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  インタビュー

パフォーマンス管理のNew Relicが掲げる「エンタープライズファースト」戦略とは?

2019年11月26日(火)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
APM(Application Performance Management)のNew Relicの日本での戦略を紹介。同社が掲げる「エンタープライズファースト」とは?

クラウドネイティブなシステムが徐々に浸透してきた大きな理由の一つとして、パブリッククラウドプロバイダーの存在は無視できない。オンプレミスクラスターの運用に手間を掛けずに必要なサーバーやミドルウェアをすぐに立ち上げて開発から運用まで行える手軽さは、クラウドプラットフォームの真髄である。また仮想マシンよりも柔軟なコンテナインフラストラクチャーとしてのKubernetesも、オンプレミスからパブリッククラウドまで実装されることで多様なニーズを満たしていると言える。

反面、モノリシックなシステムから多数のコンテナで実装される分散型システムにおいては、いかに安定的にシステムを運用するのか? という運用部門にとっての課題は日増しに大きくなっている。それに対するソリューションとして、パブリッククラウドやクラウドネイティブに対応した新世代のモニタリングサービス、パフォーマンス管理システムを提供する企業として、AppDynamics、Dynatrace、Datadog、New Relicなどが挙げられる。その中の一社New Relicが、2018年8月に日本法人を立ち上げた。今回は、代表取締役社長の小西真一朗氏、副社長の宮本義敬氏、そして新たにAWSから参画したCTOの松本大樹氏を交えて、日本法人の戦略などについてインタビューを行った。

左から宮本氏、小西氏、松本氏

左から宮本氏、小西氏、松本氏

自己紹介とNew Relicに参加した経緯を教えて下さい。

小西:私は約1年前に入社したんですが、それまではSalesforceで8年間営業をやってきていました。その頃はちょうど東日本大震災が起こった直後で、まだクラウドサービスやSaaSというものがあまり信用されていなかった時期でしたが、あの震災を契機に企業のIT資源に対する考え方が変わったというのを体験しています。

わかります。あれを機会に自社でデータやサーバーを持つということがそんなに安全なものでもないというように空気が変わったのは実感しましたね。

小西:そうですね。当時もそうでしたが、クラウドコンピューティングやSaaSをデジタルネイティブというか意識の高いベンチャーが真っ先に使い始めて自分のものにしていくというのを目の当たりにしていました。同時に、それを実際に自社の売上につなげていくということが、実は結構難しいというのも体験しました。フリーミアムのような状態から着実に売上に変えていくのは、ロングテールで手間の掛かる仕事なんです。でもSalesforceでそれをある程度やってきて、エンタープライズからの売上が半分を超えるくらいになった時に、かつての上司から声を掛けてもらってNew Relicに参画したという経緯ですね。

松本:私はAWSのソリューションアーキテクトという仕事をずっとやってきていまして、New Relicで仕事を始めたのはこの8月なので、入社して約1ヶ月というところです。前職の肩書はソリューションアーキテクトだったので、顧客に対してAWSを使ったソリューションのアーキテクチャー構築を支援する仕事だったんですが、何よりもまずAWSのことを知ってもらわないと話にならないので、一時期はエバンジェリストよりも多くの講演をやっていました。

当時はAWSと言っても「オンラインの本屋?」と思われていたくらいの認知度だったので、まず「クラウドとは?」というところから啓蒙をやっていました。そして、その仕事も大分やり切ったという感じだったのと、AWSの前にHPで同僚だった宮本からも誘ってもらったので、New Relicの話を聞いてみました。

最初は監視とかレッドオーシャンだなぁと思っていたんですよ。でもクラウドってAWSだけで閉じていればそれほど問題はないのですが、実際は他のパブリッククラウドも使うし普通にオンプレミスもあるし、これからどんどん複雑になっていく中で監視の仕事というのは重要な要素になると感じました。そこでもっと深くNew Relicのことを調べていくうちに、これはスゴそうだということで転職することになったという感じですね。

宮本:私はHPで16年間事業開発、特にハードウェアの部門の事業をやっていましたが、そろそろハードウェア事業も縮小していくという状態になった時に、どうせ転職するならこれまでとまったく逆のところに行こうということで転職したのが、Salesforceでした。そこではアライアンスを担当していましたが、ハードウェアビジネスのアライアンスとまったく異なるパートナーさんと仕事をすることになって、ソフトウェア、特にSaaSのパートナーというのはこんなにも違うのか? と驚きました。同じ「パートナー」という言葉でも中身は異なるのです。そしてSalesforceで知り合った小西に誘われてNew Relicに入ったのが、約4ヶ月前です。HPにもOpenViewという監視ツールがありましたので、今さら、監視ツール? という気持ちもありました。しかし中を見てみると、単なる監視ツールではなく、それ以上の何かがあると思いました。

ということは小西さんが1年、宮本さんが4ヶ月、松本さんが1ヶ月という流れですね。

小西:そうですね。先ほど、宮本が言った「パートナーが違う」ということに関して補足しますね。SaaSというのは、ベンダー側が直接顧客に価値を届けられるじゃないですか。なので販売代理店とか流通といった中間の役割は必要がないのです。そもそもシステムインテグレーションが必要ないということです。これは、我々は社内的に掲げている「エンタープライズファースト」という方針とも密接に関連していることです。

宮本:ハードウェアの場合は、納期の確定とか実際に納入とかのもろもろの作業が発生しますので、メーカーだけじゃなくてそういう細かいところを担当してくれるパートナーが必要だったんですが、SaaSに関してはそういうのは要らないということですね。

