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連載 :
  インタビュー

元AWS小島氏×元Azure砂金氏特別対談。二人が考えるクラウドの未来とは?(前編)

2016年12月13日(火)
鈴木 教之(Think IT編集部)

日本のクラウド黎明期よりクラウドサービスを牽引してきたお二人に、これまでの経験を踏まえて今後のクラウド業界の展望を自由に語ってもらう特別対談企画。Think ITの前編パートでは、なぜ二人がクラウドサービスを仕事にしたのか、クラウドファーストな時代になるまでの遍歴を振り返っていただいた。後編はクラウドWatchで掲載中

クラウドを仕事に

さっそくですが簡単に自己紹介をお願いします

小島:じゃあキャリアが長い砂金さんの方から。

砂金:まじか(笑)。僕は今LINEにいて5社目なんですよね。直近は日本マイクロソフトでテクニカルエバンジェリスト及びエバンジェリストチームのマネージャーをやってたっていうのはたぶん皆さんの記憶に新しいと思うんですけど、僕がマイクロソフトに入社したのは2008年の12月1日です。その同じ年の11月に開催されたPDC(Professional Developer Conference、今は名称が変わってBuild)というイベントで、Windows Azure(Microsoft Azureではなくて当時はWindows Azure)が発表されてから、Azure関連技術の啓蒙をやってました。クラウドの最初のとっかかりの時から関われたのは、僕のキャリアの中でもラッキーだったかなと思っています。

元Azureの砂金 信一郎(いさご・しんいちろう)氏

ということはマイクロソフトにはもともとクラウドをやるモチベーションで入社したんですね?

砂金:そうですそうです。元々はVisual Studioのプロダクトマネージャーという話しだったんですけど、最後の最後で当時の本部長が出てきて「プロダクトマネージャーもいいけど、エバンジェリストとかも向いてるよね。今後マイクロソフトとしてパブリッククラウド出していくことになって、それを広めてくれるような人を捜してるんだけど、やらない?」と言われて。その話しじゃなかったらたぶんマイクロソフトには行ってなかったと思うんです。時代の潮目を感じたタイミングでそういうお話しをお引き受けできてありがたいです。

LINEではどんなお仕事を?

砂金:LINEでBtoC向けのゲームや広告をやってくださる方はたくさんいらっしゃるんですけど、それをBtoB向けにLINEをツールとして使ってビジネスを広げたいという広告主に向けて新しいサービスをどんどん企画して実施しています。時間が勝負なんで、自分達の内製で作ってもいいし、M&Aで買収してもいい。とくにかく新しいサービスを作ってLINEをエンドユーザーさんへのリーチとして使いたい企業の方々向けに、もう少し便利な物にしたいなというのが現状です。

マイクロソフトの最後の方もクラウド担当と言いながら、りんなのように人工知能みたいなものを好んでやってました。例えばりんなのプロジェクトはマイクロソフトとLINEで一緒にやってるんですけど、今さらインフラとかアルゴリズムの優劣とか、そういう事じゃないなっていう風にある瞬間気付いたタイミングがあって。ユーザーから提供されたデータだったり、データを持っている会社が強いよねという話がある中で、だったらLINE側に行って、ボットとかAIとかビーコンとかクラウドの上で動くいろんなサービスができたら楽しいかなと。

ありがとうございました。次に小島さんお願いします

小島:何をやってきたかっていうと、一言で言うと“マーケティングガイ”ですよね。新卒からずっとマーケティングの仕事をしてて、まず日本の会社を経由して、アマゾンで4社目になります。今年の8月いっぱいでアマゾンを退社して今はまあ旅人見習い中というところですね。

元AWSの小島 英揮(おじま・ひでき)氏

砂金:アマゾンを卒業した人はなんでみんな旅人になるんですかね(笑)。

小島:僕が知ってる限りではもう一人しかいないですけどね。

砂金:もう一人か。印象が強すぎる。。

小島:もともとアマゾンにジョインしたのはAWSの事業ですから、完全にクラウドです。転職する前はアドビにいたんですけど、その時にクラウド周りの話しをいろいろ耳にしてたのですが、個人的にはバズワード的な新しいテクノロジーの1つくらいに捉えていました。しかし、『クラウド化する世界』というニコラス・G・カーが書いた本を読んで、ちょっとこれってゲームチェンジャーじゃないのってすごく思ったんですよね。で、次に行くなら絶対クラウドの会社にしようと思っていました。僕が探してる時にはマイクロソフトのヘッドカウントはなかったですね。そうこうしてるうちにアマゾンから立ち上げチームを作りますみたいな話があって、お声がけにのって運よく面接も通って気が付いたら一号社員になりました。というのが2009年の12月、だからちょうど砂金さんの一年後なんですよね、僕がクラウドの世界に入ってきたのは。

