Open Source Summit Japan 2023開催、初日のキーノートとAGLのセッションを紹介
The Linux Foundation(LF)が主催するOpen Source Summit Japan 2023が2023年12月4日から6日の3日間、都内で開催された。今回は12月5日のキーノートとLFの下部組織Automotive Grade Linux(AGL)のExecutive Director、Dan Cauchy氏のセッションを紹介する。Open Source Summitのアジェンダは以下から参照して欲しい。
●アジェンダ:https://events.linuxfoundation.org/open-source-summit-japan/program/schedule/
冒頭のセッションに登壇したのはLFのExecutive DirectorであるJim Zemlin氏だ。
Zemlin氏はLFでの仕事について、外部から見える姿と実際にやっている仕事には大きな違いがあるとして、カンファレンスでのプレゼンテーションなどの派手な部分だけが強調されがちだが、実際には掃除人のような地味で目立たないが必要な仕事をこなす役割であると説明し、会場からの笑いを誘った。
そしてLFがビジネスに与えているインパクトについて解説を行い、特にネットワーク、クラウド、生成型AIについてはAT&T、ドイツテレコム、ベライゾン、チャイナモバイル、トヨタ、アドビ、OpenAIなどさまざまな分野の企業の名を挙げて、多くのオープンソースソフトウェアが活用されていると説明した。
最後にLFのカルチャーについて「Helpful、Hopeful、Humble」(助け合うこと、前向きであること、謙虚であること)だと紹介してセッションを終えた。
LF自体が多くのオープンソースプロジェクトを引き込みながらLinuxというOSそのもののホスト組織から拡大してきた経緯を紹介し、基本的な姿勢や発想が変わっていないことを強調した内容となった。
その後はLinus Torvalds氏と長く交友関係にあるVerizonのDirk Hohndel氏の対談を挟んで登壇したAGLのDan Cauchy氏のセッションを紹介する。動画は以下から参照して欲しい。
●動画:Keynote: AGL State of the Alliance: Looking Toward 2024 and Beyond - Dan Cauchy
Cauchy氏はAGLの現状と今後の展開について解説したが、最初の問い掛けとして使われたのは運転時にスマートフォンをナビゲーションや音楽などのために使っている状況が発生しているということだ。これはスマートフォンの体験をそのまま自動車にも応用するという発想だが、スマートフォンを使わなくても自動車には大きなモニター、スピーカー、そして電源が用意されているはずだ、それを使わないのはどうしてだろう? という質問だ。車載システムそのものがスマートフォンに比べて使いにくいことがその大きな原因だろうと暗に示されているが、真の原因は車載システムが多くのOSや独自のソフトウェアに分断化されていることであるというのが次のスライドだ。
ここではQNX、Windows、そしてさまざまなバリエーションのLinuxプラットフォームがそれぞれのメーカーの事情によって採用され、結果として業界全体がより良い方向に向かっていないということを訴求している。
「AGLのゴール」というスライドでは、LinuxをベースにしたOSとさまざまなミドルウェア、ライブラリーなどを使って単一のプラットフォームを提供すること、ターンキーシステムではなく7割から8割の機能を実装し、残りはメーカーが拡張できる領域を残すこと、オープンソースソフトウェアの最良のものを採用し、エコシステムを作ることなどを挙げた。
このスライドでは2022年から2027年までの予測を含んだ車載システムのOSについてのリサーチ結果を紹介。中国市場で多く使われているAndroidからフォークしたいわば「野良Android」がトップになっているが、そのシェアは徐々に下がっていること、そしてAGLが今後も伸びるだろうということを示している。しかしGoogleが提供する公式のAndroid Automotiveが2022年から2027年にかけて大きく成長するだろうという予測については言及しなかった。現時点のAndroid Automotiveは車載インフォテイメントがメインのプラットフォームであり、いわゆるスピードメーターなどの計器類との連係やADAS(Advanced Driver Assistant System)などが含まれていないことは覚えておくべきだろう。
AGLの構成についてはUnified Code Base(UCB)というコンセプトの元、FlutterによるGUI、Systemd、Jenkinsなどで構成され単一のソースコードとして提供されることが改めて解説された。
AGLが実装されるシステムについて、SoCがマルチコアプロセッサによってより強力になることでデータセンターのサーバーと同じように継続的なアップデートやセキュリティパッチの適用などが行われるようになったことを紹介。また組込系システムと従来のクラウド向けシステムの境界線が曖昧になりつつあることも合わせて紹介した。
そしてこれまでAGL内の部会(Expert Group)として存在したVirtualization EGとContainer EGが目指す目的、方向性が近いということで統合され、Software Defined Vehicle(SDV)EGが結成されたことを紹介。
システムとしては強力なマルチコアのSoCの上に仮想化基盤が載り、その上で仮想マシンが実行され、さらにその上でアプリケーションが実行される形式だ。
SDV(仮想化とコンテナ化)によってサーバー上のアプリケーションと同じような構成に近付かせるのが目的だ。結果としてさまざまなアプリケーションが継続的にアップデートされる状況を作り出すことができる。
そして将来的には現在の「ハードウェアに固定されたソフトウェア」という状態からハードウェア、つまり車種に関係なくソフトウェアが提供され、更新される状態になる。Hypervisorの上でLinuxだけではなくAndroidもRTOSも実行可能になるというのが最終的な目指す姿であることが説明された。
また開発環境として、AWS上でARM64のプラットフォームAWS Graviton上でAGLがサポートされることになったと紹介。組込系として重要な位置を占めるArmプロセッサがAWSでサポートされたことには大きな意味があるだろう。
GUIについてはこれまでのQtからFlutterに移行していることを紹介。Qtについてはすでに言及されることもなくなっていることに注目したい。トヨタが車載向けの移植に貢献したGoogle発のGUIツールキットであるFlutterが、今後は車載システムのメインのGUIとなるだろうと解説した。
トヨタについては、Flutterの公式サイトにユースケースとして紹介されているので参照して欲しい。
●参考:Improving infotainment systems at Toyota with Flutter
最後にCESでの出展、AGLのメンバーミーティング(2024年2月に東京、7月にベルリンで開催予定)を紹介してセッションを終了した。
AGLがプロジェクトとして順調に進行していることを強調する内容となったが、2024年1月にラスベガスで行われたCESではソニーとホンダの合弁会社であるソニーホンダモビリティが発表したAFEELAという新しいEVではMicrosoftと協力して生成型AI(Co-pilot)を活用することが発表され、すでに競争のポイントはOSではなくその上で実行される機能に移っている。今後は先進的なアプリケーションのホストシステムとしていかに差別化を示せるかがポイントになっていくだろう。
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