小西:そうです。だから日本のIT業界で「パートナー」というと、システムインテグレーターになるんですが、その作業が必要ないとなると、どういう部分でパートナーに付加価値を付けてもらうか? その付加価値に対してどうやって利益を分配するのか? こう考えると少なくとも現状では、New Relicのパートナーとしてシステムインテグレーターは最適ではないだろうという結論になりました。

そこでエンタープライズの顧客に対しては直接、New Relicが販売をすることを優先するというのが「エンタープライズファースト」という方針です。ある程度、エンタープライズの顧客が増えていったら、パートナーの皆さんが来てくれるということを想定しています。もちろん、New Relicのソリューションと組み合わせて新しい価値を提供できるような企業や、New Relic単独ではリーチできない市場を持つ企業とは積極的にアライアンスを進めたいと思っていますが、まずはエンタープライズに使ってもらうことを最優先ということです。

わかります。新興のB2B向けのソリューションを開発している企業が日本に拠点を作って記者発表会をやると、誰もが「パートナーが重要、日本ではシステムインテグレーターが重要」みたいな建前を言いますが、実際にはトレーニングコストが掛かるばかりで、あまり上手く行かないというのをよく目にします。

小西:我々のような企業がよくおちいりがちなのは、エンドユーザーからのRFPに対して提案書を出して比較してもらっても、どのベンダーも機能比較では丸が付いて差別化ができなくて、最後は価格の叩き合いで疲労していくというシナリオです。そうではなくて、ニーズが顕在化する前の段階で一緒に何が必要か? これを考えていけるベンダーになる必要があるということなんですね。ですから、価格の叩き合いという状況にならないためには、何をするべきか? これを考えています。

営業の考え方についてはよくわかりました。SaaSベンダーとしては真っ当な発想だと思います。宮本さんから「単なる監視ツールではない」という話がありましたが、ではNew Relicは何なのでしょう?

松本:これまでの監視ツールは、サーバーの死活管理とかいわゆる基盤のほうから上層にたどって行って全体を把握するというやり方でした。それに対してNew Relicは、ビジネスの目線から入って下層の基盤まで監視するという点が大きく異なりますね。単にサーバーが「生きてる」「死んでる」だけでは、それが担うビジネスにどう影響しているのかを可視化できないのです。

つまりスマートフォンから入ってECサイトで買い物したり、航空券を予約するみたいなシステムの場合に、どこでどれくらい時間が掛かっているのか? お客さんはどこで離脱したのか? その原因は? というレベルまで追求しないとビジネスには活かせないという、いわゆる最近のアプリケーション性能管理をウリにするベンダーがデモでやるやつですね?

松本:そうです。また従来型の監視ツール、性能管理ツールとは異なりSaaSで提供されているので、登録したらすぐにでも成果が出るというところですね。

実際にNew Relicのユーザーの取材をした時に良かったところの1つ目に挙げられる部分ですね。ユーザー登録をしたら試用期間としてすぐに使えるし、登録の際にクレジットカードが必要ないという。

松本:そうです。AWSはまだクレジットカードが必要なので、その部分のハードルは確実に低くなっています。あとは使い始めるのにソースコードを修正する必要がないというのも大きいですね。

そういう意味ではNew Relicにとっての2番目のハードルは何ですか?

小西:無償の試用期間から有償に移行してもらうという部分ですね。それを超えるためには、パートナーというよりもベンダーが直接それをプッシュしたり、サポートできる部門を持っているのか? この点が大きいです。あとは機能を説明するのではなく、それを使った価値を説明できることが必要だと思っています。それについては松本も入ってくれたので、だいぶ体制が整ってきたかなと思っています。

この後、New Relicはどういう方向を目指すのですか?

New RelicのノベルティのTシャツ。データオタク(nerd)は言い得て妙

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小西:New RelicはFutureStackというイベントを世界各地で実施していまして、そこで新しい情報を公開しています。SaaSなので、大きなバージョンアップではなくて常に更新されているという状態ですね。そのためFutureStackでは多くの機能拡張が解説されていますが、大きいのはAIOps(AIを用いたIT運用)に関するものかな。

松本:AIOpsは、個人的にも興味がある領域ですが、New Relicが持っている膨大なデータを元に「性能が悪くなる」もしくは「何かが壊れる」前に「こうなりますよ」ということを予測するみたいな機能は出てくるでしょうね。

小西:膨大なデータを持っている強みを活かすと、例えばECサイトでの性能評価のためにはこういうKPIを作りましょうというような、そのビジネスに合ったデータの切り口を提案する、みたいなことは可能だと思います。実際にはお客様のメトリクスデータを預かっているとはいえ、それは我々のモノではないので、それを使った分析の手法を提案するというような形はあると思います。

松本:あと、これまではNew Relicのエージェントからのデータを分析に使っていましたが、これからFluentdやOpenTelemetryなどのデータも取り込んで使えるようになると思います。そうすることで、さらにデータが集約されて精度が高まっていくはずです。

ある時期、システムの中身を理解するためにはログが重要だということでログ分析が流行りましたが、実際にはゴミが多くてそのゴミをフィルターするのが難しいという結果になったように思います。メトリクスから出発して、ログの分析に照らし合わせるみたいな発想の方が筋が良いような気がしますね。

松本:とにかく膨大なデータをどうやって分析するのか? この部分においてNew Relicは経験がありますので、ポートランドにいる開発チームの中でも、いろいろと進んでいると思います。

小西:それらの情報も、FutureStackや国内で開催するMeetupで順次紹介していく予定です。

SaaSとしてすぐにでも始められるという利点、膨大なデータ活用の重要性を認識していること、そしてエンタープライズファーストという現実的な戦略を持つNew Relicの将来は明るいと感じさせるインタビューとなった。New Relicの今後に注目したい。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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