砂金:そうなんですよね、そこが何か意外で。サービス自体はAWSが先行してたんですが。

小島:日本で先行していたのは実はマイクロソフトの方で、たぶんその時に(マイクロソフトに)募集枠があったら手を挙げてた可能性がすごくある。

砂金:なんて残念な事をしたんだ当時のマイクロソフト。こんなに苦しまなくても済んだのに(苦笑)。

小島:やっぱり立ち上げチームというのが自分的には非常に魅力的で手を挙げたという次第です。AWSとしてはマーケティングに関することは一人目だったんで、マーケティングだけじゃなくて障害があればお客様先に行って謝ってくるとか、営業的な真似事もしてお客様先行くのもやりました。AWS Japanは今非常に人数がいますけれども、いろんな部門の立ち上げに関われたんで面白かったなと思ってます。

砂金:一人の期間ってどれくらいあったんですか?

小島:半年くらいですね。厳密に言うとデータセンターの構築チームはいたのですが、フロントで皆さんに見えてた二人目が玉川さんです。玉川さんが入社したのが2010年の9月1日だと思うので、ほぼ10ヶ月援軍なしでやってるような雰囲気ではありましたね。

(社員の)玉川さんが増えるよりも、社外のコミュニティでどんどん広げていった印象があります

小島:そうですね。彼がアマゾンに入る前にJAWS-UG(AWS User Group - Japan)はできてますし、パートナー向けの色んな説明会をやるのも基本的なフォーマットを自分で作らしてもらったのはいい経験になったかなと思ってます。もちろん一人じゃスケールしないので、玉川さんが来てくれて戦力としては倍以上になり、その後のチームの拡大っていうのが絶対的に大事だったわけですけど。

砂金:その当時のどこかのイベントでお会いした時に、砂金さんとこはいいですよね人がいっぱいて、という話をした記憶があります。

今でいうとAzureを選任でやる人達って増えてきてるんですけど、その当時マイクロソフトの社内はみんな兼務なわけですよ。Windows ServerやSQL Serverをやってた人が、たまたまちょっとAzureもやりますという時期が結構長かった。

最初のうちは、本当に自分の時間をきちんとAzureだけに使ってた人っていうのは、実はあんまり多くないですね。さっき小島さん的な立ち位置でのヘッドカウントがなかったっておっしゃってましたけど、確かにプロダクトマネージャーっていうのが居なかったんですね。エバンジェリストはいるんだけど、プロダクトマネージャーがいない。

対談インタビューはLINEのフリースペースで行われた

クラウド黎明期からクラウドファーストへ

クラウドの黎明期で一番大変だったことはなんでしょう? 理解が得られなかったとか、苦労したところをお聞きしたいなと

小島:そうですね、そこはマイクロソフトさんよりアマゾンの方が難しかったと思っていて、マイクロソフトっていうのは少なくともITの人達にとっては一定のポジションがあるわけです。(Azureは)そこから出てくる新しいテクノロジーってことで、たぶん本来的には受け入れてもうのは難しくないポジションにあった可能性があると思うんですね。

アマゾンには2つ難しいところがあって、ひとつはITのアドバイザーってポジションでは誰も見てないわけですよ。“本屋さん”ってイメージがすごくあって、お客様自体がアマゾンからITの話しを真面目に聞くのがなかなか難しかったです。もう1つはそもそもそのITの分野でずっと日本でやってなかったわけですから、エコシステムが無いですよね。ユーザーもいないしパートナーもいないので、そういう意味ではかなりビハインドだった気がします。

