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LinuxCon Chinaで中国人エンジニアに聞いた中国のオープンソース事情

2018年7月27日(金)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
LinuxCon+ContainerCon+CloudNativeCon 2018に参加した中国人エンジニアに、中国のオープンソース事情について語ってもらった。

北京で開催されたLinuxCon+ContainerCon+CloudOpen China(略称LC3)には当然ながら中国のエンジニアが大多数参加しており、海外からの参加者は主にスピーカーという状態だった。TencentやHuaweiは多くのセッションを中国語で実施しており、これらは英語によるセッションよりも参加者が多く、中国のためのイベントであることが明らかだった。

中国のオープンソースの事情を知るために、会場で中国人エンジニアにインタビューを行った。Red Hat ChinaのプリセールスエンジニアであるJiaju Zhang氏である。

Red Hat ChinaのJiaju Zhang氏

Red Hat ChinaのJiaju Zhang氏

自己紹介をお願いします。

私は今、レッドハットの中国支社でソリューションアーキテクトとしてセールスグループの一員として仕事をしています。これはプリセールスの仕事ですね。そのため、多くのお客様とお会いする機会があります。レッドハットの前は、ファーウェイでOpenStackやオープンソースソフトウェアの仕事をしていました。その前はシスコやSUSEにも在籍していました。その当時はデベロッパーでしたが、今は主にアーキテクチャーを作る側の仕事をしています。ファーウェイの時には、OpenStackだけではなく他のオープンソースソフトウェアにも関わっていました。その当時のファーウェイは、オープンソースのコントリビューションでは確か15番目くらいの組織だったと思います。ですが、社内的にもっとオープンソースソフトウェアを書くことを推奨して、6位まで貢献度を上げることができました。企業としてオープンソースにコミットすることを後押しできたのではないかと思っています。

レッドハットに来る前からオープンソースに関わってきていたということですが、キャリアのどの辺りからオープンソースを仕事の中心にしてきたのですか?

大学の頃からコンピュータ、ソフトウェアについては専攻していましたし、修士の学位を取っていましたから、就職には有利でしたね。アメリカの会社に入る選択肢もありましたが、最初に入ったのは日本のNECだったのです。そこでハイアベイラビリティを実現するClusterProの開発に携わりました。その当時は、日本から中国にソフトウェア開発を外注することが多くあったのです。私は大学の頃からLinuxのカーネルの研究を行っていましたので、2台のサーバーを動かしてデータを同期するようなジョブを実行するClusterProの開発にはうってつけだったわけです。その後、カーネルの開発の経験を活かしてSUSEに移りました。その後、シスコ、ファーウェイ、そして今のレッドハットに移りました。オープンソースとの関わりで言えば、学生の頃からですが、2010年頃にSUSEで働いていた時ですが、個人的に作っていたオープンソースソフトウェアを公開して色々なエンジニアからコメントやパッチをもらって開発を進めていました。そしてRHELのバージョン7.3の時に、それがディストリビューションに含まれることになりました。その時は嬉しかったですね、これまでの努力が認められた気がして。

つまり学生の時からLinuxのカーネルの研究、そしてNECでHA製品、個人でもオープンソースの開発を続けていたと。素晴らしいですね。では、次の質問です。中国での企業におけるオープンソースソフトウェアの状況は?

中国ではかなり前からオープンソースソフトウェアを使っていると思います。しかしそれはあくまでも使う側、つまり消費者の立場です。もっと言えば、コミュニティに対するコントリビューションはほとんどありませんでした。中国においてオープンソースが使われるようになるまでには、2つの段階があったと思います。まだ英語のスキルが非常に低かった時には、そもそも何をコミュニティに返したら良いのか、それが分からないという状態でした。その後、サーバー関連のソフトウェアから徐々に使われるようになりましたが、その時もまだ少数のエンジニアの仕事だったように思います。しかしAndroidがスマートフォンにやって来ました。それからスマートフォンの開発や製造をするためにはAndroid、つまりLinuxに詳しくないといけないという状況になったのです。それが最初の波だったと思います。

またエンジニアの側からすると、これまで外資系に就職していたエンジニアが中国のインターネット系企業に多く就職するようになりました。アリババやテンセント、バイドゥなどですが、彼らは巨大なインフラストラクチャーを構築して運用する必要が出てきたのです。今は多くのエンジニアがそういうインターネット系企業で働いています。それらの企業ではオープンソースソフトウェアを使うのが当たり前なのです。これが2番目の波だったと思います。

実際には外資系でオープンソースコミュニティとの付き合い方を学んだエンジニアがタオバオなどのインターネット系企業に転職して、コミュニティ活動を続け、社内の他のエンジニアを教育するという流れができているように思います。しかしコミュニティへの還元というのは、実は難しいのです。というのは、ソースコードの背景は多くのメイリングリストでの会話や議論が元になって、その結果としてそのように書かれているというコンテキストが存在するわけです。そのことを理解せずに、いきなり「これはこうしたほうが良い」と意見するのはコミュニティにとって害でしかありません。ファーウェイであっても、そのレベルに行き着くためには結構な時間がかかったと思いますね。つまり単にコードが書ける、英語ができるというのではなく、深い理解が必要だと思います。

英語については北京の市内でもキッズ向けの英会話スクールがあるなど、国を挙げて推進しているということですか?

