SODACON Global 2021、トヨタが「一緒に走り続ける」と宣言したコネクテッドカーのインフラ
オープンソースのストレージ管理ソフトウェアSODAのオンラインカンファレンスから、トヨタが行ったセッションを紹介する。
動画:SODACON2021 Day2 Japan Track Data Processing for Connected Car Use Case and Expectations to SODA
トヨタが語る「大変革」
プレゼンテーションを行ったのはコネクテッド先行開発部に所属する伊藤雅典氏だ。タイトルは「コネクテッドカーにおけるデータ処理とSODA Foundationへの期待」というもので、トヨタの考える将来のクルマのあり方、それを支えるIT基盤に関する解説、そして今回の主催者でもあるSODA Foundationに対する思いを語っている。
このセッションではトヨタが考える「大変革」、「大変革を支えるITの課題」、「コネクテッドカーを支えるデータ情報基盤」の3つに絞って説明が行われた。
最初のトピックであるトヨタが考える大変革とは、クルマの持つ意味が変わってきたということだ。都市部では「クルマを所有する」という需要が減ってきてはいるものの、「移動」に関する需要は存在しており、その変化に対応しなければいけないというものだ。クルマを作って売ることが企業の存在価値であったトヨタが、意識改革に取り組んでいることを示している。また業界や国の規制も変化しており、スライドに書かれているCASE(Connected、Autonomous、Shared/Service、Electric)という略語に表れているようにネットワークに接続され、自動運転が可能で、所有するのではなくサービスといて利用する形態の電気車両に移行し始めていることを、外的要因として解説した。
興味深いのは、トヨタはこのクルマの変革をスマートフォンの変革になぞらえて考えていることだろう。伊藤氏は、スマートフォンが半導体などの部品とそれをまとめるソフトウェアプラットフォームによって垂直統合ではなくなったことを例にあげて、CPUやメモリーなどのパーツが重要なのではなく、プラットフォームを作る側になることがなによりも重要だと考えていることがわかる。
これをクルマに当てはめてみれば、コモディティ部品を集めて電気自動車を作るTeslaのような企業が現れる時代には、エンジンもシャーシもそれほど重要ではなくなるというわけだ。クルマを情報機器と見なして、全体をサービスとして統合することで差別化が行われるということだろう。トヨタが「100年に一度の大変革」と語る際には、トヨタが始まって以来の最大の変化が来ているという意味が込められていることを強調した。
このスライドではコネクテッドカーに関わるデータ量が激増することを解説した。コネクテッドカーの台数も増加し、1台から発生するデータ量も増大するという予想だ。このデータ量にはECU(Electronic Control Unit)などのクルマ自体から発生する観測データ、周囲の環境に対するセンシングデータなどが含まれており、トヨタが考える「データ」にはクルマと道路や周囲から収集したセンサーからのデータも含まれることが示されている。
またコネクテッドカーからのデータを処理するIT基盤は、一次的にデータを収集するエッジサイト、WANを経由してデータを処理するクラウド基盤から構成されることがわかる。データセンターを「マルチ/ハイブリッドクラウド」と表記していることや、データ収集にはモバイルネットワークを使うことからもわかるように、実施される国や地域の状況に合わせて柔軟なシステム構成を志向していることが透けて見える。グローバルでビジネスを展開しているトヨタらしいと言える。
コネクテッドカー用IT基盤の変遷
ここからは、コネクテッドカー用のIT基盤の過去を紹介する内容となった。
最初のスライドでは、オンプレミス+ウォーターフォール型の開発であった黎明期を経てベンダーが用意したクラウド(IaaS)の上で新しい基盤を作ったものの、スケールできない構造であったこと、使いこなすには高いスキルが必要だったこと、コスト削減にはあまり効果がなかったことなどを挙げて説明した。
2016年から始まった第2世代では、ビッグデータを処理するためにオープンソースソフトウェアの活用をはじめたことを解説したが、やはりオープンソースを使いこなすには従来とは異なったスキルが必要となったこと、コストが試算よりも増加したことなどを反省点として挙げた。