結局そこを覆すのは、アマゾンが何か言ってもあんまり変わんないんです。なので結局ユーザーの人にユーザーに話してもらうしかなくて、B2Bの口コミの世界です。うまく成功してアマゾンで大丈夫って言ってくれると、ちょっと聞く耳が変わるわけですよ。だからいかに実際使ってる人がこれから使おうとする人に話したり伝える場を作るかに当初すごく注力してました。ユーザーコミュニティもその延長にあるんですよね。触ってるデベロッパーがこれから触る人に話ができたり、ちょっと触ってみた人がそれで発表したりする、サイクルを作る場として作られてるので、だからアマゾンが集めてアマゾンがしゃべるという体になっていないのは、その推し方だとさっき言った2つのビハインド、つまりチャネルが無くってイメージがITのアドバイザーじゃないってとこらからいくと、何言っても素通りしちゃうんですよね。耳が開かない。

ベンダー側から推してもダメだと

小島:そう、だから信頼する筋がどうもアマゾンが良いって言ってるよ、っていう風にどう場を作るかというのが一番初めのデザインだったわけです。

砂金:なるほどね。でもそれって、結構無いものねだりなんですけど、何もなかったって事は逆に言うとしがらみが無いことだと思うんです。例えば我々が初期のころ、クラウドにしたら無駄なITコストを削減できてスピードも早いし、めっちゃいいですよってAzureの提案をしてオフィスに帰ってるとですよ、担当の営業さんから怒られる。「なんでお前そんな事言ってくるんだ。普通にライセンス売りならゼロひとつ多い売り上げを見込んでたのに、これどう穴埋めしてくれるの」みたいな。今までの慣性の法則でそのまま進んでいたところと、その値段感だけじゃなくて仕事の仕方とかITとの向き合い方っていうのはクラウドで大きく変わったんだけども、それについていけない社内やパートナーさんの側の理解っていうのも含めて、それを全部変えさせるっていうのは、ものすごいエネルギーが必要です。なんか、味方なんだか敵なんだかよくわからんぞ、みたいな方々が結構いらっしゃって。現場に行ってAWSやGoogle(当時はGoogle App Engine)の皆さんとあいまみえて勝った負けたならぜんぜんいいんですけど、いや頼むから後ろから刺さないでくれないですかみたいな、それは初期のころすごく難しい所でしたね。

あと、AWSは初速をカジュアルゲームやWebサービスのワークロードが中心だったので、面白いからあるいは便利だからすぐ使おうよという方々がユーザーに多かったと思います。マイクロソフトって良くも悪くもエンタープライズ側から入るんですね。そうすると、検討しはじめて、社内で実証実験みたいなプロジェクトをやって、稟議決済をとって半年一年かかってようやく1件ですから。それをあとのフェーズでやるんだったらいいんですけど、最初からそこにガツンとあたっていくのは、結構しんどいですね。またサービスもAWSは最初EC2から入ったじゃないですか、Azureって当時PaaSからだったので。

小島:今で言うサーバーレスですよね。

砂金:そう。ちょっと先取りしすぎた。

小島:当時のクラウドはよく黒船御三家って言われましたけど、AWS、Google(GAE)、マイクロソフトの中でアマゾンだけ唯一IaaSですね。今使っているもの(オンプレミスのサーバー環境)と置き換えて概念が展開できるから分かりやすい。

ああいうのはやっぱり、アマゾンのカルチャーを感じるんですよね。お客様が必要としてるものから設計されてるところがあって、技術的に洗練されてるから良いってところからスタートしないところがまあニーズにはあってたのかなっていう気はします。で、ちゃんとベースができればアマゾンからだって今のサーバーレスのようにコンセプト的には当時のGAEとかに近いものが出てきてるので。

やっぱり一番初めはコストメリットみたいなところで訴求したんですか?

小島:コストメリットとスピードですかね。ただ人によって響くポイントが違うんですよね。既存の環境がある人にとってはコストメリットがすごくあるし、これからサービスを作る人にとっては同じコストでもスピードが早ければそれでいいとなります。訴求ポイントは人によって違いますが、さっき砂金さんがおっしゃった通りで、時間をお金で買いたい人が多かったですね。Webでサービスをやっていると、もちろんセキュリティや耐障害性も考えますが、それより何より早く物ができないと意味がないって人が、当時のクラウドを支えた事はたぶん間違いないと思います。そこでこういろんなフィードバックをいただいて、エンタープライズの視点の人からみても、なんかこれ使えるんじゃないのっていう風になってたのがたぶん2010年とか11年くらいだと思います。

