KubeCon+loudNativeCon North America 2025の2日目のキーノートから、Mialchimp、Bloomberg、Airbnb、ByteDanceが相乗りしたセッションを紹介する。これは「Turn Up the Heat: Driving Cloud Native Innovation into Real-World Impact」と題されたセッションで、登壇したのはMailchimpのMaura Kelly氏、BloombergのSteven Bower氏、AirbnbのAdam Kocoloski氏、そしてByteDanceのLiguang Xie氏の4名だだ。
このセッションに注目したのは、競争率が数十倍というKubeConのプレゼンテーションに対してユーザー企業4社が共同で時間を分配する形でセッションを行っているように見えるからだ。これが可能なら日本からのCall for Presentationもテーマある程度絞ったトークを共同で申請すれば採用される確率が高まるのではないか? と思った。実際に話の内容もモノリシックなシステムのマイクロサービス化、オープンソースを使ってシステムを構築しているという点では内容は似通っている。約18分のセッションタイムを4社で分け合うということは1社4分程度の時間でポイントだけを訴求する形になっているため、言ってみれば4つのライトニングトークをキーノートの中で行ったという形になっている。
動画は以下から参照して欲しい。
●動画:Turn Up the Heat: Driving Cloud Native Innovation into Real-World Impact
Mailchimp
最初に登壇したのはIntuitが2019年に買収したメール配信サービスのMailchimpだ。ここではモノリシックなシステムとして開発されたMailchimpが、Intuitに買収されることでKubernetesベースのオープンソースをフルに活用したマイクロサービスとして作り直されたことを紹介している。
ここで初期のMailchimpはモノリシックなアプリケーションとして開発されたが、Intuitによる買収をきっかけにマイクロサービス化され、CI/CDもIntuitが開発して公開したArgoCDに移行したことなどを説明。他にも多くの部分でオープンソースソフトウェアを最大限に活用していることを説明した。
Bloomberg
次に登壇したのはBloombergのSteven Bower氏だ。Cloud Native Compute Servicesという所属部署名からわかるように、Bloombergにおけるクラウドネイティブなシステムの開発に携わっているということだろう。Bower氏はKubernetesのバージョン1.3を2016年から採用していたことを説明。Kubernetesの1.3は初期バージョンの1.0がリリースされた1年後にリリースされたバージョンであり、まだ機能的にも足らない部分が多かったと思われるが、BloombergはKubernetesと一緒にシステムを更新し続けたということを意味している。
初期の使い方はKubernetesを機械学習エンジニアに向けたプラットフォームとして提供していたと説明。この選択は実行されるアプリケーションには高い信頼性を担保する必要がなかったことが背景にあると語り、失敗しても取返しが効くような領域でチャレンジをしていたというBloombergのアプローチが見えてくる。
2019年のサンディエゴで行われたKubeConで、KubeFlowなどのオープンソースプロジェクトから多くの発想を得たと語った。KubeFlowはその後KservingからKserveへと進化しながら、Bloombergの推論プラットフォームとして使われているという。またKubeConのセッションではなく、会場で出会ったエンジニアたちとの会話からアイデアを得たことが役に立ったと説明した。その後、推論のためのゲートウェイはEnvoyを使ったソフトウェアとしてTetrateと共同でEnvoy AI Gatewayとしてオープンソース化されたという。ここまでを説明して次のプレゼンターにマイクを譲った。
Airbnb
AirbnbのKocoloski氏はAirbnbが100%クラウドネイティブなシステムで構成されていると説明し、そのベースとなっているCNCFのプロジェクトを紹介した。最初はインフラストラクチャーとしてKubernetesとKarpenterだ。KarpenterはAWSが開発してオープンソース化したノードのライフサイクルマネージメントソフトウェアである。Karpenterによって約3000台のノードがオートスケール可能となり、CPUのコストを20%削減したうえでCPUの利用効率を95%まで上げることが可能になったと説明。
CI/CDについてはIntuitが開発したArgoCDを活用し、1100以上のアプリケーションが本番環境に実装されているという。そしてここでは簡単に紹介されているが、ViaductというGraphQLを使ったマルチテナント指向のフレームワークに注目したい。
公式ページにはデータオリエンテッドサービスメッシュと記述されていることから、GraphQLを使ったマイクロサービスを構成するためのフレームワークということだろう。マイクロサービスの実装にはさまざまな方法、ソフトウェアがあるが、2025年9月にオープンソースとして公開されたViaductもAirbnbが開発して本番環境で使っているということから注目すべきソフトウェアと言える。
また生成AIの利用についてはコードアシスタントの利用が着実に増えていると説明。特にCLIから利用できるツールがリリースされて以来、急増していると説明。
エージェンティックAIについてもKubernetesのクラスター障害を診断するアプリケーションがMCP経由で利用可能になっていると説明。Airbnbも大量のKubernetesクラスターの運用には苦労していたことが伺える。
Viaductについては以下の公式サイトを参照して欲しい。
●Viaduct公式ページ:https://viaduct.airbnb.tech/
ここまで一気に説明して最後の登壇者、ByteDanceのLiguang Xie氏と交代した。
ByteDance
ByteDanceのAIBrixは、初日のキーノートでChris Aniszczyk氏がllm-dとともに紹介したvLLMをベースにしてKubnernetes上で推論を実行するためのフレームワークである。ロンドンで行われたKubeCon Europe 2025の3日目のキーノートでも紹介されており、ここではクリエイターであるByteDanceが直々に解説を行うという形になった。
そしてByteDanceの概要を紹介した後、Doubaoという名前の大規模言語モデルやDeepSeekのモデルなどを参考にして開発が進められ、最終的にAIBrixという名称で公開されたことを紹介。中国国内で閉じることをせずにCNCFのカンファレンスで紹介することで認知を拡げたいということだろう。まだCNCFのサンドボックスプロジェクトではないようだが、近々そうなっても不思議ではないように感じた。
そしてAIBrixのコントリビュータが約100名に達したことを紹介した上でアーキテクチャーを解説。
OpenAI互換のAPIを受け取ったルーターがPrefillを担当する複数のPodにトラフィックを流し、その結果をKV Cache経由でDecodeを実行するPodに受け渡すという。中間結果のKVデータはPrisDB/PrisKVという分散KV Cacheクラスターによって分散保持されるという内容になっている。ここでは特にPrisDB/PrisKVについては説明はされず、ByteDanceがオープンソースを活用し、コミュニティに貢献していることを強調してプレゼンテーションを終えた。
このセッションは4社それぞれがCNCFのオープンソースを活用しているエンドユーザーメンバーとして参加しているものの、共通の内容を訴求したものではなく内容もステージも違うという状況での相乗りのセッションとなった。各社4分程度の時間を使って相乗りすることで自社のユースケースを紹介するという方法論としては有効であろう。日本のユーザーもこれに見倣って違う業界の事例を詳しい説明を省きながらエッセンスを紹介するということにチャレンジして欲しいと思う。そう感じさせたセッションだった。
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