異文化コミュニケーションの秘訣。一番大切なのは英語じゃない?

2020年10月7日(水)
山口 秀子(やまぐち ひでこ)

はじめに

外国人とのコミュニケーションにおいて、一番大切なことは何でしょうか。

「英語!」という声が聞こえてきそうですが、私はそうではないと思います。もちろん英語はコミュニケーションツールとしてとても便利ですが、英語という「言語」だけでコミュニケーションが成立するわけではありません。

「英語が話せればどうにかなる」と考える方は多いかもしれませんが、どんなに英語の文法や単語の知識だけを身につけても、異文化コミュニケーションを円滑に進めることは簡単ではありません。

そこで今回は、英語に頼りすぎない非言語コミュニケーションの重要性、そして異文化コミュニケーションにおける大切な心構えについて解説します。

コミュニケーションにおける
言葉の役割はたったの7%

「メラビアンの法則」をご存知でしょうか。人はコミュニケーションにおいて、言語情報7%、非言語情報93%を基に印象を決めることを示した法則です。

言語情報の影響がたったの7%しかないというのは驚きですが、例えば、暗い顔をしながら低い声で「私は幸せです」と言われても、「いや、絶対嘘でしょ」と思ってしまうことを想像すれば、「確かに」と思えるかもしれません。

非言語情報には、声の質や大きさ・話すスピードを含む「聴覚情報」と、見た目・表情・視線を含む「視覚情報」の2種類があり、視覚情報がコミュニケーションにおいて約55%と半分以上の影響を与えると言われています。

この法則はどの言語で話していても同じはずですが、外国語でのコミュニケーションになると、ついつい言語自体に意識が行き過ぎてしまい、それ以外の非言語の部分が疎かになってしまう傾向があります。しかし、外国語だからこそ、非言語コミュニケーションをフルに活用して、よりスムーズに意思疎通ができるようにしていくことが大切です。

異文化コミュニケーションにおける
重要な心構え

英語はツールです。英語を話すことが目的なのではなく、何かを伝えることが目的です。その目的を達成するためには、言語である英語はもちろん、それ以外の非言語的な要素もフル活用して伝えることが大切です。

どんなに英語の文法や単語を覚えても、伝える練習にはなりません。学んだ知識を駆使して伝える練習をし、間違いを通して学ぶことで、初めて英語でのコミュニケーションが上達します。

私は中学で英語が好きになり、高校で英語をしっかり勉強してアメリカの大学に出願できる英語力をつけましたが、学生時代の留学先では多くのコミュニケーションの壁に直面しました。学校での勉強だけでは伝える練習や間違える経験が全く足りていなかったことを実感し、よく落ち込んだことを覚えています。

一方、英語が全くできない状態で留学した友人が、持ち前の明るさとフレンドリーさでどんどん友達を作り、留学生活を満喫している様子に驚きました。彼の英語は間違いだらけでしたが、とにかく単語を並べて大袈裟なジェスチャーで話しているうちになぜか伝わり、いつの間にか自然に意思疎通ができるレベルまで英語が上達していたのです。

言語である英語ではなく、非言語の要素を上手く使って異文化コミュニケーションを楽しむことの大切さを、彼の姿を通して学びました。

英語よりも大切?
非言語コミュニケーション3つのポイント

ここでは非言語コミュニケーションの要素の中から、英語を話す際に特に意識するべき3つのポイントを紹介します。

① 視線

英語を話す際には、アイコンタクトを意識しましょう。英語を話すこと自体や間違えないように話すことに必死になって、目が泳ぐ人や斜め上を見ながら話す人、思い切り目を瞑りながら言葉を探す人など、英会話のレッスンをしていると様々な視線に気付きます。

また、間に通訳者を入れて話している際に、話を伝えるべき相手ではなく、通訳者の方を見て話す人もよく見かけます。通訳している側としてはとてもやりづらく、「相手に失礼ではないか」と感じてしまうこともありました。

最低限のマナーとして、相手の目を見ながら話すことが大切です。それだけでも相手への敬意を表すことができますよ。

② ジェスチャー

私は英語で話していると、自然に身振り手振りが大きくなります。英語が完璧ではないので、どんな手段を使っても「しっかり伝えたい!」という思いの現われかもしれません。

日本語ではそれほど重視されないジェスチャーですが、英語を話す人は大袈裟なジェスチャーをするという印象を持つ方も多いのではないでしょうか。

これは本当にその通りで、例えば日本語の「分からない」という言葉をジェスチャーで表現すると、どのような動きを想像しますか? 私は、首をちょこっと横に傾ける仕草を想像します。

一方、英語の“I don't know.”という言葉をジェスチャーで表現するとどうでしょうか。肘を曲げた状態で両腕を横に広げ、両手のひらを上に向けて、手を上に動かす仕草を想像する方が多いのではないでしょうか。

日本語と英語を比べると、明らかに英語のジェスチャーの方が大きいですよね。このようなジェスチャーを「恥ずかしい」という方もいるかもしれませんが、これも大切なコミュニケーションツールの1つです。ジェスチャーで伝えられるのであれば、どんどん活用すべきだと思います。