砂金:そうですね、それぐらいまでかかりましたね。

小島:イメージって意味でね。

2010年頃っていうのはターニングポイントなった事例があったんですか?ここがやり始めたからうちもみたいな。その辺のエピソードがあれば

小島:そうですね、エンタープライズの大きな証明なったものってたぶん東京リージョン後の方が大きいんですよね。東京リージョン開設、VPC(仮想プラベートクラウド)、ちょっと時間を置いてDirect Connect(専用線接続サービス)。その3つがきて初めて、エンタープライズの人がちゃんと検討できるツールが揃った感じです。だけどもちろんその前にWebの世界でかなり使われてるクラウドだったから、アマゾンイケてるよっていう場ができてたのが非常に大きかったと思いますね。

砂金:たぶんAWSの場合は、エンタープライズっていうのを企業のロゴをみると確かにエンタープライズなんですが、Webのワークロード側から入って、だんだん中に攻めていく側のやり方がすごい、外から見てるとうまいなと思って。

小島:“情シスファースト”じゃなかったんですね。それはすごいハッキリしていて、自分がもともとマーケティング出身っていうのもあるんですけど、意外とマーケティングもITリソースって使うんですよ。使うんだけどそれは今では代理店にお願いしてたりとか、IT予算として見えないかたちとして消費されてたんですよね、キャンペーン費とかそういう形で。で、それをマーケティングの人が調達しやすい形でクラウドって見せられるようになったのって大きいんじゃないかなって思うんですよね。キャンペーンサイトを開設したり、一定期間だけマイクロサイト立てるんだと、そういうことが普通にできてむしろ今使ってる環境よりいいじゃない、そうすると本番の方に話が行くわけですよ。なんでこう、ちょこちょこっと作ったサイトの方がロバストで本体の方が大変なんでしょうかねって話しなって、そこから浸食が始まってWebで使い始めると業者の人もチラチラ見える訳ですね。でそこに事例が2、3聞こえてくると事例もある、社内でもWebのチーム使ってると、そうすると抵抗が少ない。

いわゆるシャドーITですね

砂金:ITコンシューマライゼーションを丁度いいタイミングで乗り越えってきたってのがたぶんAWSで、いろんな抵抗をこれでもかってくらい全部馬鹿正直にブルドーザー的に押し倒してきたのがたぶんマイクロソフトのやり方で、結果行き着きてる先は似たようなところなんですけど、そのアプローチがぜんぜん違う。

小島:そうですね。AWSは、既存のマーケットが無いが故に一緒に走れる人を見つけて一緒に走るっていう典型的なアーリーアダプターマーケティングなんですね。だからセキュリティの話も一応会話するんですけどセキュリティなんとか室とかに呼ばれるミーティングにはあんまり行かなかったです。なぜかと言うと、そこにディシジョンメーカーがいないから。もしビジネスの決裁者がいてセキュリティの話もしたいんだったら喜んで行くんだけど、セキュリティの人がほらやっぱりクラウドってまだまだって言うためだけに場が用意されてる雰囲気は時間がもったいないんで。

JAWSのコミュニティメンバーもそういういわゆる情シスっていうよりもWeb系でやってる人が多かった?

小島:Web系とあとクラウドでビジネスをしたいと思ってたパートナーの人ですね。今でいうcloudpackさんとかサーバーワークスさんとかクラスメソッドさんとか。だからそのしがらみがある人はほとんどコアのメンバーにいないんですよね、そこがたぶん良かった。純粋にいいと思った人が集まったっていうのがすごくいいスタートだと思いますね。お互いがわかる場を作って、活動そのものを目に見える形にして後押しするのが僕の立ち位置です。その人達に確信を持って情報発信してもらって。それが同じようなWebやってる人だったらWebの世界の人にいくし、Webなんだけどその人が所属してるのがエンタープライズの会社だったらエンタープライズの中に浸透していくと。

そのへんのロジックがすごいですね

小島:既成事実化をどうやっていくかですよね。

変な話そこに対してすごい予算を投じてるわけでもなくて、すごい根回しっていうか自然発生的にいかないのでは?

