「DApps」と「メタバース」

2023年9月7日(木)
梅田 弘之(うめだ ひろゆき)
第7回の今回は、今後社会広く普及していくと思われる「DApps」と「メタバース」について解説します。

NFTの規格

Ethereumの仮想通貨に使われている規格はERC20ですが、NFTに関しては別の規格が用意されています。代表的な規格はERC-721とERC-1155です。ERCはEthereum Request for Commentsの略で、イーサリアムのスマートコントラクトの規格を表します。これらの規格はすべての取引(トランザクション)と所有権が正しく記録されることを保証します。

ERC-721とERC-1155の違いを表1に示します。以下、項目に沿って説明しましょう。

表1:ERC-721とERC-1155の比較

項目 ERC-721 ERC-1155
リリース時期 世界初のNFTの標準規格 2019年6月に採用された新しい標準規格
利用しているDApps CryptoPunksやCriptKittiesなど多くのNFTが採用 The SandboxやAxie Infinityなど多くのNFTが採用
トランザクションとNFTの関係 1トランザクション1NFT 1トランザクションで複数のNFTを操作可能
トークンの種類 NFTのみ NFTと代替可能トークンの両方

リリース時期

ERC-721は世界初のNFT標準規格なので、多くのNFTがこの規格を採用しています。一方、ERC-1155は後発の分、ERC-20とERC-721の特徴を合わせ持ち、最近はERC-721と人気を2分しています。ただしERC-721との互換性がないためERC-721上のDAppsを移行するのは大変です。

トランザクションとNFTの関係

ERC-721は1つのトランザクション(取引)で1つのNFTを操作しますが、ERC-1155は1つのトランザクションで複数のNFTをバッチ処理で操作(移動や発行など)できます。

例えば、ゲームのキャラクターとアイテムを丸ごと売却する場合、ERC-721だとそのNFTの数だけトランザクションが発生しますが、ERC-1155なら1トランザクションにまとめることができます。取引手数料(GAS)はトランザクションごとにかかるので、ERC-1155の方がガス代を節約できるメリットがあります。

トークンの種類

ERC-721で発行できるトークンはNFTのみで、トークンに固有のIDを振って唯一無二のものとします。一方、ERC-1155は1つのスマートコントラクトでNFT(代替不可能)とFT(代替可能)のどちらも発行・管理できる規格で、マルチトークンスタンダードとも呼ばれています。

例えば、The Sandboxで取引されるアイテムやアセットはNFTですが、売買に使われる内部通貨のSANDはFTです。ERC-1155を採用することにより、1つのDAppsで両方を取り扱えるわけです。

NFTマーケットプレイス

仮想通貨はCoincheckやDMM Bitcoin、GMOコインなどの取引所で売買できます。これに対してNFTを売買できる場所がNFTマーケットプレイスです。表2に人気の高いマーケットプレイスを示します。最も人気の高いのがOpen Seaで、ここはイーサリアムだけでなくPolygon(ポリゴン)やFlow(フロー)などのブロックチェーンもサポートしています。

Magic EdenはSolanaというブロックチェーンを使っています。Solanaは、Ethereumよりも高速に処理できるとされており、Ethereumで開発されたDAppsを移行できる互換性を持っています。

表2:主なNFTマーケットプレイス

Market Place 特徴 規格 主なNFT
OpenSea さまざまなNFT規格をサポートする一番人気 ERC-721、ERC-1155、
Polygon、Flowなど
BeepleやJose Delboなどのデジタルアート、AxieInfinity、Decentralandなどのゲーム
Rarible NFTに焦点を当て独自トークンPARIを発行 ERC-721
ERC-1155
BeepleやPranksy、Fewoxiousなどのデジタルアート
Fundation クリエータが招待制で参加できる ERC-721 FidenzaやMad Dog Jones、Nyan Catなどのデジタルアート
Magic Eden EthereumでなくSolanaを基盤としている SPL Token Degenerate Ape AcademyやSolanautsなどのデジタルアート
Coincheck NFT 日本のCoincheckが運営。日本円での購入や売却が可能 ERC-721 三代目JSB、ドラゴンクエストⅦなど

まとめ

第7回の今回は、以下の内容について学習しました。

  • NFTは2021年~2022年がトレンドのピークだったが、現在も着実に普及している
  • メタバースも2021年~2022年がトレンドのピークだったが、今度どのように発展するかはまだ判断しにくい
  • DAppsはスマートコントラクトを利用して実現できるP2P型のアプリケーションで、さまざまな分野に広がりつつある
  • Ethereumの仮想通貨に使われている規格はERC-20。NFTに使われているのはERC-721とERC-1155
  • スマートコントラクトはイーサリアム以外のブロックチェーンでも提供されてきている
  • NFTの取引はOpen SeaやRaribleなどのNFTマーケットプレイスで行われている

よく、デジタルアートそのものをNFTと理解していたり、NFT化されたデジタル資産はコピーできないなどと勘違いする人がいます。しかし、NFTが実物とは別のデジタル証明書であるという関係を理解すれば、逆に今後どのようにNFTを活用できそうかイメージが広がると思います。

次回は、具体的な活用方法として広がってきたDeFi(分散型金融)について解説します。お楽しみに!

著者
梅田 弘之(うめだ ひろゆき)
株式会社システムインテグレータ

東芝、SCSKを経て1995年に株式会社システムインテグレータを設立し、現在、代表取締役社長。2006年東証マザーズ、2014年東証第一部、2019年東証スタンダード上場。

前職で日本最初のERP「ProActive」を作った後に独立し、日本初のECパッケージ「SI Web Shopping」や開発支援ツール「SI Object Browser」を開発。日本初のWebベースのERP「GRANDIT」をコンソーシアム方式で開発し、統合型プロジェクト管理システム「SI Object Browser PM」など、独創的なアイデアの製品を次々とリリース。

主な著書に「Oracle8入門」シリーズや「SQL Server7.0徹底入門」、「実践SQL」などのRDBMS系、「グラス片手にデータベース設計入門」シリーズや「パッケージから学ぶ4大分野の業務知識」などの業務知識系、「実践!プロジェクト管理入門」シリーズ、「統合型プロジェクト管理のススメ」などのプロジェクト管理系、最近ではThink ITの連載をまとめた「これからのSIerの話をしよう」「エンジニアなら知っておきたいAIのキホン」「エンジニアなら知っておきたい システム設計とドキュメント」を刊行。

「日本のITの近代化」と「日本のITを世界に」の2つのテーマをライフワークに掲げている。

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