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データ分析システムの全体像を理解する(5) 自由な分析環境とデータガバナンス強化を両立させる組織体制

2021年4月20日(火)
平井 明夫

はじめに

前回は、「定型的な分析」と「非定型な分析」で使用されるレポーティングツールとセルフサービスBIツールについて解説しました。

セルフサービスBIツールの導入に伴い、エンドユーザーが直接アクセスを希望するデータソースの範囲が拡大することは、IT部門が維持してきたデータガバナンスに対する脅威となります。今回は、自由な分析環境とデータガバナンス強化を両立させる組織体制について解説します。

セルフサービスBIツールが与える
データガバナンスへの脅威

セルフサービスBIツールは、一般的なビジネスユーザーが企業内に存在するさまざまなデータソースに自由にアクセスし分析を行うことで、初めてその効果を発揮します。さらに、ビッグデータなどを対象に統計的な分析手法を使用する場合は、今まで利用してこなかった社内外のデータソースを新たに入手し、それらを組み合わせて分析用途に利用することが想定されます。

このようにデータ利用が広範囲に進むと、社内におけるデータの所在や利用用途の把握が著しく困難になってきます。しかし、企業による情報漏洩が大きな社会問題となり、データガバナンスの強化が大命題となっている現在、企業内にある全てのデータのアクセス権限を管理することなど不可能です。

したがって、セルフサービスBIツールを活用するためには、実際に分析を行うユーザーが必要とするデータだけを過不足なくアクセス可能にするような管理体制が求められます。

「コーポレート・データモデル」とその目的

このような管理を実現するには、まず、企業が保有する全てのデータの「地図」が必要となります。この「地図」は、「コーポレート・データモデル」と呼ばれ、どのようなデータが、どこに存在し、各データが相互にどのような関係を持っているかが書かれています。

しかし、「コーポレート・データモデル」を作成するには、多大な人的リソースを投入する必要があり、その運用(最新情報に基づく継続的な更新作業)には専任組織の設置が必要となります。これは企業にとって大きな投資であり、データのアクセス管理という守りの側面からだけでは、投資を正当化することは困難です。

「コーポレート・データモデル」の本来の目的は、企業データへのアクセス管理という「守り」にあるわけではなく、企業データの有効活用という「攻め」にあります。つまり、データのアクセス管理のためだけではなく、企業が保有するデータを最大限に活用するための必要条件として「コーポレート・データモデル」の整備を推進する「攻め」のデータガバナンスがこれからの正しい在り方となるでしょう。

攻めのデータガバナンス実現の阻害要因

攻めのデータガバナンスを実現するためには、多くの乗り越えるべき壁がありますが、その最大のものが、IT部門とエンドユーザー部門の間に存在する組織的な壁です。

例えば、「コーポレート・データモデル」を作成するときにはIT部門とエンドユーザー部門による共同作業が必要になります。個々のデータの所在はIT部門が把握しているが、単にどのテーブルのどの列にあるのかという情報だけでは、データの有効活用という目的は達せられません。エンドユーザー部門が個々のデータの意味、さらには他のデータとの関係性といったビジネス的側面からの情報を追加して初めて、「コーポレート・データモデル」と呼べるに相応しいものになります。

しかし、こういった共同作業を短期間ならともかく長期間にわたって永続的に行うことは、今までの組織体制では困難です。したがって、IT部門とエンドユーザー部門の中間に位置する専任組織の設置が必要不可欠となります。このような専任組織を実現するために、過去、さまざまなコンセプトが打ち出されてきました。ここでは、3つの代表的なコンセプトを登場順に紹介します。

攻めのデータガバナンス実現を目指した
3つのコンセプト

1. BICC(BIコンピテンシー・センター)の設置

「BICC」は、企業のデータ活用を促進するさまざまな機能を提供するために設置される独立組織のことです。IT部門とエンドユーザー部門の双方から任命された担当者によって構成される社内横断的な組織で、企業のデータ管理を一元的に実施する役割を担っています。場合により、外部のコンサルタントやベンダーの技術者もメンバーに加わります。

