SQL Server on Linuxをエンタープライズで活用するためのセミナー開催
Linuxにも対応した最新バージョンSQL Server 2017を実際のシステムに導入するためのセミナー「データ戦略をドライブする新たな選択肢「SQL Server 2017 on Linux」が、1月30日に開催された。
セミナーではSQL ServerのプログラムマネージャーのTravis Wright氏がSQL Server 2017の詳細を解説した。また、日本ヒューレット・パッカード(HPE)のハードウェア、レッドハットのOS、インサイトテクノロジーのレプリケーションソフトと、SQL Server 2017 on Linuxを組み合わせたシステム構築が語られるという、実システムへの導入を意識したものとなった。そして各社から、検証や移行のためのキャンペーンが紹介された。
SQL ServerからAzureまでMicrosoftのデータプラットフォーム
最初のセッションでは米MicrosoftのJack Tang氏(Director, WW Data Platform Solution Sales Lead)が、SQL Serverを含むMicrosoftのデータプラットフォームの特徴や背景、事例などを紹介した。
Jack氏は、データの量が劇的に増え、2020年には世界で44ZBになるというデータなどを紹介。そしてデータとクラウドからAIが作られるとし、「まずはデータがなくてはならない」とその重要性を語った。
ここでJack氏は企業がSQL Serverによりコストを削減して利益を増やせると主張し、企業の導入事例を紹介した。EコマースのJet.comは、Azure上でSQL Serverを動かすことで、ピーク時に対応できるようにしたほか、オペレーションコストを下げて競争力を強めたという。そのほか、電子署名のDocuSignと、Honeywellのビルの温度管理の事例などを挙げて「3社の共通点は小売や製造業であることで、テクノロジーでビジネスしている」と語った。
続いてJack氏は、データ資産管理をオンプレミスとクラウドの2つの領域に分け、オンプレミスにSQL Serverを、クラウドにAzure Data Servicesをあてはめた。そして、両者の間をコード変更なしにリフト&シフトできることを説明した。
まずオンプレミスのSQL Serverについては、4年連続でガートナーのマジッククアドラントのリーダーに選ばれていること、TPCのベンチマークで上位を占めていること、あらゆるデータに対するT-SQLクエリなどの特徴を挙げた。
そして、SQL Server 2017の新機能として、グラフデータへの対応、RとPythonへの対応、ネイティブのT-SQLスコアリング、アダプティブクエリ処理、クロスプラットフォームの冗長化などを紹介した(SQL Server 2017についてはこちらのインタビュー記事でも詳しく解説している)。
ここでSQL Server 2017のR対応の事例として、航空チケットのPROS社が紹介された。Rによるインサイトをアプリケーション側ではなくデータベース側に組み込むことにより、10倍の速さを実現し、カスタマーサービス向上とアジリティにつなげたという。
もう一方のクラウドについては、Azureにはコアとなるデータベースだけでなく、それを活用するためのさまざまなサービスが集まっていることを特徴とし、IoT Hubや、データレイク、HD InsightやSparkの分析基盤、SQL DatabaseやCosmos DBなどの各種データベースなどを紹介した。
事例としてはクルーズ船のCarnival社が、船内の飲み水の消費量を正確に予測するためにAzureのCortana Intelligenceサービスを使い、年間で1隻あたり20万ドルのコストを削減したことが紹介された。
SQL Server 2017をプログラムマネージャーが解説
SQL Serverのプログラムマネージャーである米MicrosoftのTravis Wright氏は、SQL Server 2017の新機能などの技術面を解説した。
SQL Server 2017の特徴として、Travis氏はまずLinux対応に力を入れたことを挙げた。その技術的な背景としては、SQL Server 2015で、OSの機能をSQL Serverの中に入れた「SQL OS」を採用したことを紹介し、それ以来Windowsへの依存度が減ったと語った。また、コンテナ技術の研究プロジェクトであるProject Drawbridgeにより、Win32APIを約50のカーネルABIにマッピングできることがわかったと説明した。これらの技術が元になって生まれたプラットフォーム抽象化が「SQLPAL」で、これによりSQL ServerがLinuxでも動くようになったという。
Linux対応のレベルとして、Windows版とかなり高い互換性があることをTravis氏は強調し、Windows版でバックアップしたデータベースをLinux版でリストアできると説明。Windows版の機能はLinux版でも、各種サービスもほぼ使えると語った。ただし、レポーティングサービスや分析サービスなどはこれからだという。
運用についてもLinux管理者が慣れた使い方ができるようにし、パッケージマネージャーによるインストールや、systemdによるサービス管理、Docker Hubからのコンテナーの取得、Pacemakerなどのツールへの対応などがなされているという。また、コマンドラインツールもLinuxに移植したほか、LinuxやMacで使えるVisual Studio CodeにSQL Serverの拡張機能を用意した。さらに、新しいマルチプラットフォームのGUIツール「SQL Operations Studio」も開発した。
続いて紹介された新しい機能は「アダプティブクエリ」と「自動プラン修正」だ。機械学習によりメモリーの使い方などを最適化してクエリのパフォーマンスを向上させる機能と、実行計画を変更してパフォーマンスが低下した場合に前に戻す機能だ。
ここでTravis氏は、SQL Server 2017 on Linuxをデモした。まず、MacBookのDocker for MacにSQL Serverの入ったUbuntuイメージを取得してある状態で、一瞬でSQL Server 2017 on Linux環境が起動。sqlcmdコマンドでデータベースやテーブルを作成し、データを追加してみせた。また、GUIツールのSQL Operations Studioも披露した。
次のデモは、Docker Composeにより、SQL Serverを含む5つのコンテナーからなるWebアプリケーションを動かす例。犬派・猫派を投票するWebアプリケーションを実演した。
SQL Serverの事例としては、まずエクアドルのProdubanco銀行の例が紹介された。多層セキュリティのためにSQL Serverでデータをマスキングする「Always Encrypted」機能を採用した。データを行レベルで暗号化して保存し、暗号化したままクエリできる。
もう1つの事例としてUAEの医療保険会社Damanの例が紹介された。汎用サーバーで列ストアを実現して大幅に高速化したという。
続く新機能としては、グラフデータベース機能をTravis氏は紹介した。専用グラフデータベースではなくSQL Serverで、T-SQLからクエリすることにより、さまざまなSQL Serverの機能が活かせるという。
こうしたSQL Server 2017 on Linuxへの移行のためのキャンペーンとして、Red Hatとの共同による新規注文に対する期間限定の特別料金を紹介した。MicrosoftではSQL Server 2017 on Linuxのサブスクリプションを初年度最大30%割引。Red HatはSQL Server 2017 on Linuxで使用するRed Hat Enterprise Linux(RHEL)を30%割引する。期間は2017年10月2日〜2018年6月30日。
最後にTravis氏は、SQL Serverの今後のロードマップを紹介した。他のデータソースを統合できる機能を強化し、グラフデータベースも強化する。また、コンテナーやAzureなどプラットフォームのサポートをさらに拡大。サポートするプログラミング言語も次バージョンで増やすことも明らかにされた。
さらに、パフォーマンス改善や永続メモリーの活用、セキュリティ、Linuxでの機械学習対応などにも取り組む。そして、「SQL Server on Linuxに今後も投資していく」とTravis氏は語った。
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