計画です。inwinSTACKはOpenStack FoundationのGoldスポンサーなので、Foundationにも働きかけていきたいと思っています。
OpenStackコミュニティにおけるinwinSTACKは、単にFoundationのスポンサーであるだけではなく、実際に30名を超えるコントリビュータを抱え、トップ20以内にランクされる貢献を行っているという。またCephに対しても、アプライアンスをいち早く市場に投入するなど、日本の大企業よりもはるかに迅速な行動力を見せつけている。今後の日本でのビジネス展開の鍵は、日本市場で信用のあるパートナーをいかに獲得するか? にかかっているだろう。
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