小島:自然には発生しないですよ。それはそういう風にしようと思ってるからなるんであって。自分が盛り上がれる場があればみんな盛り上がれるじゃないですか。場作りが必要なんですよね、僕がやってたのは場作りで。で、そこに話したい人聞きたい人がどう集まるか。

その人達が例えば自社に持ち帰って自分たちの中で広めるかっていうのは、結構未知数だと思うのですが

小島:未知数ですね。だけど、こんな世界なんですぐ見つかるわけですよ。グーグル先生が見つけてくれて、クラウドのいろんな利用事例とかアマゾンとか、その会社が考え始めたときには必ずサーチするじゃないですか。社内の人がサーチすると、「あれうち使ってんな、事例なってんじゃん」とか。ただそのいろんなやってるファクトをいかに見つけられるようにしておくか結構大事なんです。

だから勉強会とかでしゃべってもらう、デジタルデータにしてもらう、ブログやSlideShareにアップしてもらうのがすごい大事で、“ブログを書くまでが勉強会”っていうのをよく当時、今も言ってますけど、それは何かっていうと見聞きしたことをデジタル化してサーチできるとこに置いといてくださいってことなんですよね。

砂金:今だからこそマイクロソフトはMVP(Most Valuable Professional)の皆さんがちゃんとやってると言えてるんですけど、5年前クラウドの初期の頃って社外エバンジェリスト的に頑張っていただけるサポーティブなエンジニアのみなさんが、例えば大手のSIerさんに所属してたとします。そうすると例えば勉強会やLTで発表しますっていうと、発表申請稟議みたいなものが必要なんですよね。XXX社のYYY所属、システムエンジニアの誰々が発表します。つきましてはこういう内容で登壇してもよろしいでしょうかっていう(社内稟議のための)スタンプラリーが必要で、でそんな状況だと自由な場を作ったからとは言えやっぱり難しいですね。で、結果どうなったかというとみなさんペンネームで話しをされていて、さっきの情報発見性でいうと、その発見を遅らせるんですよ。

小島:どこの誰かわからないという。

砂金:ただ、知る人が知ってると、いや富士通のこの人めっちゃAzureに詳しいんですよと、NTTデータにスペシャリストがいるじゃないですか、なんで教えてくれなかったんですか? ってあとから怒られる。なんかここ最近は、さすがに企業側の対応も変わってきていて、まあMVPだし自分の名前で会社を宣伝して外に話しをすることにたいぶオープンになってきた気はするんですけど。

各社が自社の名前出して発表することがメリットだと徐々に浸透し始めたというか

砂金:マイクロソフトのMVPっていうのは誇らしいものであって、そんなペンネームで発表するするとかじゃなく、正々堂々と本名で所属を語ってやればいいじゃないって。一方で大手のパートナーさんに対してのこういう有意義な制度があって、御社の社員は何人かそこに選ばれてるんだからもっとうまく活用してください、というご説明は割と真面目にしてきたつもりです。場を作っていい人を選んで面白いコンテンツ並べたらそれで情報拡散性が実現できたかというと、そうじゃない時代が結構長く続いてました。

小島:いかに流れやすくするか、僕が気をつけてやってたことですよ。コミュニティでハッシュタグをうまく使ったりとか、あとUstreamなんかもすごく流行ったんで完全ボランタリーですけど配信が得意な人に撮影してもらいました。何を話したのかも後々サーチャブルになるように作っていくのはすごい大事ですね。

だけど、逆に言うとそういう事をする為のキャッシュアウトというか目に見えるコストはすごい安くなった。デジタル化しておけば後はアップして、みんなに知られるためのインフラコストもほぼかからない。Ustreamも非常にポピュラーなインフラだったんで、ああゆうのがやっぱり助けてくれた気がしますね。だから情報拡散のコストが非常に安くなってる時にこういうアーリーアダプターマーケティングがうまく功を奏したと思います。

ちょうどSNSが流行りだしたころ

小島:そうです。だからJAWS-UGも初めの頃はGoogleグループのメーリングリストで始まってんですよね。だけど新しい人がどんどん入ってくるのは難しくって、次にそれがTwitterのハッシュタグで会話をする、オープンチャットみたになってきて、次にFacebookグループでいろんなトピックスできるようになって。最近はエンジニアの方はSlackに移行してるけども、ツールがコミュニケーションをどんどん後押ししてくれるっていうとこありますね。Twitter、Facebookあたりはすごくその、つながり始めた人の存在を加算したり、うまくいってる事例とかを早く展開したり、それからこれ間違ってるよっていう“都市伝説”を早く消すのにもたぶんすごく良かったと思います。

