「嫌われる勇気」なんて持たない

2024年5月16日(木)
宮川 文吾
本連載では、演出家であり脚本家である著者の経験から、他業種の視点でエンジニアに役立つ知識などを紹介していきます。

気温が上がってくると、気球温暖化に貢献してしまっている我々ぽっちゃり族(表現に配慮)には、ツラい季節がやってきましたね。宮川文吾です。こんにちは。

寒いって、洋服を着込めば良いですが、着ぐるみを直接装着している我々にとって、暑いはこれ以上脱ぐことが出来ないことを意味するので、本当に厳しいです。電気代などが高騰化している今年なんて、冷房設定やそもそも冷房を使わせてくれるかどうか本当に死活問題です。機械なんて水分厳禁なのに、キーボードが水辺に整備されたコンクリートブロックのように汗で水に浸かったらどうしてくれるのでしょうか? 答えは「どうしようもない」です。もしくはそれまでに痩せとけ、です。今回もこんなノリでお送りします。

「嫌われる勇気」って、本当に必要?
―セミナー話とリアルな悩み

私、年に数回講演をさせていただく機会がございまして、今は主に「リピーターの獲得方法について」か「面白いシナリオはどのような構成になっているのか」なのですが、皆さんは10年ほど前にヒットした「嫌われる勇気」という書籍をご存知でしょうか? 世界で300万部以上売れた、哲学者アドラー氏の理論を元にした生き方に関する指南書で、当時テレビドラマにまでなった程でした。

この書籍、脈絡もなく簡単に言えば、

人の悩みってぇのは、全部が対人関係なんだよ。
んで、他の人に嫌われないように生きるってぇのは、自分をがんじがらめにしちまうよなぁ?
だからさ、「嫌われる勇気」を持っちまえば、全部解決するさ。やってみ?

っていう内容です。あれ、違うか。違ったらごめんなさい。

で、もう何年も前の話だからぶっちゃけて言えば、

嫌われたくないよ。もちろん

って思いながらセミナーやってました。ごめんなさい。

だって嫌じゃないですか。嫌われるの。いや、誤解のないように言いますが、この「嫌われる勇気」って本の内容はめっちゃ良いですよ? 読んだことがない方は、ぜひ一度読まれたら良いと思います。実際、生きるのが楽になったという人が量産されていましたから。

でも、

俺は嫌われたくない。チヤホヤしてほしい。みんな俺を好きになれ。

って思っていましたってだけ。煩悩の塊。

ディズニーから学んだ
ちょっとした船長の大冒険

自分が東京ディズニーランドのジャングルクルーズで船長をやっていた、まだ10周年にもなっていなかったあの頃(ちなみに今は41周年)、私の煩悩はピークに達しておりました。だって、まだ10代だったんだもん。

ジャングルクルーズって皆さん、体験されたことはございますか。身も蓋もない言い方をすれば、船長がずっとしゃべって進行するタイプのもので、それは船長の力量で「オモロイ」「オモんくない」が決まるという、スリリングなアトラクションです(これ、深夜に自宅へ誰か来るヤツやな……)。

当時は、まだアトラクションの数も今ほど多くなく、クリッターカントリーもトゥーンタウンもないような時代ですから、ジャングルクルーズも120分待ちなんて当たり前でした。そんな並んでいただいているゲストのために、精一杯楽しんで帰っていただこうと、純情少年だった私は、関西人の血を駆使して爆笑のクリティカルヒットを連発します。

この爆笑ってヤツは麻薬と同じですね。「もっともっと」と求めはじめてしまうんですね……。マニュアルがあるのにアドリブ連発。ここで書くと、それこそ大変なことになるレベルのアドリブで、会心の一撃満載の船旅を提供していたのでした。

だって、待ち時間が長いのに“自分の”船に1日何度も乗ってくれるギャル軍団がいるんだもん。前回とは違うバージョンをお届けしたいじゃないのさ。

ところが、私が出勤する日は、決まってエラい人に居残り説教を頂戴し、延々とディズニーの哲学について、夜のディズニーランドを散歩しながら叩き込まれるのでした。当時の私からすると

一番ウケてた俺が、なんで毎回怒られるねん!

と釈然としない気持ちでいっぱいでしたが、大人になって演出家になり、当時100回以上説教していただいたKさんの言葉を思い出して、納得するのです。

つまり、

それは、ディズニーランドのテーマ性に合っているか?

「テーマ性からズレたキャストを演じていなかったのか」ということです。当時の私がやっていたのは自分のファンを作る行動で、東京ディズニーランドのファンを作る行動ではなかったんですね。

この「テーマ性」というのは本当に大事で、いくら良い話をしても、いくら部下を叱っても「テーマ性」がズレていると、相手にはミスリードを起こしてしまうものです。

この会社は、どんな理念を持った会社なのか。
このプロジェクトの目的は、いったいなんなのか。
このチームの目標は、ゴールは、何なのか。

何かを発信するときに、一旦立ち止まって頭を整理してから言葉にすると、相手に届きやすくなると思います。脚本のセリフも、いつもあの時のKさんの言葉を思い出しながら、大事に大事に書いているのです。

あ、今回は割と良い感じで終わったんじゃない?

1974年生まれ。演出家・脚本家。コンサート演出、フェス演出、テーマパークショー演出など多岐に渡る。脚本代表作は「はなかっぱ」「ベイブレードバースト神」などアニメ作品が中心。

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