Microsoftはオープンソースで企業のデジタルトランスフォーメーションを支える ーConnect(); Japan 2017
日本マイクロソフトは11月17日、技術イベント「Connect(); Japan 2017」を開催した。直前に米国でMicrosoftが開催した「Connect(); 2017」を“コピー”したもので、デジタルトランスフォーメーションやオープンソースという近年のMicrosoftの取り組みが語られた。
こうしたデジタルトランスフォーメーションへの支援やオープンソースへの積極的な関わりについて、同日、プレスラウンドテーブルが実施され、Connect(); Japan 2017にも登壇した日本マイクロソフト株式会社の浅野智氏(クラウド&エンタープライズ本部 業務執行役員 本部長)を中心に説明された。以下、プレスラウンドテーブルとイベントの講演内容をとりまぜて紹介する。
オープンソースに取り組むのは企業の変革を支えるため
なぜMicrosoftがオープンソースに積極的に取り組むのか。これについて浅野氏は「デジタルトランスフォーメーションを進めるため」と説明した。
浅野氏は、20年前と10年前、現在の時価総額上位企業を並べてみせた。20年前にはコカ・コーラやNTTが、10年前には石油会社がランクインしていたのが、現在ではApple、Alphabet(Googleの持株会社)、Microsoft、Amazon、Facebookが上位を占めているところを示し、「データプラットフォームの会社が上位を占めている」と指摘した。
その背景にあるのはデータ量の増大だ。現在の国内ですでに490億のコネクテッドデバイスがあり、2020年には1か月のデータ流通量が194EB(エクサバイト)になるという試算がある。こうしたデータを処理するにはクラウドが必要となる。
「それをいま、ほとんどの人がオープンソースソフトウェアで処理している」と浅野氏。41%の意思決定者がオープンソースの利用が重要だと考え、60%の企業がクラウド戦略にオープンソースを導入することを考え、65%のDevOps採用企業がオープンソースを選択しているというデータが紹介された。
すでに、Microsoft Azure上で動いている仮想マシンのOS比率では、Linuxが40%を超えており、さらに年々増えているという。「この40%を、12か月で60%に増やしていきたい。半分以上がオープンソースという、メモラブルな年になるのではないかと考えている」(浅野氏)
そのための日本での取り組みが3つ語られた。1つめが「デジタルトランスフォーメーションのユーザー事例を作っていく」。20名体制の専任部隊を組織し、製造や金融、小売などの企業にでかけて数ヶ月の間いっしょにデジタルトランスフォーメーションに取り組んでいるという。なお、日本以外でも各国のMicrosoftで同様の取り組みがなされている。
これは技術だけでなく企業文化を変化させる役割だ。そのため、20名のうち半数はディープな技術を持ったメンバーで、残りの半数は企業の課題を把握してコンサルティングできるBiz Dev(事業開発)の能力を持ったメンバーだという。
「最近、トヨタのWRCチーム『TOYOTA GAZOO Racing』に協力して、ラリーカーにたくさんのセンサーを付けてデータを分析し、よりよい戦術の手伝いをしています。同じことをさまざまな分野の企業で取り組もうというものです」(浅野氏)
2つめが「コミュニティへの貢献」。オープンソースのナレッジをホワイトペーパー化して横展開したり、各国50名程度のスペシャリストを育成して「OSSチャンプ」としてコミュニティに参加したりする。
3つめが「レディネスマーケティング活動」。日本マイクロソフトでは現在、イベントやセミナー、ウェビナー、ハンズオンなどを年間400ほど実施。そのうち半分以上がオープンソース関連のものだという。また、パートナーとユーザー企業をつなぐイベントを開催する。
プレビュー版のAzure DB for MySQL/PostgreSQLとApp Serviceの活用事例
ここまでも何度か触れたように、Microsoftのオープンソースへの取り組みとAzureは深い関係にある。中でも、Microsoftがオープンソースに取り組む理由で触れたように、データプラットフォームはクラウドでオープンソースを使う大きな理由だ。
Microsoftでは、PaaS型のリレーショナルデータベースサービスとして「Azure DB for MySQL/PostgreSQL」をプレビュー版として提供している。米国のConnect();では、これに加えてMySQLからフォークしたMariaDBに対応することも発表している。