2019年からは最新の第3世代が始まっている。ここでは明確に運用コスト削減、アジャイル開発を目的にプラットフォーム選びから始まったことを説明。
サーバーレスを使ってサーバー運用コストを削減するということに呼応して、2020年8月にトヨタとAWSの戦略的な業務提携が発表されていることからも、IaaS運用のコストを圧縮するためにパブリッククラウドのリーダーであるAWSと連携し、サーバーレスに向かったと考えるべきだろう。トヨタとAWSの業務提携については以下のページから参照されたい。
参考:トヨタとAWS、トヨタのモビリティサービス・プラットフォームにおける業務提携を締結
今後に向けた考察
そしてこれまでの経緯を受けて、プラットフォーム開発及び運用に関しての考察を行った。
ここでは問題解決のために「常に振り返る」ことが必要だとして、これまでのトヨタが行っていた「カイゼン」の発想で取り組むべきだと解説した。特にスケーラビリティ、トラブル対応、コスト増加、自身で維持できることなどがポイントであると語った。またオンプレミスに戻るのではなく中身を自身で理解して使うこと、開発部隊、運用部隊との関係を良好に保つことがより重要なポイントとであると語った。
ここからはトヨタが重要視しているポイントについて解説したスライドを使って説明。ハイブリッドクラウドによる全体コストの最適化、見える化のためのオブザーバビリティ(可観測性)の確保、解析と予測、さらに壊れることを前提としたシステムのための手法として、カオスエンジニアリングに注目していることを解説した。
最後のパートに『「データ」目線の課題』というスライドを用意していることから、SODAのイベントでのセッションであることを忘れていないことはわかる。ここではデータの種類として「動画」が挙げられていることに注目したい。
最後にSODA Foundationへの期待として、トヨタが関わるようになった経緯を解説した。トヨタは、オープンソースを扱うには高いスキルが必要だと第2世代のIT基盤の際に理解したことを前述した。そこから、単に使うだけではなく仲間作りをしながらオープンソースソフトウェアに関わるという姿勢が重要だと気付いたのが重要なポイントだろう。2017年からEUAC(End User Advisory Committee)のメンバーとしてOpenSDSに関わっていたという経緯を経て、今回の発表になったと思えばトヨタのプレミアムスポンサーという役割は必然だったとも言える。
そして単にSODA Foundationへの期待だけを語るのではなく品質の安定化への貢献、自社のWebサービス関連のシステムから利用を始めると語り、ユーザーではなくコントリビューターとしてもコミュニティに貢献を行う姿勢を見せてセッションを終えた。
全般的にトヨタの危機意識と将来計画などが垣間見えたセッションであった。パブリッククラウドベンダーの名前や利用しているソフトウェアなどの詳細が一切省かれ、コスト増の要因となった具体的な説明も省かれた内容で、よりシステム内部の話を聞きたかった視聴者には若干の欲求不満が残ったのではないだろうか。トヨタが得意とするコストについても定量的な情報は明かされず、定性的な内容になってしまったのは残念と言える。今後、より詳細な内容を明かしてくれる機会があることを願わずにはいられない。
連載バックナンバー
Think ITメルマガ会員登録受付中
全文検索エンジンによるおすすめ記事
- オープンソースのストレージプロジェクトSODAがコミュニティミーティングを実施。最新のリリースなどを解説
- 分散ストレージ管理のOSS、SODAが開催したミニカンファレンスを紹介
- オープンソースのストレージ管理ソフトウェアSODAがオンラインカンファレンスを開催
- Open Source Forum:Huaweiが開発をリードするSODAに注目
- Zabbix Conference Japan 2023から、トヨタの事例を解説するセッションを紹介
- オープンソースのストレージプロジェクト、SODAが6月14日にテックカンファレンスを開催
- Open Source Summit Japan 2022開催。車載からストレージ、Kubernetesまで幅広いトピックをカバー
- Open Source Summit Japan 2023開催、初日のキーノートとAGLのセッションを紹介
- 日本初の「OpenShift Commons Gathering」がオンライン開催、キーパーソンが国内外におけるOpenShiftの新事例と推進戦略を語る
- KubeCon China 2024から車載システムの開発をクラウドで行うNIOのセッションを紹介