データマネジメントの基礎を学ぶ(4)データマネジメント高度化ステップ(後編)

2022年3月11日(金)
平井 明夫

はじめに

前回は、データマネジメント高度化の4ステップのうち、第1ステップのデータ統合の実現と、第2ステップのより高品質なデータの取得について説明しました。今回は、第3ステップのデータガバナンスの確立と戦略的データ活用と第4ステップの分析能力の高度化について説明します。

データガバナンスの確立と戦略的データ活用

データマネジメント高度化の第3ステップにおける最初の目標は、データガバナンスの確立です。

データガバナンスでは、データ管理の計画を立て、実行を監視し、徹底させることで、データ資産の管理を統制します。実行の監視と徹底には、組織で承認された権限が必要であり、この権限を持つ監督者は、データマネジメントの他の領域の実行者とは組織的に独立した存在である必要があります。

データガバナンスが確立された段階で、ドキュメントとコンテンツ管理、参照データとマスタデータ、データウェアハウジングとビジネスインテリジェンスといった戦略的データ活用への取り組みが可能になります。

ドキュメントとコンテンツ管理では、 リレーショナル・データベースに保存されないデータや情報の取得、保存、アクセスと利用の制御を行います。この領域の主な目的は、法令遵守、訴訟対応、情報開示や事業継続といったリスクマネジメントです。

参照データとマスタデータでは、業務遂行に必要となる共通のマスタデータを作成し、組織間で共有する仕組みを提供します。マスタデータのなかでも、コードとそのコードが表す意味(名称など)が対になった単純な構造を持つものを参照データと呼びます。

データウェアハウジングとビジネスインテリジェンスでは、意思決定を支えるデータを提供してレポート作成、分析に携わるナレッジワーカーを支援するため、計画を立案し、実行し、統制します。

図1:データガバナンスの確立と戦略的データ活用【出典】ITR

分析能力の高度化

第3ステップに到達した企業は、ひとまずデータマネジメントの最終ゴールに到達したといえますが、その先には、さらなる高度化に向けたステップが存在します。DMBOK第二版では、その高度化の対象領域の1つとして、ビッグデータの活用とデータサイエンス手法の導入が提示されています。このステップでは、未知の知見を発見するためにビッグデータを収集し、統計解析、機械学習といったデータサイエンス手法を用いて分析を行います。

ビッグデータは、これまでデータマネジメントが対象としてきたデータとは、データ量、データの生成速度、データ形式の多様性などの点で異なるため、第3ステップまでで確立したデータマネジメントのプロセスに変更や追加が必要となります。

例えば、データ量の増大やデータ形式の多様性に対応するために、キーバリュー型、ドキュメント型、グラフ型といった非リレーショナルな構造を持つデータベースを使用する場合、データモデリング領域において、それまでとは異なるモデリング様式を導入する必要があります。また、データの生成速度に対応するため、データ統合領域においてはリアルタイム性への要求が拡大し、ESBやCEPといったツールを使ったリアルタイム型データフローの実装が必要なる場合も考えられます。

ビッグデータの活用とデータサイエンス手法の導入は、DMBOK第二版ではデータマネジメントの対象領域には含まれていませんが、独立した章を立て、11領域と同じレベルで解説されているため、将来の改版時には対象領域に加わることが予想されます。

図2:分析能力の高度化【出典】ITR

データマネジメント高度化における注意点

前述の通り、データマネジメント領域は広範囲にわたり、全てを同時に実現することは現実的ではありませんが、単一の領域に限っても、いきなり全てのデータやシステムを対象に実現することは容易ではありません。いずれの領域においても、重要度や緊急性を考慮し、対象とするデータやシステムの優先順位を決めたうえで、段階的に実施することが現実的といえます。

データマネジメントの11領域とその高度化ステップはフレームワークであり、データマネジメントの完成に向けたマイルストーンを示しています。しかし、新規システムの構築にあたって、これを杓子定規に適用することは得策ではありません。例えば、DXにおける新規ビジネスの立ち上げに必要なシステムは、ビジネス上の要件として、実現スピードが最も優先されるでしょう。このような場合は部分的な適用にとどめるなど、極力、実現スピードを落とさないような妥協点を探る必要があります。データマネジメントへの取り組みにおいては、ともすればイチかゼロかといった二分法的思考に陥りがちですが、柔軟な対応こそが成功の鍵といえます。

データマネジメントの実現は、多くの場合、組織の変革や社員の意識改革を必要とします。特に、データガバナンス領域での監視と徹底においては、監督機関の設置と監視権限の付与が必要であり、大企業が全社を対象とする場合やグループ企業にまたがる監督が必要な場合は、既存の組織体制と監督機関の間で連携できるように調整しなければなりません。また、データセキュリティの実現にはユーザーの協力が必要不可欠であり、情報提供やトレーニングを通じて全社員がデータセキュリティを重視する文化を醸成しなければなりません。

図3:データマネジメント高度化における注意点【出典】ITR

おわりに

今回まで4回にわたって、データマネジメントを体系化したDMBOKの概要と、その最新版で追加されたデータ統合領域を解説するとともに、データマネジメントの高度化ステップについて考察してきました。

第1回から第12回までで解説したデータ分析の高度化ステップと合わせて、このデータマネジメントの高度化ステップを理解することで、システム企画担当者がデータ分析業務の内容およびデータ分析システムの全体像を理解し、システム企画やプロジェクト計画に必要となる基本的な知識を習得したことになります。

本連載は今回で最終回となりますが、IT技術は日々進化していますので、後日、最新動向を皆さんに紹介する機会をいただければ幸いです。

株式会社アイ・ティ・アール リサーチ・フェロー

外資系ソフトウェアベンダーやITコンサルティング企業において、20年以上にわたり、BIツール製品のマーケティング、BIシステムの導入支援に携わる。2013年よりITRのリサーチ・フェローとして活動。現在は、事業企画コンサルタントとしてIT企業の新規事業立上げ、事業再編を支援するかたわら、ITRアカデミーにおいて、データ分析スキルコースの講師を務めるなど、データ分析を中心としたテーマでの講演・執筆活動を行っている。

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