相手に「分かりやすく話を伝える」方法を伝授するの巻【その1】

2024年12月17日(火)
宮川 文吾
本連載では、演出家であり脚本家である著者の経験から、他業種の視点でエンジニアに役立つ知識などを紹介していきます。

「宮川さんのカラダって、なんでそんなに暖かいんですか?」
「それはね、地球温暖化に貢献しているカラダだからだよ」

もはや毎年の風物詩となっているこんな会話が街から聞こえてくる季節になりました。宮川です。こんにちは。ちなみに上の会話はまったく回答になっていませんが、場は暖まります。

「伝わらない問題」の悩み

皆さんはお仕事で、報告書をまとめたり、クライアントに説明したりするときに、

「あなたの話は、何が言いたいのかさっぱり分からない」

なんてことを言われたりした経験はありますか。人に何かを説明したり、報告したり、言い訳したり。文章を考えて相手に伝える機会というのはとても多いものです。そこで登場する「伝わらない、まとまらない」問題。自分の中では「何で伝わらないんだろう?」「これで通じるだろう」と思っていても、実際は相手に全然伝わっていないことって意外と多いです。

この問題の厄介なところは、自分自身は決して「分かっていない」わけではないことです。自分の中では分かっているけど、相手に伝わらない。自分としてはきちんと説明しているはずなのに、なぜか相手に「何が言いたいのかさっぱり分からない」と言われてしまう。これはすごく悲しいことですよね。

今回からは年末にふさわしく(どこがやねん)、言いたいことが伝わらない「ダメな例」と、その解決策を伝授しましょう。

伝わらない理由は「結論が長い」から

例えば、よく面接などで聞かれるこんな質問。皆さんならどう答えますか。

【問題】
これまでの人生で学んだことの中で、あなたが最も大切だと思うことは何ですか?

簡単なようで、難しい質問ですよね…。例えば、こんな風に答えてみたとします。

【回答例1】(悪い例)
浪人生となった私は、学校に行かなくてもいい状況になったので、最初は規則正しい生活を送ることができなくなってしまいました。朝起きる時間も不定期になって、あっという間に昼夜逆転し、その影響で勉強時間が不定期になって成績が低迷しました。しかし、きちんと寝る時間と朝起きる時間を決めたら規則正しい生活が送れるようになり、成績も向上しました。

習慣がないとどんなに努力しようとしても結果が付いてこない。逆に、習慣をきちんと設定することで、自分を律することができ、結果も付いてくる。だから自分は、習慣を作ることが最も大切だと感じています。

これ、なかなかに悪文なのですが、一体この文章のどこが悪いのでしょうか。皆さん、分かりますか?

最も重要なのは「結論を短くまとめる」こと

第一に、この文章は「結論が長すぎる」のです。私は世の中の「話が伝わらない問題」の8割以上はこれが原因だと思っています。言いたいことが長いから、結局何を伝えたいのか相手に伝わらないのです。ムダにエンディングが長い映画やドラマも、良い話を詰め過ぎて結局誰のなんのドラマだったんだろう……ってなりますよね。

この回答で言うなら、この人はいったい何が「最も大切だ」と考えているのか分かりますか。早寝早起きでしょうか? 毎朝決められた時間に起きることでしょうか? 生活のリズムを崩さないことでしょうか?

「あなたが最も大切だと思うこと」を聞かれているのに、それがとても分かりにくい。これはひたすら自分の考えや状況を相手に伝えて「もっと自分を知ってほしい」と思いすぎていることが原因なのですね。

でも、この問題は本当に簡単に解決できます。「結論を一言でまとめる」のです。そして、それを冒頭で回答することです。それだけで印象が全く変わります。

【回答例2】(改善した例)
私が学んだ中でいちばん大切だと思うのは、習慣作りです。私は浪人を経験しましたが、学校に行っていたときに比べて生活のリズムが崩れやすくなってしまい、あっという間に昼夜逆転してしまいました。その影響で勉強時間も不定期になり、成績も低迷してしまいました。でも、きちんと寝る時間と朝起きる時間を決め、そのとおりに過ごすことで規則正しい生活が送れるようになり、成績も向上しました。

習慣がないと、どんなに努力しようとしても結果が付いてこない。逆に、習慣をきちんと設定することで自分を律することができ、結果も付いてくる。だから自分は、習慣を作ることが最も大切だと感じています。

結論を冒頭に述べるメリット

いかがですか。話している内容は前回とほとんど同じです。でも、はじめに一言で結論を言うことで「結局何が言いたいのか?」が見えやすくなっていませんか。

早寝早起きや生活のリズム、決められた時間に起きること。そこらへんを全部ひっくるめて「習慣作り」と言っただけで、とても分かりやすくなりましたよね。このように、言いたいことを一言ではじめに言ってしまうだけで、文章はぐっと伝わりやすくなるのです。

「でも、最初に結論を言ってしまったら、最初と最後で2回結論を言うことにならないのか?」

と思う人もいるかもしれませんが、それで良いのです。

どんな文章でも、本でも記事でも授業でも何にでも言えることですが、最初に言いたいことを言って、その詳しい説明を述べ、最後に結論をもう1回言う、というのは、ずっと昔からある「人間が説明されて分かりやすい文章の型」なのです。

最初に手短に「何が言いたいのか」を語ることで、読者も「ああ、こういうことについて語りたいんだな」と分かり、その詳しい内容も理解しやすくなる。その上で最後にもう一度結論があるので「こういうことが言いたかったんだな」と伝わりやすいのです。

なんだか調子に乗ってきたので、次回もこの続きを書きたいと思います。これを読めば、文章を書いたり、話したりするのが、恐ろしいほど得意になりますよ! …なんか、今回はとてもマジメだ……

1974年生まれ。演出家・脚本家。コンサート演出、フェス演出、テーマパークショー演出など多岐に渡る。脚本代表作は「はなかっぱ」「ベイブレードバースト神」などアニメ作品が中心。

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