AIは実社会でどのように活用されているのか⑥ー画像認識(4)(Image Recognition)
はじめに
これまでに取り上げた駅の顔パス認証、自動運転車、衛星画像を利用した自然環境保護などは、まだ実用化に向けた取り組み段階のものが多かったです。しかし、防犯分野ではAIの画像認識技術はかなり実用化されています。今回はAIの搭載により大きく機能UPした防犯カメラが、すでに身近に出回っているという状況を紹介します。
防犯カメラ
ひと昔前の防犯カメラは犯罪や事故が発生したときの様子を記録するだけのものでした。しかし、最近の防犯カメラは事後だけでなく、防犯という文字通りリアルタイムで発生を通知したり、未然に防いだりするところまで役割が広がっています。
こうした機能拡張に大きく役立っているのがAIです。刑事ドラマなどで警察が録画された映像をひたすら見て犯罪や事故の状況をチェックするシーンがよくありますが、この人間が判断する作業をAIの画像解析技術で行えるようになりました。防犯カメラで撮影しながらリアルタイムで犯罪や事故を検知し、通知することが可能になったのです(図1)。
ひと口にAIと言っても、実は用途に応じていろいろな技術が使われています。主な技術と用途をピックアップしてみましょう。
a. 物体検出と動体検出
映像の中に特定の物体が写ったときに、それが背景と違うものだと検知して追跡する技術が物体検出(Object Detection)です。自動運転車が車や人などを認識するのにも使われている技術ですね。物体検知のうち動きがあるものを検知する技術を動体検出(Motion Detection)とも言います。玄関や裏口などに防犯カメラを設置して人が写ったときにそれを検知するなどに使われますが、カメラによっては自動追尾する首振りタイプもあります。
単なる検知だけでなく動作も含めて判定する場合もあります。例えば人が退出するのはOKだけど侵入者はNGだったり、不審物の置き去りや物を持ち去ったりという行為を検知してアラートを鳴らすなどの使い方です。
b. 異常検知
検出した物体の動作が正常なのか異常なのか判定するケースもあります。フェンスを乗り越える侵入者やうろついて様子を伺う不審者、盗る前にきょろきょろする万引き犯などの動きを学習してリアルタイムで通報するような使い方です。
判定の方法としては、ルールベースと機械学習ベースがあります。フェンスを乗り越えるなど特定エリアへの侵入検知はルールベースの方が良さそうですが、現場に応じて個別にルールを設定する必要があります。
機械学習ベースには、怪しい動作を何パターンか学習する異常モデルと、平常時の動作を学習してそれを逸脱(行動偏差大)した動作を怪しいと判定する正常モデルがあり、それぞれ一長一短があります。異常モデルは想定外の“異常”を見過ごす可能性があり、正常モデルは誤検知が増える可能性があります。万引き犯の動作を学習するのは異常モデル、街頭で怪しい人物を発見するのは異常モデルなど、用途に合わせて使い分けると良いでしょう。
c. 顔認証
AIの得意な顔認証を搭載した防犯カメラも増えてきました。こちらにも正常モデルと異常モデルを当てはめてみましょう。工場やオフィスなどで社員の顔を記憶しておき、特定エリアに未知の人が立ち入ったときに知らせるような応用が正常モデル。万引きした人やクレーマーの顔情報をブラックリストとして記録し、その人が次に来店したときに警備員に知らせるような使い方が異常モデルです。これはちょっと嫌な気分になる使い方ですが、例えば迷子になった子どもの写真をもとに施設内で探し出したり、徘徊老人を見つけ出したりするような使い方なら安心ですね。
中国では街角や公共施設、観光地などに数億台の防犯カメラが設置されています。日本と違うのは、単なる録画だけでなくAIを使った顔認証と連動しているところです。この恐れ多いのが「天網」というシステムで、老子の「天網恢恢疎にして漏らさず」という言葉から取ったのでしょうね。14億人の国民の顔情報がほぼ登録されていると言われており、犯罪者や容疑者、要注意人物が映るとたちまち通報されます。
日本人からすると怖いのは、一般市民も監視対象だということです。信号機の上にカメラが何台も設置されていて、信号無視する人や車を見つけると名前と写真が広告板に表示されますし、晒されるだけでなくスマホに罰金の支払い通知が届きます。
