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AIは実社会でどのように活用されているのか⑤ー画像認識(3)(Image Recognition)

2022年3月16日(水)
梅田 弘之(うめだ ひろゆき)

海洋

衛星画像やドローンを使って海の状態を調査することも試みられています。ここでは3つほど取り組み事例を紹介します。

衛星を使った赤潮の発生予測

水産庁は2016〜2018年に地球観測衛星の画像を使って有明海における赤潮発生を予測する研究を行いました。ここではLANDSATやひまわりなどの衛星データを使っていましたが、報告書によると今後は国産衛星しきさい(GCOMーC)のハイパースペクトル観測センサーを使った成果が期待されています。ただし、ネットで続報が見当たらなかったのでその後の取り組みがどうなっているのかちょっと心配です。

ドローンを使った赤潮の早期発見

KDDIは長崎大学や長崎県五島市、システムファイブ社などと連携して2019年にドローンを使って有明海における赤潮の早期発見の実証実験を行っています。この取り組みでは、まず撮影ドローンのカメラで海水の着色状態を検知し、赤潮発生リスク箇所が見つかったら採水ドローンを派遣して海水を採取して分析します。こちらの動画では、2種類のドローンの働きぶりがよくわかります。

漁業向け情報サービス「エビスくん」「漁場ナビ」

赤潮検知の取り組みはまだ研究段階ですが、衛星データや漁船の実測値を使ってリアルタイムの情報を提供している「エビスくん」というサービスは多くの漁業で利用されています。ここでも赤潮の元となる植物プランクトンの水色図も提供していますが、漁業に役立つ海面水温図がサービスの中心です。魚は種類によって集まる水温がありますが、海水温をリアルタイムで提供してくれるため目指す魚のいそうな場所がわかるのです。こちらの動画を見ると、今後の漁業のあり方にわくわくします。

こうした活用法にスタートアップ企業も参入しています。その1つとしてオーシャンアイズ社の「漁場ナビ」の動画を紹介しておきます。

水産業/水産加工品

当社はAISIAという自社AIを使って工場の製品の外観検査を行っているのですが、良品と不良品を分類する技術を使って魚の種類や大きさ、品質を判定して仕分けする相談もときどき入ってきます。水産業における仕分けや品質判定はどのような実状なのか、いくつか取り組みを見てみましょう。

漁獲した魚の自動選別

実際、獲れた魚の選別作業をAIで自動化する試みは各地で行われています。ここでは八戸の取り組みを紹介しましょう。2021年1月に青森県産業技術センター食品総合研究所は、八戸漁港の定置網で獲れたサケやタラ、ニシンなどの魚の種類と大きさを自動選別する実証実験を行っています。こうした取り組みが実用化されて、高齢化社会の人手不足を解消できると良いですね。

マグロの品質判定(目利き)

品種や大きさの仕分けではなく、品質の分類にチャレンジしている例もあります。2019年5月に電通国際情報サービスと電通は、マグロの品質判定(目利き)を行う画像解析AIシステム「TUNA SCOPE」を開発しました。翌20年4月には三浦恵水産がこれを使ってニューヨークやシンガポールにマグロの輸出を行ったと発表しています。さらに同年7月にくら寿司がマグロの品質判定に「TUNA SCOPE」を使い、A(最上級)とB(上級)とM(並)に区分されたうちAのまぐろを「極み熟成AIまぐろ」として発売しました。期間限定でしたが、話題性もあって売れ行き上々だったそうです。

農業

漁業で衛星やドローンを利用した事例を紹介しましたが、農業でもかなり前から衛星やドローンを使ってさまざまな取り組みが行われています。ここではドローンの映像を使った実証実験を紹介しましょう。

ドローン空撮による作付け状況確認

ドローンで赤潮調査の実証実験を行った長崎県五島市では、2019年7月にオプティム社と一緒にドローン空撮による麦の作付け確認の実証実験を行っています。こちらの動画を見ると固定翼ドローン(飛行機型)を用いて農地を空撮し、AIを使って作物の作付け状況を判定しています。

