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Money 20/20開催「カンバセーショナルAI」が研究から応用へ

2018年12月13日(木)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
金融業界の最大のカンファレンスMoney 20/20が、ラスベガスで開催された。銀行の未来からクリプトカレンシー、サイバーセキュリティ、人工知能まで多彩なセッションが開催された。

金融業界の年次カンファレンス、Money 20/20がラスベガスで開催された。2018年には北米だけではなく中国やシンガポール、そしてヨーロッパでも開催されたグローバルなイベントだ。筆者は、一昨年、昨年とMoney 20/20に参加したが、今年も参加し、金融業界のビジネス、テクノロジーの流行などを探った。

今年のテーマは「The Money Revolution」ということで、クリプトカレンシー(暗号通貨、仮想通貨)や人工知能などのバズワードだけではなく、サイバーセキュリティ、FinTech、次世代のE Commerceなど、様々なカテゴリーのセッションが行われた。「金融革命」というコピーが相応しいのかどうかは意見が分かれるところだろうが、数年参加し続けて感じるのはIT業界のカンファレンスとの違いだ。

IT系カンファレンスであれば、一番注目されるキーノートではそのカンファレンスのテーマに沿った内容のプレゼンテーションとデモが、ベンダー主催のカンファレンスであれば主催ベンダーのCEOやCTOなどが登壇して最新のテクノロジーなどを紹介するのが定石だ。また実施されるのも朝一番の時間、というのが常識的な構成である。一方Money 20/20の場合は、4日間の会期中キーノートは午前と午後に2回ずつ、登壇するのは金融業界の有力企業のCEOやCTO、いわゆるCxOと呼ばれる人たちが15分から30分という短い時間を繋ぐ形で進行する。また特徴的なのは、デモなどはほぼ行われず、プレゼンテーションとパネルディスカッションによる意見交換が非常に多いことだろう。

ちなみに「FinTech」という用語を敢えてTechFinと逆転させ、Technologyを先にしてFinanceを繋げることで、旧来の金融業界の発想を逆転させたいと語っているプレゼンテーターが複数いたことは覚えておきたい。つまり金融業界の常識や方法論をテクノロジーで革新するのではなく、テクノロジーで何ができるか? から発想して金融ビジネスに応用するという考え方らしい。

この記事ではMoney 20/20のテーマのひとつである、人工知能についてレポートしよう。

金融業界における人工知能というトピックの受け止め方は「これで雇用がなくなるのではないか?」という不安が先に立つようだ。AIをテーマにして始まった日曜日のセッション、冒頭のトークのテーマは「金融業界はAIを使えるのか? むしろ仕事が減ってしまうのではないか?」というものだった。IT業界であれば新しい技術による効果のほうに注目が集まり、人工知能で可能になる新しいアプリケーションを紹介するのが一般的だろう。しかしここでは「いかに業界が人工知能に破壊されないか?」が心配の種のようだ。

そんな中で注目されていたのは「Conversational AI」というエリアで、これは会話を通してあるタスクを実行する際に、人工知能のパワーを使おうというものだ。

例としては、銀行口座の残高照会や送金などに使うものがある。業務という意味では電話を使った注文などにも応用できることが紹介されていた。これは日本であればWebのインターフェースやスマートフォンのアプリを使って注文を行うという部分を、完全に音声によるコミュニケーションだけを使って実行するものだ。例として挙げられていたのは、ハンバーガーチェーン店においてオーダーを行うもので、これはGoogleが行った人工知能を使ってレストランの予約を行うデモに近いものだ。一般的な会話ではなく、会話の範囲を業務領域に絞ることで、エラー率をかなり削減できることを強調していた。

プレゼンテーションを行うClincのCEO、Jason Mars氏

プレゼンテーションを行うClincのCEO、Jason Mars氏

Google Assistantのインターフェースからバックエンドの機械学習と自然言語処理は、自前のものを開発しているという。実際に出展を行っていたブースを訪れて、スマートフォンのアプリから日本語で銀行口座の残高照会をするように「銀行口座の残高を教えてください」と話しかけてみたところ、完全に的確な回答をしたことを確認した。

Clincのブース

Clincのブース

またマクドナルドなどのハンバーガーチェーン店で、ドライブスルーを使って商品をオーダーするというのはアメリカではごく当たり前の風景だが、そのような使い方でもかなりの精度で会話が行えるという。この辺りは、車社会であるアメリカならではというところだが、コールセンターなどで使われているIVR(Interactive Voice Response、音声案内)を革新できる可能性を感じさせるものであった。

マクドナルドでの利用を紹介するMars氏

マクドナルドでの利用を紹介するMars氏

参考:Clinc

他にもOV Loopは音声とメッセージングを組み合わせたソリューションを紹介しており、人工知能による自然言語処理をビジネスの領域に持ち込む方法として、今でも多くのアメリカ人が利用する電話と組み合わせるというアプローチが、かなり進んでいるように思える。

OV Loopのプレゼンテーション。音声を中心としたメッセージングとして差別化を狙っているようだ

OV Loopのプレゼンテーション。音声を中心としたメッセージングとして差別化を狙っているようだ

参考:OV Loop

また人工知能の使い方として金融業界で重要視されている領域のひとつに、クレジットカードの不正利用や詐欺の防止があるだろう。その部分にフォーカスした企業であるFeedzaiは昨年も大きなブースを出展していたが、今年は2日目午後のキーノートのスポンサーとして登場した。そのキーノートでは、FeedzaiのCEOであるNuno Sebastiao氏が、イギリスのヴァージン・グループの創業者であるSir Richard Branson氏を招いてトークを行っていた。Branson氏のトークの中で特に興味深いと思ったのは、最初に雑誌を作った理由が「ベトナム戦争を止めさせたかったから」であったというものだ。これがアメリカ人にとってはどう響いたのかは知る由もない。

Feedzaiのブース

Feedzaiのブース

ノベルティとしてCEOとRichard Branson氏のイラストを入れた光るバッジを配るなど、Feedzaiがキーノートに注力していたことがわかる。

ブースで配布されていたバッジ

ブースで配布されていたバッジ

中古レコード店から始まって多国籍企業となったヴァージンの創業者として、初期のエピソードなどについて語った15分程度のいわゆるファイヤーサイドチャット(暖炉の横での会話)と言うものだったが、随所にヴァージンのプロモーションビデオが差し込まれていた。ヴァージンの宣伝になったのだろうが、Feedzaiとしては何よりもまず名前を売り込むという効果を狙ったのだろう。実際、自社のサービスの具体的な内容については、何も訴求しないという贅沢な使い方となった。

Richard Branson氏とNuno Sebastiao氏(右)

Richard Branson氏とNuno Sebastiao氏(右)

毎年、VisaやMasterCard、American Expressなどの大手以外にも多くのベンチャーが参加するMoney 20/20だが、人工知能関連にも多くのベンチャーが参加していたようだ。TechFinの発想から新たな金融ビジネスを創造できるのか、注目していきたい。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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