BICCは機能面ではコーポレート・データモデルの作成・更新といった、攻めのデータガバナンスを実施する能力を備えていましたが、体制面では各部門から出向扱いで集まったメンバーや外部リソースが中心であったため、組織へのロイヤリティやモチベーションに関しては問題が起こりやすかったのです。また、短期間でメンバーが交代するケースも多く、経験やスキルが組織として蓄積できず、維持・継続性に欠けていました。BICCで発生したこのような課題を、個人の職務・職責として正式に定義することで解決しようとしたのが「データスチュワード」です。

2. データスチュワードの任命

データスチュワードとは、データ管理に精通した専門家、あるいはデータ管理の責任者としての職責を表す言葉です。どちらの意味においても、BICCよりは個人単位での定義としての意味合いが強くなっています。したがって、BICCにデータスチュワードが参加しているとか、複数のデータスチュワードからなるチームをBICCと呼ぶこともあります。従来のBICCがさまざまな専門性を持つ担当者の寄せ集めであったのに対し、データスチュワードは、明確にデータ管理を専門分野とするスペシャリストとして定義されています。

データスチュワードを組織の中核に据えることで、モチベーションの低下、継続性の欠如、スキル蓄積の不足といったBICCが抱えている課題に改善が見られました。こうして、攻めのデータガバナンスに関する施策が継続的に実行されるにつれ、より広範囲のデータを管理対象として、より高いレベルのガバナンスを実現するために組織の重要度が増していきましたが、この段階に至って、必要となる戦略レベルでの判断の欠如、投資拡大に向けての予算権限の不足といった新たな問題が発生しました。

そこで登場したのが「CDO(Chief Data Officer:最高データ責任者)」という第3のコンセプトです。

3. CDO(最高データ責任者)の任命

企業におけるデータ管理に関して最高の権限を持つ役職者という意味ですが、実際にはBICCの長、あるいはデータスチュワードの最上位者という位置づけになります。ただし、それまでと異なるのは、経営に関する権限も持っていることです。これには、BICCの中立性やデータスチュワードの専門性だけでは、データ管理に関わる施策を推進できなかった反省が活かされています。

ここで紹介した3つのコンセプトは、いずれも「攻めのデータガバナンス」を実現するための組織的な取り組みですが、同時期に提唱されたわけではなく、初期のコンセプトの反省を活かして、次のコンセプトが登場するという改良の積み重ねとなっています(図1)。

図1:攻めのデータガバナンスを目指した組織体制の歴史的な流れ【出典】ITR

つまり、「攻めのデータガバナンス」の実現は難易度の高い取り組みであり、成功する企業でも長い時間を要することが歴史的に証明されていると言えます。しかし、難易度が高くとも「攻めのデータガバナンス」実現への取り組みは避けて通れない課題です。なぜなら、企業が競争力を維持するために必要なデータ活用は、「コーポレート・データモデル」なしに実現できないからです。企業は今後も自由な分析環境とデータガバナンスの強化を両立させる道を探して、試行錯誤しながらの取り組みを継続する必要があります。

おわりに

今回は、データ分析の高度化ステップの第3段階である「非定型な分析」のまとめとして、自由な分析環境とデータガバナンス強化を両立させる組織体制について解説しました。次回からは、データ分析の高度化ステップの第4段階である「統計的な分析」について解説していきます。

株式会社アイ・ティ・アール リサーチ・フェロー

外資系ソフトウェアベンダーやITコンサルティング企業において、20年以上にわたり、BIツール製品のマーケティング、BIシステムの導入支援に携わる。2013年よりITRのリサーチ・フェローとして活動。現在は、事業企画コンサルタントとしてIT企業の新規事業立上げ、事業再編を支援するかたわら、ITRアカデミーにおいて、データ分析スキルコースの講師を務めるなど、データ分析を中心としたテーマでの講演・執筆活動を行っている。

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