人工衛星の活用

ドローンは狭い地域の画像データを取得するのに向いていますが、人工衛星は広範囲のデータを定期的に取得できる特徴があります。ひと口に人工衛星と言っても通信衛星や軍事衛星、惑星探査衛星などさまざまな種類があり、気象衛星やはやぶさ2などは科学衛星と呼ばれています。衛星には光学センサやマイクロ波放射計、レーダー、熱赤外センサーなど複数のセンサーを搭載しており、目的に応じて使い分けられています。

災害対策や気候変動を観測する人工衛星が地球観測衛星です。現在、活躍しているのは次のような衛星です。

表3:日本の主な地球観測衛星

種類 目的 主な衛星
環境監視衛星 気候変動や水循環変動を観測 しきさい(GCOM-C)
しずく(GCOM-W)
高空間分解能衛星 災害や資源を観測 だいち2号
温室効果ガス観測技術衛星 CO2やメタンなどの濃度を計測 いぶき2号

人工衛星のセンサーで得られるデータの特徴として空間分解能と時間分解能、観測幅があります。空間分解能はどれだけ細かく見るかを表すもので、例えば100mより10mの方が詳細なデータが得られます。一方、時間分解能は同じ地点をどれくらいの頻度(1日1回、6時間で1回など)で見るかを表すものです。また、観測幅はどれくらいのエリアを観測できるかです。この3つは相関関係があり、例えばだいち3号で空間分解能を3m、10m、100mにすると観測幅はそれぞれ50km、70km、350kmとなります。

なお、静止衛星という言葉がありますが、これは赤道上空で地球の自転に合わせて回っている人工衛星です。日本の上空を回る衛星は静止していません。例えば、だいち2号は地球を97.3分周期で南北方向に回っており、東西に軌道をずらしながら回帰日数14日で元の場所に戻ってきます。そして日本の上空を通過するときの撮影データをつなぎ合わせて観測データとしています。1台の衛星ではなく複数の衛星を回すことで時間分解能を2倍、3倍と上げることができます。

JAXA(宇宙航空研究開発機構)は人工衛星を打ち上げているほか、水稲の作付面積を推定するソフトウェア「INAHOR(稲穂)」を開発して東南アジアの農業に役立てたり、水稲の作況を判断する農業気象情報システム「JASMIN 」を使ってアジアの気象状況をリアルタイムに提供したりしています。

また、人工衛星から得られる観測データをパスコ社などの民間企業に提供し、漁業や農業、店舗など幅広いビジネス用途で活用されつつある状況です。

現在、どのような人工衛星が運用されているか、開発中のものも含めてJAXAのホームページで紹介されています。ちょっとロマンを感じるので、興味のある方はご覧ください。

環境保護や自然災害対策

人工衛星や航空機、ドローンなどにセンサーを積んで遠隔データを解析して社会に役立てることをリモートセンシング(Remote Sensing)と言います。こうした技術を地球環境保護や自然災害対策に活用する取り組みも活性化しています。

パスコの衛星データ利用サービス

株式会社パスコは、航空写真や衛星データなどを使って地形や都市の形状データや河川や森林などにおける自然災害対策など幅広いサービスを提供している会社です。こちらの動画では、天候に左右されにくい合成開口レーダー(SAR)を使った地上の観測の様子や光学衛星を使った災害状況把握、AIを使った自動地図作成の災害への適用などの取り組みが紹介されています。

Ridge-iの森林管理

AIを使ったソリューションを提供するリッジアイ社は、2021年12月に森林伐採状況を衛星画像解析で可視化する「GRASP EARTH Forest」を発表しました。ニュースリリースを見ると、全地球の変化を約1週間の周期で捉える様子が示されています。大手だけでなくスタートアップ企業が続々とこの分野に参入すると、一気に衛星データ活用が広まると期待しています。

<<Note>>画像変化検出

画像認識技術の中に「画像変化検出」という分野があります。これは、衛星データや監視カメラなどで同じ場所を撮影し続けて、時間帯の異なるデータを比較して変化した箇所を検出する技術です。画像変化検出は、火災や地震、河川氾濫など自然災害の被害状況把握や予測、森林や海水、河川など環境変化の検知、都市や道路など都市環境の状況変化など幅広い用途に使われています。