そうですね。みんな英語を勉強していると思います。最近は中国のエンジニアも英語がだいぶできるようになり、英語のドキュメントを読んだり書いたりできるようになりました。日本でも同じかと思いますが、英語を読み書きする分には若いエンジニアもそれほど問題ないと思いますが、英語で会話するとなると、まだまだ苦手な人が多いですよね。そういうこともあり、英会話は盛んに勉強されています。

直近でファーウェイとレッドハットという中国とアメリカの企業を体験されてきたわけですが、文化的な違いはありますか?

文化というものではないかもしれませんが、ファーウェイはとてもビジネスにストレートな会社でしたね。とにかくそのビジネスを成功させるためには、スグに顧客の元に行って直してこい! みたいな感じで。

そうするとオープンソースプロジェクトに還元をするという仕事と顧客向けのソフトウェアを開発するという仕事は衝突しませんか? つまりどっちを優先するのか? というジレンマはありませんか

そうですね。でもファーウェイの場合はオープンソースプロジェクトに還元を行うための専門のチームがあるのです。40~50人程度と比較的小規模ではありますが。一方、例えばOpenStackを使って顧客向けのシステムを作るチームは、その何倍も規模が大きいのです。なので、そのバランスはあまり問題にはなっていませんでしたね。

例えばOpenStackにバグがあって、それが顧客向けのシステムで障害になっているとします。顧客向けのチームがそれを自分たちで直して組み込んだとしても、アップストリームには還元しないわけですよね? そうなるとコードがフォークしてしまうことになりますけど。

企業のエンジニアは、いかにコミュニティと付き合いながら自分の仕事にそれを活かせるか、フォークをせずにシステムを良くすることができるか、そのことを知りたいと思っています。このカンファレンスに多くのエンジニアが参加しているのも、そのためだと思います。

最後の質問です。中国におけるオープンソースプロジェクトが成功するための必要なことは何でしょうか?

中国ではオープンソースソフトウェアはとてもポピュラーですし、中国のエンジニアにとってもターゲットになっています。しかし未だにオープンソースソフトウェアを使う側でしかないということが問題でしょうね。多くのエンジニアがコントリビューションをするということに慣れていません。ただファーウェイやアリババなどの大企業は、確実に変わってきています。現にこのカンファレンスの最大のスポンサーは、ファーウェイですよね。彼らはオープンソースコミュニティに還元を行わないとイノベーションが止まってしまうということをよく理解しています。私がファーウェイにいたころは、そうでもなかったですが(笑)。

そしてライセンスについても非常に勉強していますし、ライセンスを守ることにも厳格です。一方、中小の企業は未だにその辺はいい加減ですよね。そんなことよりも動けばいいという感じです。その辺は、徐々に変わっていくのではないかと思います。もう一つの課題は、ユースケースが国内に限定されがちであるということですかね。つまりオープンソースを使ったシステムを使いたい顧客が国内に非常に多く存在するために、ほぼ国内で収まってしまう。そのため、海外からは何をやっているのか良くわからない、ソースコードをフォークしてもそれを使いたい顧客が多く存在するために、アップストリームに還元しなくなる、ということが起こり得ます。それは問題だと思います。

今回のカンファレンスでは英語のセッションと中国語のセッションが混在しており、中国語で解説されるユースケースも多数存在した。またテンセントが推進するTARSのように、中国語で別枠のミニカンファレンスを行っている例もあった。

カンファレンスのスポンサーにはファーウェイ、アリババ、テンセントなどが並ぶ

カンファレンスのスポンサーにはファーウェイ、アリババ、テンセントなどが並ぶ

この写真にあるように、TARSは別室でほぼ毎日、セッションやハンズオンを実施してTARSの啓蒙を行っていた。中国でのオープンソースが着実に拡大していることが実感できたが、今後は、英語圏とのコミュニケーションをより活発にすることでコミュニティを中国以外のエリアに拡大できるか、というのがポイントになるのではないか。ガラパゴス化しないオープンソースコミュニティが世界に拡がることを、隣人である日本人としても期待したい。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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