これが進化する組織力だ!
アンバランスな三角形とバランスのとれた三角形
ビジネス顕微鏡で、実際の組織を計測するうちに、特別な三角形が重要であることがわかってきた。それは、X-A、X-Bの二辺の結合に比べて、残りの一辺A-Bの結合が極端に弱い「アンバランスな三角形」である(図3)。ここで、結合の強さとはフェーストゥフェースのコミュニケーションをどれだけとっているかである。
最近MITと日立は共同で、顧客要求に対し、ITの構成、値段、納期を決める営業業務の911件をビジネス顕微鏡で詳細に調べた結果、担当者の周りにアンバランスな三角形が多いと、生産性が劣化することを実証した。逆に、生産性の高さは、担当者の周りのバランスの良い三角形の形成と相関していた。
自分(X)の努力で、Aさん、あるいはBさんとコミュニケーションをとることはできる。制御できる。しかし、AさんとBさんが話すかは、自分には直接は制御できない。ここが三角関係の難しさの本質だ。しかし、これを促すことはできる。間接的には制御できるのである。
このアンバランスな三角形は、悪意はなくとも自然発生的に増殖する。これは、部下と上司のフォーマルな組織構造に従おうとすることが一因である。組織図の階層構造は、実は、アンバランスな三角形を積み上げたものである。部下は常に1人の上長を持ち、部下と上長との間に線が結ばれる。バランスのとれた三角形は1つもない。逆にいえば、現状の組織図の構造にこだわった組織には大きな改善の余地があるといいうことである。
アンバランスな三角形が現れるのには、さらに深い理由がある。アンバランスであるほど、Xは自分が媒介して、状況をコントロールしやすい立場にある。これは、悪い気分ではない。むしろ、望ましいとさえ思うかもしれない。しかし、そんな思いこみの裏で、Xがチームの業務や意思疎通のボトルネックとなっている場合が多い。しかも、悪いことにそれに本人は気づいていない。さらには、物語での斉藤さんをXとして考えると、上司である日高さんが以前そうであったように、斉藤さんに依頼を集中させてボトルネックをさらに悪化させるマネジャーが多い。
ビジネス顕微鏡が三角形を作る
この現代組織の普遍的な課題をセンサーの力で解決することができる。冒頭の物語にあるように、ビジネス顕微鏡は、組織のネットワークを赤外線のセンサーにより検出し、これから上記のアンバランスな三角形を考慮し、最適な組織のネットワーク構造を設計する。さらに、これから、最適なチーム構成を自動的に決定する。ビジネス顕微鏡の作る最適なチームは、どんなスーパーマネジャーの能力をもはるかに超える。このビジネス顕微鏡の生成するチーム編成で活動を行うちに、組織力は飛躍的に高まる。
そして「仕事を楽しむ」ことを考慮した組織価値の指標を定量的に常に示す。これを発展させる施策を奨励し、これを壊す動きを抑制する。
今週の最後に、個人的な体験を紹介することをお許しいただきたい。このアンバランスな三角形の理論を、わが家で家内に話すと
「それはとても大事な発見ね。いつも私があなたとお母さんとの間に立っているのは、まさにそれね。」(筆者は、家内の母(筆者の義母)と同居しています)
なるほど。筆者は、義母との直接対話を増やす必要があるようだ。組織ネットワークの構造やアンバランスな三角形に気づくことは、広大な成長の機会を人に与えてくれる。
[参考文献]
鈴木 敬、矢野 和男「センサーはウェブを超える : 省力化から知覚化へ(ユビキタス・センサーネットワークを支える理論,および一般)」『電子情報通信学会技術研究報告. USN, ユビキタス・センサーネットワーク Vol.107, No.53(20070517)』社団法人電子情報通信学会(発行年:2008)
P. Senge『最強組織の法則』徳間書店(発行年:1995)
G. Klein『Power of Intuition』Currency Book(発行年:2003)
S. Lyubomirsky、K. M. Sheldon「Pursuing Happiness: The Architecture of Sustainable Change」『Rev. Gen. Psychology, Vol. 9, No. 2』(発行年:2005)
矢野和男、栗山裕之「『人間×センサー』」センサー情報が変える人・組織・社会」『日立評論 2007年7月号』(発行年:2007)