Azure DB for MySQL/PostgreSQLは、2018年の第1四半期(カレンダーイヤー)での正式リリースを想定している、とConnect(); Japanで講演したMicrosoftのNolan Wu氏は質問に答えた。
ただし、プレビュー版でありながらすでに導入事例も公開されている。
浅野氏が紹介した事例の1つめは、クラウドキャスト株式会社のスマホ精算アプリ「Staple」だ。このバックエンドのシステムはRuby on Railsで開発され、他社のPaaSで動かしていた。課題としては、精算という性質から月末に処理が集中することへの対応や、アプリケーションやデータベースを管理する工数を減らして開発リソースを増やし、開発スピードを上げたいというものがあった。
そこで、Dockerコンテナー化したアプリケーションをAzure App Service on Linuxで動かしてオートスケールするとともに、データベースもAzure DB for PostgreSQLに移した。その結果、オートスケールによりビジネス機会損失を最小化するとともに、アプリケーションもデータベースもマネージドなサービス上で動かすことにより運用リソースを減らして新機能開発に力を注げるようになったという。
事例の2つめは、株式会社アクアビットスパイラルズのNFCを組み込んだ「スマートプレート」だ。店舗やイベントのときなどに、プレートにスマートフォンをタッチするだけでサイトに飛んでアクションができる。日本マイクロソフトでも、イベント「Microsoft Tech Summit」でスタンプラリーに使った。
同社ではもともと、Azure Machine LearningとPower BIを使った行動パターン分析を計画していた。それに加えて、キャンペーン利用時の高トラフィック対応も課題となっていた。
そこでAzureに移行。CakePHPで開発されたアプリケーションをDockerコンテナー化してAzure Web for Containersで実行してオートスケール対応した。データベースもAzure DB for MySQLに移行し、そのデータをAzure Machine LearningやPower BIに取り込んで分析できるようにした。
「昔のMicrosoftではソフトウェアのベータ版を、テスト用で本番には使わないように断って出していた。この提供の考え方も、オープンソースとクラウドで変わった。プレビュー版でありながらお客様に実運用してもらい、フィードバックしてもらって、そこから製品をよりよくしていく。そこが大きな変化」と浅野氏は説明した。
Microsoftのオンプレミス製品の開発プロセスも変わった
このように、オープンソースとクラウドによって、Microsoft自身の開発スタイルも変わってきている。
GitHub上で企業によるオープンソースソフトウェアへの開発貢献の数値として、MicrosoftがNo.1だというデータも浅野氏は紹介した。Microsoft全社でのオープンソース利用の数字としては、9,700のオープンソースコンポーネントを利用し、6,000名がOSS開発プロジェクトに参加し、3,000のオープンソースプロジェクトがリリースしているという。
Connect(); Japan 2017でも講演した、米MicrosoftでAzureを開発しているMichimune Kohno氏も、「開発スタイルがウォーターフォールからアジャイルに変わって大変だが、とても楽しく働いている」と語った。Azure以外の開発でもアジャイル開発が浸透しており、JenkinsやCI/CDパイプラインなどを活用してアプリケーションを開発しているという。
「SQL Serverは、昔は4年に1度のリリースでしたが、今ではSQL Server 2016の次にSQL Server 2017と、サイクルが変わっています。これはAzure上のものとコードを共通化し、開発の手法がアジャイルになってきていることによります」と浅野氏も語る。「Windows Serverのコアも、今ではAzureと同じところで開発しています。Windows 10も、定期的なアップデートをしていくモデルに変わりました。オンプレミス製品の開発サイクルもアジャイルになっていくでしょう」(浅野氏)。
こうした社内での変化が、オープンソースへの参加や、Azureの拡大、デジタルトランスフォーメーション専任部隊などに結びついているのだろう。
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