Money 20/20開催。Wells Fargoの謝罪から学ぶ重要課題は信用という話

2018年12月14日(金)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
金融業界のカンファレンスMoney 20/20にて、自社のトラブルを引き合いに信用が大切ということを示す異例のキーノートが行われた。

Money 20/20では大手の金融機関のエグゼクティブが登壇し、様々なトレンドや金融ビジネスについて語るわけだが、彼らの話す内容が主に自社にプラスになることであるのは当たり前のことだろう。しかし日曜日の午後のキーノートに登壇したWells FargoのCFOであるJohn Shrewsberry氏にとっては、近年のWells Fargoのトラブルについて謝罪を行う場となったようだ。冒頭から「信用が大事であるはずが、Wells Fargoはそれを壊してしまった」と語った。これは架空の口座を大量に作成して営業成績を水増しした問題や、リーマンショックの引き金にもなったとされる住宅ローン担保証券の不正問題などが背景にあり、膨大な制裁金の支払いという結果になったものを受けてのトークであったように思える。

一緒に登壇したのは、EdelmanというPR会社の金融セクターのトップ、Deidre Campbell氏だ。

EdelmanのCampbell氏(左)とWells FargoのShrewsberry氏(右)

EdelmanのCampbell氏(左)とWells FargoのShrewsberry氏(右)

EdelmanはTrust Barometerという信用に関する調査結果を毎年発表しており、Campbell氏はそれを紹介しながら、金融機関における信用の重要性を強調した。昨今、これまで金融機関が行っていた対面の取引から、スマートフォンやインターネットを使った人を介さない取引に移行するなかで、ユーザーエクスペリエンスが重要、そしてロボットではなくリアルな担当者とのやり取りを重要視しているという結果を紹介した。ここでは「最新のテクノロジーを使うことが重要(79%)」ということよりも僅かではあるが、「リアルな人間による対応が重要(81%)」という結果が出ていることに注目したい。

Edelmanの調査結果の紹介

Edelmanの調査結果の紹介

Conversational AIが注目されているのも、この辺りの感覚が元になっているのだろう。様々なユーザーが様々な要求をしてくる以上、提供されるユーザーエクスペリエンスが杓子定規なものでは通用しない。金融サービスのユーザーは、人間が対応してくれるような柔軟なインターフェースを求めているということがわかる。実際に電話によるIVR(Interactive Voice Response、音声案内)などを経験した人であれば、メニューをいちいち選択するよりも、担当者と直接話すことを選択してしまう状況はアメリカでも日常的だろうし、それをテクノロジーが支援する方向に向かっているのは明らかだ。

参考:EdelmanのTrust Barometer

すでにアメリカでは、72%の取引が店頭ではなくデジタルな手段に移行しており、だからこそユーザーエクスペリエンスを向上させることが重要だとCampbell氏は強調した。

次に紹介するのは、StripeのCOOであるClaire Hughes Johnson氏によるキーノートだ。

Johnson氏は、これまでの金融サービスがリアルからオンラインに移行するのではなく、テクノロジーによって全く新しい金融サービスが生まれるだろうということを訴求した。特にインターネットサービスが、マネタイズの方法として広告からコマースに移行する流れにあることを強調した。

オンラインコマースが急激に増加している

オンラインコマースが急激に増加している

これはStripeがオンライン決済サービスを本業としていることから、多分にポジショントークであろう。しかしそれ以上に筆者が注目したのは、スタートアップ企業におけるデベロッパーの割合というスライドから、これからの金融サービスにおいてセールスやマーケティング以上にデベロッパーが必要であるというトークだ。

また単にアグリゲーターになるのではなく、プラットフォームを構築することが最重要であることを訴求した。特にビル・ゲイツの「プラットフォームを提供する企業の価値よりもそれを使う人達の経済価値が上回った時に、それはプラットフォームと呼ばれる」という言葉を引用し、自らプラットフォーマーになる意志を表明したとも言える。実際に人工知能が金融業界の職を奪うのでは? という不安が見え隠れするMoney 20/20であったが、新たな仕事はデベロッパーが担うということを明確に言い切ったとも言える。金融から発想するのではなく、テクノロジーから発想して新しいビジネスを作るというTechFinの良い事例を見せられたセッションとなった。

またブロガーであり著者でもあるChris Skinner氏による「Digital Human and The FinTech Revolution」と題されたセッションでは、アメリカのメジャーな企業がExxonMobilやGEなどの旧来の企業からAppleやGoogle、Facebookなどに様変わりしたことを紹介した。

2001年から2016年で様変わりしたトップ企業

2001年から2016年で様変わりしたトップ企業

また企業の従業員一人当たりの市場価値の比較例として、新興のStripeと老舗のJPMorgan Chaseを取り上げ、創業217年のJPMorgan Chaseが200万ドルであるのに対し、創業5年のStripeが2200万ドルと大きく差をつけていることを紹介した。金融業界においても、新興勢力によるディスラプションを起きていることを強調した。

Stripeに大きく差を付けられたJPMorgan Chase

Stripeに大きく差を付けられたJPMorgan Chase

そして自身が参加した過去のイベントで、Barcleys BankのCEOとAlipay(Alibabaの金融部門)とAnt FinancialのEMEA(ヨーロッパ、中東、アフリカ)のトップが対談した際に、Alibabaが従業員一人当たり1600万ドルの売上を挙げているのに対して、Barcleys Bankは40万ドルしか売り上げられていないことを目の当たりにしたエピソードを紹介した。

Alibabaは従業員一人当たり1600万ドルの売上を達成している

Alibabaは従業員一人当たり1600万ドルの売上を達成している

またAnt Financialについては、その企業の概要を紹介し、特に3年に一度の頻度で全てのシステムをリフレッシュさせていることを紹介した。ここでは金融ビジネスであっても、古くなったシステムは惜しげもなく捨てて、新しいシステムへの移行を行っている「新人類」が存在するということを訴求して、来場者の意識改革を促したとも言えよう。

Ant Financialの紹介

Ant Financialの紹介

最後に、Alibabaが単なるE-Commerceのプレイヤーではなく、テクノロジーとデータを活用した複合的な企業グループであることを解説し、金融ビジネスがシングルプレイヤーで競い合う時代から、Alibabaのようなグループ企業によるプラットフォーム戦争になっていることを紹介した。

Alibabaの紹介

Alibabaの紹介

今年のMoney 20/20では、中国からの出展者はそれほど目立たなかったが、業界においては中国の金融ビジネスが研究対象、そして競争相手として認知されていることを実感したセッションとなった。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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