中国では利用者に信用スコアを付け、スコアの高い人に特典を与えるサービスが普及しています。最も有名なのが世界で12億人が利用している決済サービス大手アリペイの「芝麻信用」です。スコアリングルールは非公開ですが、資産や収入や利用状況などで360点〜950点までの範囲で点数が決まります。
「値付けされるのは嫌だな」と思うかもしれませんが、実は日本でも普通にやっています。最近、銀行やクレジットカードのサービス利用者にシルバーやダイヤモンドなどのランクが付けられるようになって来ましたが、あれが信用スコアです。
期日に決済できないと当然スコアが下がるのですが、芝麻信用は「交通違反」などでも下がるとのことで、当局がアリペイと情報共有している様子が伺えます。それであれば、逆に民間から滞納や保有資産などの情報をもらって当局自体も密かにスコアリングしているのではと想像してしまいます。
ベビーモニター
中国の事情でぶるっと来たので、話題をベビーモニターに変えましょう。防犯カメラが防犯目的なのに対し、ベビーモニターは赤ちゃんや幼児、ペット、介護などの「見守りカメラ」です。部屋の中にカメラを設置して撮影した映像をお母さんのスマホに映すという「録画&遠隔監視」が典型例ですが、こちらもAIを搭載して危ない予兆や事故を「リアルタイム通知」するタイプが増えています。
使われる機能は防犯カメラとほぼ同じで、動体検出した対象を追尾する首振り機能があります。また、赤ちゃんがベッドから落ちる、幼児が危ない場所に近づく、など危険な状態をリアルタイム検知する異常検知もあります。顔認証もありますが、人間の骨格情報をもとに部位ごとに動作検知や姿勢推定することで、危ないものを触ろうとしている、立った状態から倒れるなど、より詳細な状況判断を行えるものもあります。
AI搭載防犯カメラとベビーモニター
実は、ネットショップでも安価なAI搭載防犯カメラを売っています。今回は楽天市場で売っている商品を3つほど紹介しましょう。
1つはGENBOLT Security社の「GB213H」という商品です(国産です)。低価格モデルですが、AIを使って人だけを検知する「AI人体検知」や人の動きを自動追跡する「知的トラッキング」機能のほか、赤外線カメラにより夜間でも映像が撮れ、検知した際にスマホに通知するだけでなくLED発光やアラーム音で威嚇する機能も付いています。
2つ目は塚本無線の「ちび太」という商品です。こちらも人感センサーで熱のあるものだけを検知してスマホに通知したり、光と音で威嚇する機能があります。内蔵バッテリで充電できるため電源不要が特徴で、オプションでソーラーパネルを付けることもできます。
ベビーモニターの方は国産も多いのですが、中国の「ieGeek」という会社のセキュリティカメラを紹介しましょう。この製品の特徴は500万画素という高精細なカメラを搭載していることで、顔の認識や動体検知、自動追跡、音声検知など、コンパクトなボディながらひと通りの機能を搭載しています。
ここで紹介した3つの防犯カメラとベビーモニターの特徴と楽天市場での販売価格を表にまとめました。
メーカー/商品名 | 主な機能(アピールポイント) | 楽天市場の販売価格 |
---|---|---|
GENBOLT Security GB213H |
|
8,860円 |
塚本無線 ちび太/ちび太PRO |
|
ちび太:8,890円 ちび太PRO:14,800円 |
ieGeek Security Camera 826 |
|
15,100円 |
おわりに
防犯カメラ(Security Camera)は古くからある分野で、塚本無線も1989年設立と歴史があります。一方でGENBOLT Securityは2015年、ieGeekは2016年からスタートしており、わずか数年で世界に展開しているのは見事です。AIというパラダイムシフトをチャンスと捉えてディジタル破壊(digital disruption)を巻き起こしているわけで、我々もこうした姿勢を見習いたいものです。
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