連載 :
  インタビュー

Spinnakerに特化したArmoryのCEOが語るCDの難しさとは?

2020年9月1日(火)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
クラウドネイティブなCDソリューションSpinnakerを企業向けに提供するArmoryのCEOにインタビューを行った。

クラウドネイティブな継続的デリバリー(CD:Continuous Delivery)を実現するオープンソースソフトウェアのSpinnakerに特化したベンチャー、ArmoryのCEOとセールスのトップにインタビューを行った。これは以前に公開した記事でOpenShift Commonsのセッションを行ったArmoryを紹介したが、その記事から追加のインタビューに応じてくれたものである。

参考:OpenShift Commonsで知る継続的デリバリーのSpinnaker最新情報

インタビューに応じてくれたのはCEOのDaniel R. Odio氏とWorldwide Sales担当のVPであるKit Wetzler氏だ。

最初にArmoryのことを教えてください。

CEOのDaniel R. Odio氏

CEOのDaniel R. Odio氏

Odio:ArmoryはSpinnakerをエンタープライズ企業向けに強化して提供する企業として、2016年に創業しました。エンタープライズがソフトウェアを使って競争力を高めることを手助けしたいと思っています。SpinnakerはNetflixが開発しオープンソースソフトウェアとして公開したもので、その後、Googleも開発に加わっています。そしてArmoryもコントリビューターとして開発に加わっています。

グローバルでビジネスを行う企業がより競争力を高めようとすれば、ソフトウェアをビジネスの中核に取り込むことが必要です。「すべての企業がソフトウェア企業になる」と誰かが言ったようにね。そしてそのソフトウェアを素早く開発し、迅速にビジネスに取り入れるためには、Netflixのように一日に何百回もコードを本番環境に実装することが必要になります。それができれば、企業の競争力は高まるのです。

CI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)と二つのプロセスは並べられて語られることが多いのですが、実際にはCIとCDは異なります。ビルドからテストまでのCIは、業種や企業が異なってもあまり大きな差はありません。しかし企業が持っているデータセンターはさまざまです。どれ一つとして同じ構成のデータセンターはありません。だからこそ、そこを自動化する継続的デリバリーの実現が難しいというのはわかってもらえると思います。

日本のエンタープライズ企業では開発と運用が別のチーム、もしくは開発は外部のグループ会社から外注化されていて、運用は社員ということが往々にしてあります。だからこそDevOpsという開発と運用を自動化すること、CI/CDを実現することはツールだけでは難しいというのが私の所見ですが、それに対する解答は?

Wetzler:開発と運用が分かれているというのは、他の国でも同じ状況だと思います。だからそれは日本だけの問題ではないのです。よってDevOpsもCD/CDも同じように難しいことも日本だけの事情ではありません。

しかしDaniel(Odio氏)が言ったように、企業が使用するデータセンターはすべてが異なる構成を採ります。よってCIよりCDのほうがより実現が難しく、それゆえにそのボトルネックを解決した時の効果も大きいというのが我々の発想です。Spinnakerは、一番後ろのプロセス(デリバリー)を自動化していくための最良のツールであると、私たちは考えています。

Spinnakerを単なるCDのツールではなくプラットフォーム、もしくはハブとしてさまざまなソリューションをプラグインして使うというのが背景にあるのですか?

Odio:そうですね。SpinnakerはNetflixやGoogleで実際に利用され、数百の開発チームが百万回レベルのソフトウェアリリースを実現しているという事実からもわかるように、巨大なクラウドでの運用にも耐えられるソフトウェアになっています。そしてプラグインという形でさまざまな付加機能を追加していくことも可能なプラットフォームなのです。

Armoryはエンタープライズ企業が必要とするポリシーに合致したソフトウェアを実装するために、ポリシーベースのパイプラインを提供しています。これはPolicy Engineという名前で製品化されていますが、ベースとなっているのはCNCFでホストされているOpen Policy Agentです。

これは、デベロッパーがSoftware Development Life Cycleの最後の段階、つまり本番環境に実装する段階で社内のポリシーに合っているかどうかをチェックするのではなくて、もっと早い段階でポリシーを適用していくようにシフトレフトするために使われることを想定しています。そうすれば、最後の最後で手直しをする必要がなくなりますから。

このようなプラグインはSpinnaker Plugin Frameworkを通じて実現しています。これによってArmory以外のソリューションも複雑な手順を経ずに組み込むことが可能になります。ですので、Spinnakerがプラットフォームというのは正しいですね。

日本市場への施策は?

Odio:日本は大変魅力的な市場ですね。私は日本の製造業に大きな敬意を持っています。なぜならSoftware Development Life Cycleは日本の製造業の改善の手法を取り入れているというのが私の見方だからです。「常に改善を行い、問題があればすぐに直す」という手法は、ソフトウェアデリバリーの中でカナリアデプロイメントにも見られる発想なのです。だから日本のエンタープライズ企業にもArmoryの製品を使ってもらいたいと思っています。

Wetzler:具体的には日本でのビジネスはパートナーを通じて行う予定です。日本には多くのシステムインテグレーターがいることは理解しているので、そういうパートナーと良い関係を作ってArmoryの製品を拡販していきたいと考えています。

カナリアデプロイメントの話が出てきましたが、分散システムの場合、常に何かが壊れているということを前提にするという考えから、意図的に壊れている状態を作るカオスエンジニアリングが注目されています。Spinnakerにそれを取り込む予定は?

Odio:先ほど話したSpinnaker Plugin Frameworkのパートナーに、Gremlinも含まれています。そのためGremlinのソリューションを組み込んでカオスエンジニアリングを実装することは、すでに可能になっています。他にもHashiCorpのNomadやPlumi、AtlassianのJiraなどもプラグインとして利用できます。

最後になりますが、Armoryにとってのチャレンジは?

Wetzler:そうですね、カンファレンスなどで起きることですが、Armoryの説明の前にSpinnakerの説明をしようとした時に、機能が多すぎて何から説明したらいいのか困ることくらいかな(笑)

セールス担当のKit Wetzler氏

セールス担当のKit Wetzler氏

Armoryは2016年の創業とまだ歴史は浅いものの、Spinnakerの特化したソリューションを提供することで、オープンソースソフトウェアをコアとしたビジネスとして離陸していると言える。それは、JP Morgan Chaseから「マルチクラウドを対象とした継続的デリバリーのソリューションがイノベーティブである」として表彰されていることからもうかがえる。

最後にArmoryという名前について「どうしてArmoryという社名に?」と訊いたところ、「もともとはCloudArmoryという名前だったが、もっとシンプルに顧客に武器を提供する場所、武器庫(Armory)という名前が良いということでこの名前になった」と由来を語ってくれた。問題は「Armory」で検索すると、ゲーム関係のサイトが多くヒットしてしまうことだろうか。日本でのビジネス展開にも注目していきたい。

2019年11月にJP Morgan Chaseから表彰された

2019年11月にJP Morgan Chaseから表彰された

JP Morgan Chaseに関する記事は以下を参照されたい。

参考記事:Armory Inducted into JPMorgan Chase Hall of Innovation

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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