③ 声の大きさ

人は自信がないと、自然に声が小さくなります。声が小さいと、話の聞き手はどのような印象を受けるでしょうか。「私と話すのが楽しくないのかな?」「具合が悪いのかな?」とマイナスな印象しか与えません。

また、英語に自信がない人によく見られるのが、文の終わりまではっきり言い切らず、言葉の最後が曖昧になる現象です。この原因は「間違えたくない」「間違えるのが恥ずかしい」という意識があるためだと思われます。「間違えないこと」の重要度が「相手に伝えること」よりも高くなってしまっているのです。

日本の英語教育では、文法等の正確さを測るテストが多いせいか、日本人は英語を話す際に「間違えてはいけない」という意識がとても強いです。

しかし、コミュニケーションにおいて最も大切なのは「伝える」ことですよね。どんなに文法が間違っていても、相手に自分が言いたいことが伝わればOKなはずです。当たり前のようですが、異文化コミュニケーションの場面では特に、大きな声ではっきり話すことを意識しましょう。

世界のノンネイティブは
細かい間違いなど気にしない

日本人はその謙虚さゆえか、ある程度英語の基礎知識を持っているにも関わらず、「英語を話せない」という人が多いです。誰もそんなに高いレベルの英語力は求めておらず、英語でコミュニケーションが取れればそれで十分なはずです。

実際、世界で英語を話す人たちはもっと気軽に、英語という言語とその他の非言語的な要素をフル活用して、異文化コミュニケーションを成立させています。

私はこれまで様々な国籍の人と仕事をしてきました。その中の多くが英語はノンネイティブ、母国語ではなく外国語として英語を習得した人たちでした。そして、彼らの話す英語が結構適当であることに驚き、「それで良いんだ」ということを知りました。

とは言え、もちろん皆、最低限の文法ルールは理解しており、ビジネスで意思疎通ができる英語力を持つ人ばかりでしたが、それぞれが母国語の影響を受けて独特の間違いをするのがとても興味深かったです。

例えば、スウェーデン人はstayをliveと言うことが多く、例えばI stayed at the hotel.(私はホテルに滞在しました。)と言うべきところを、I lived in the hotel.(私はホテルに住んでいました。)と言うので、アメリカ人の同僚によく修正されていました。

しかし、スウェーデン語ではstayとliveを意味する単語が同じなので、ついつい間違えてしまう、でも意味は分かるんだから良いじゃん? と開き直っていました。

また、months(マンス)をmonthes(マンスィズ)と発音するフランス人の話を聞いていると、こちらまでmonthesと言ってしまうから不思議です。フランス人はフランス語独特の発音・リズムが抜けない人が多いので、特にrが入る単語を発音するとフランス語にしか聞こえなくなります。

他にも、fをpと発音する韓国人や、早口すぎてネイティブでも聞き取るのが大変なインド人など、母国語の影響を受けてオリジナルな英語を話します。皆、グローバルプロジェクトのマネジャーや役員クラスの駐在員ですが、誰も自分の英語の間違いなど気にせず、「伝わればOK」というスタンスで英語をツールとして使いこなしていました。

また、最近は中国人のママ友とLINEでよくやりとりをするのですが、対面では英語で問題なくコミュニケーションが取れるものの、英語をタイプするのは苦手なようで、翻訳アプリをフル活用してメッセージを送ってくれます。中国語から英語に自動翻訳されたフレーズをそのままコピペしているので、たまに理解不能なメッセージが送られてきて面白かったりします。

でも分からなければ質問すれば良いだけなので、日常的なやりとりには何も不自由は感じません。むしろ翻訳アプリというツールを駆使しながら、連絡を取り合い、意思疎通ができることは嬉しいことだなと感じます。

おわりに

私自身、英語を習得する過程で多くの間違いをして、その度に学んできました。rの発音がうまくできず、reallyがlilyに聞こえると笑われたり、早口なアメリカ人の言っていることが全く分からず気まずい思いをしたり、ある単語の持つ他の意味を知らずに恥ずかしい思いをしたり。今でも間違えることはしょっちゅうあります。でも間違いを通して学ぶことができるので、間違えてナンボだと考えるようにしています。

私たち日本人は「間違えないこと」に意識が行き過ぎる傾向があることを知り、だからこそ「間違えても伝われば全然OK!」と自分に言い聞かせながら、英語と付き合っていくことが大切です。

そして「伝える」という本来の目的を達成するためにアイコンタクトやジェスチャーをフル活用し、大きな声で話しながら異文化コミュニケーションを楽しんでいきましょう!

著者
山口 秀子(やまぐち ひでこ)
株式会社グローレン
株式会社グローレン マネージャー。学生時代、ガーナに1年間留学。外資系自動車メーカーにて、南アフリカへの2年の駐在やグローバルプロジェクトのPMO、役員通訳を勤める。日系商社にて海外メーカーとの取引・交渉も経験。現在は、ビジネス英会話等のレッスンカリキュラム・教材作成を担当し、オンライン学習プログラムMOVAEICを企画・運営。TOEIC985点。

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