砂金:たぶんマイクロソフト社内のマーケティング的にも(僕はマーケティングというよりはテクニカルエバンジェリストだったんで立場は違うんですけど)、道具立てや世の中の受け入れ方が変わってきたタイミングでした。例えばマイクロソフトが当時やってた公式のTwitterアカウントより、砂金の個人アカウントのほうがぜんぜんフォロワー数が多くて、リツイートととかのインフルエンス分析をすると、なんか社内に変な奴がいるっていうのが際立ってきたと。今までは組織で何かやるのが強かったんだけど、中の社員も含めて突出した個人がそれこそゼロコスト的な状態で勝手にやって勝手に結果を出して、それをうまくレポートさえすれば、きちんと認められる状況がようやく出てきたのが、たぶんちょうどクラウドの最初の立ち上げ期の頃だったのかなと。だからあのタイミングでTwitterもFacebookもなかったら、砂金はたぶん組織の圧力の中で潰されてた可能性が高いですね。

小島:AWSもどうなんでしょうね、まあ良いサービスだしUSを見ててもうまくいく可能性が高かったので、今でもだれがやってもどうやってもそれなりのポジションになったと思うんですけど。ただ初速はこのソーシャルが無かったら難しかったような気がします。組織内では伝わってない訳ですよ、AWSの初期の事例とかは。(トップダウンで)上からこんな事例があるから読んでおくようにと落ちてくるような流れ方ではないですね。それは以前の新しいテクノロジーの流れ方とはちょっと違うんですよ。「これ、今きてるからちょっと読んどけよ」と昔は結構上から降りてきたりしたものだと思うんですけど。今は、エンジニアや一般の人とか、あとちょっとITをやってたマーケティングの人とか横に会話できる場があったのでそこにフォーカスしていく、もしくは拡散力の強い人がそれをやりだすと光っていくというか。

そしてその人達は実際にサービスを触ってるわけですよね

小島:そこがポイントなんですよね。聞いた話というよりは「触ったからよかったよ」と、ここが響くわけです。自分の体験としてこう伝えてと。やっぱり同じ視点の人がいいよって言って耳が開くんですよね。いいんだあれみたいな。ベンダーから訴求するより全然いい。

今だからこそクラウドファーストと言われてますが、クラウドって当たり前だよねって、ご自身で思ったタイミングとかありますか?

小島:2013年かな。2013年のAWS Summitが確か6,000人でした。前の年が2,000人くらいで翌年6,000人くらい。それは当然会場のキャパとか上げてるのもあるんですけど、ただ上げても人が来るわけじゃないんで、その時潮目の大きな変化を感じましたね。事例もすごくエンタープライズが多くなって、エンタープライズトラックがちゃんと独立して、エンタープライズ系のお客様が積極的に発表側に回ってきたのがその頃です。その頃からほんとにクラウドファーストみたいになって。

砂金:(AWSの)東京リージョンっていつでしたっけ?

小島:2011年です。

関連記事:http://cloud.watch.impress.co.jp/docs/news/430742.html

砂金:2011年か。そこからやっぱ2年ぐらいタイムラグがある。

小島:エンタープライズの中で本当にちゃんとクラウドが検討されるまでに2年ぐらいかかるんですね。東京リージョンがないとエンタープライズの人が進むべきリアルな事例が少なかったんですよね。VPCやDirect Connect、つまり社内ネットワークに直結してクラウドを使うっていうのが2年ぐらいしてごくごく普通になってきたころ。E-JAWSというエンタープライズ系のコミュニティがありますけども、その中の人に2013か14年くらいにアンケートしたら、6割くらいがDirect Connectを使ってるんですよね。だからエンタープライズからすると、クラウドは直結して使うんだっていうのは流れができたのはだいたいその頃なんですよね。

その頃から少なくとも新しいITを考えるときにクラウドはまな板に上がるようになった気がします。よく当時もそのマイクロソフト対アマゾンとか、いろいろありましたけど、実際の敵は“オンプレで作ろうっていう感性の法則”であってクラウドって話しになればこっちのもんだと思ってるわけですよ。たけどクラウドはまだだよねって話しになっちゃうのが一番難しくって、そのあたりが少なくとも必ず検討されるようになったのが2013年ぐらいじゃないかなって思います。