Tellus Satellite Challenge(テルス衛星チャレンジ)

Tellus Satellite Challengeは、衛星データを使ったデータ分析コンテストです。経済産業省が産業利用を目的とした衛星データプラットフォームTellusの利用促進を目的として行っているもので、Kaggleのように課題とデータが提供され、データサイエンティストが課題解決方法を考案して応募するコンペイベントです。これまでに4回実施されており、衛星データを使った災害対策の促進や技術者育成に役立っています(表4)。1位100万円、2位60万円、3位40万円と賞金も高額なので、腕に覚えがある人はぜひチャレンジしてみてください(まだ、第5回のアナウンスがないのがちょっと不安ですが)。

表4:Tellus Satellite Challenge

開催時期 課題 データ 参加者/モデル数
第1回 2018年10月 土砂崩れ検出 熊本地震のSARデータ 544人/3400モデル
第2回 2019年1月 水域における船舶検出 高解像度光学衛星ASNRO-1データ 448人/575モデル
第3回 2019年10月 海氷領域のセグメンテーション だいち2号のSARデータ 557人/2074モデル
第4回 2020年8月 海岸線抽出 だいち2号のSARデータ 803人/2783モデル
<<Note>>Kaggle

Kaggleは、世界中のデータサイエンティストに機械学習のコンペを提供する世界最大のプラットフォームです。企業が解決したい課題とデータをKaggleに投稿し、Kaggle会員(カグラー)が課題解決に最適な予測モデリングを考案して投稿します。課題を出した企業がその解決方法を採点し、順位付けを行って賞金を渡すというAI分野のクラウドソーシングです。

2017年にGoogleがKaggleを買収し、現在はGoogle傘下で活動しています。世界中のデータサイエンティストと競争するというとビビりますが、参加することで他の参加者のコード解説も読めるのでスキルアップにはもってこいのサービスです。ぜひ、オリンピックの精神「参加することに意義がある」でトライしてみてください。Tellus Satellite Challengeの上位入賞者も世界のカグラーが多いです。

おわりに

今回は、前半で世界の自動運転車の状況をレポートしました。米中に比べて日本が遅れているのは技術だけでなく規制緩和が進まない、万一の事故の責任を負いたくない、などの姿勢が障壁となっているようにも思います。

また、後半は衛星データを使った取り組みを紹介しました。まだ実証実験が中心であること、3〜4年くらい前の取り組みが多く最近は下火になっていることが少し気がかりです。でも、ハイプカーブも「過度な期待のピーク時」から「幻滅期」を経て「啓発期」に成長しています。この局面で情熱を失わずにチャレンジを続けることが、未来を切り開くために重要なのだと思います。

著者
梅田 弘之(うめだ ひろゆき)
株式会社システムインテグレータ

東芝、SCSKを経て1995年に株式会社システムインテグレータを設立し、現在、代表取締役社長。2006年東証マザーズ、2014年東証第一部上場。

前職で日本最初のERP「ProActive」を作った後に独立し、日本初のECパッケージ「SI Web Shopping」や開発支援ツール「SI Object Browser」を開発・リリース。日本初のWebベースのERP「GRANDIT」をコンソーシアム方式で開発し、統合型プロジェクト管理システム「SI Object Browser PM」、アプリケーション設計のCADツール「SI Object Browser Designer」など、独創的なアイデアの製品を次々とリリース。最近は、AIを利用したサービスに取り組んでいる。

主な著書に「Oracle8入門」シリーズや「SQL Server7.0徹底入門」、「実践SQL」などのRDBMS系、「グラス片手にデータベース設計入門」シリーズや「パッケージから学ぶ4大分野の業務知識」などの業務知識系、「実践!プロジェクト管理入門」シリーズ、「統合型プロジェクト管理のススメ」などのプロジェクト管理系、最近ではThink ITの連載をまとめた「これからのSIerの話をしよう」「エンジニアなら知っておきたいAIのキホン」を刊行。

「日本のITの近代化」と「日本のITを世界に」の2つのテーマをライフワークに掲げている。

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