砂金:さっきのデータセンターの話は結構大きくて、グーグルさんもね今頑張ってる(編注:GCPにも東京リージョンが開設されました)から素晴らしいなと思うんですけど、Azureの日本データセンターが東日本と西日本にできたのが2014年なんです。だいたい当時はAWSの3年遅れくらいで取り組みとしてやりつつ、それを強引に現場力でキャッチアップするみたいなビジネスの仕方をしてたんですけど。2014年にデータセンターができたおかげで、だいたいそのあと1年後くらいですかね、何の理由でもいいからとにかくデータセンターの案件を取ってこいって営業が言うわけですよ。そうすると一生懸命売るんですよ。営業力があるから特に直販とか。

関連記事:http://cloud.watch.impress.co.jp/docs/news/636820.html

だけど(クラウドを)何にどう使ったらいいかわかんないみたいな状態が発生し、その後もともとAWSにあったソリューションアーキテクトみたいなものをAzureにもクラウドソリューションアーキテクトというチームを作りました。そこからがようやく、Azureを普通に使ってくれて、かつAzureをベースにして基本アーキテクチャを考えようっていうニーズが高まってきて、そのチームメンバーが集まってっていうのが2015年からなんですけど、そこからかなという気がします。それまでは僕らみたいなエバンジェリストが個別撃破みたいなのを一生懸命やってきたんですが、CSAの皆さんが頑張り始めてからは組織戦になってますね。

クラウドに価値がありそうだという所は突破した上で、それをほんとに何に使ったらビジネス的な価値に繋げられるのか、というところをもうひと押ししなくちゃいけない。それができるようになって初めてAzureが当たり前のものとして提案されて、それでキチンと価値が出せるようになってきた、これが個別商店の積み重ねではなくて組織戦が出来るようになったのは2015年以降くらいじゃないかなと思います。

小島:逆に言うとそういう風になってきたので、アーリーアダプターの方はAWSが先に触っていてマイクロソフトさんは既存のチャネルで少し保守的な層のにもクラウドがちゃんと使えるんですよっていう話しをしてくれて、日本のクラウドのマーケット全体がぐっとキャズム超えを始めた時期なんじゃないかと。

AWSしか主要なプレーヤーがいなかったら、アーリーアダプターからマジョリティのところが始まってなかったかもしれないですよね。クラウドは変わってる人が使うものであって保守本流ではまだまだなんですよって言う風に思い込もうとすれば思い込めるんですよ。だけどいつも出入りしてたマイクロソフトさんも、もっというと国産のいろんなベンターさんが少なくともクラウドって言葉を口にするようになったのは非常に後押しになっていて。

砂金:(AzureかAWSか)どっちかだったら倍くらいの時間がかかってるかもしれないですよね。時間かかる中で滅びていく技術みたいなものもたぶんありますが、クラウドが滅びなかったのは普及のスピードがみんなが期待してたよりもたぶん早かった。

小島:早かったとおもいますね。

砂金:普通だったらガートナーさんのハイプカーブで、そろそろ次の何かかな?みたいのがあるんですけど、クラウドは一過性のものじゃなくて普通に定着してる。

小島:5年6年たって、今でもまだちゃんと使われてますし、むしろマジョリティの人にとって今からクラウドをどうするかって話しだと思うんで、そういう意味ではバズワードとして消費されなかったと思いますね。それは非常に良かったと思います。

余談なんですけど、インプレスにEnterprise Watchっていうのが昔あってそれが“クラウドWatch”って名前を変えたのもそういった流れがありました

小島:そこはすごく業界全体の努力でこうなったような気がします。

後編に続く

著者
鈴木 教之(Think IT編集部)
株式会社インプレス Think IT編集グループ 編集長

Think ITのX代目編集長。新卒第一期としてインプレスグループに入社して以来、調査報告書や(紙|電子)書籍、Webなどさまざまなメディアに編集者として携わる。Think ITの企画や編集、営業活動に取り組みながら、プログラミングやWebマーケティングに関する書籍も手がけている。OSSのRe:VIEWとプリントオンデマンド技術を活用したThink IT Booksシリーズを展開するなど、プラットフォームやビジネスモデルへの関心も高い。

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