成果が上がる人、上がらない人
成果を上げる能力は習得できる
これまでピーター・フェルディナンド・ドラッカーの経営理論全体、「マネジメント」の意味、知識社会と情報システム、そして「イノベーション」と、話を進めてきた。最終回は、ドラッカーのもう1つの大きなテーマである「人」にフォーカスをあてたい。ドラッカーの関心は、一言で言えば「組織社会において、人がいきいきと働き、成果を上げるためには何が必要か」という点につきる。今回はこの点を詳しくご紹介する。
サブプライム問題に端を発し、全世界が金融不安に揺れている。急激な円高が進み、日経平均株価は26年ぶりの安値を記録(平成20年10月現在)。筆者自身、IT業界で仕事をする中で、景気悪化を実感しているし、先行きが見えにくい不安は間違いなくある。
ただ、「第4回:『イノベーション』の実践」でも述べたとおり、このような時代にこそ、「イノベーション」を起こす必要がある。この激しい変化の時代に、財務的なテクニックだけに頼る、あるいは会社や政府のサポートを当てにするだけではいけない。ドラッカーが存命でこの場にいたら「創造性を発揮し、自ら『成果』を上げることにこれまで以上にこだわりなさい」と言うだろう。成果を上げる能力を磨き、実際に成果を創出すること以外に、変化の激しい時代を乗り切る方法はない。
ドラッカーがほかの経営学者と異なるのは、この「成果」に徹底してこだわっている点にある。あまたの成功した経営者やマネジャーがなぜここまでドラッカーを読むのか。それは、実際に「成果が上がる」考え方だからである。社会論、戦略論、組織論を語る一方で、ドラッカーは「人が成果を上げるための方法」まで説く。ドラッカーは、経営学者でありながら、学会で評価される地位や功績よりも、現場で役に立つ、実際にリーダーやマネジャーが成果を上げられる、実践的な知の提供に徹底してこだわった。そして「成果を上げるための方法がある」と主張する。
そもそも、「成果」とは何か。なかなか答えられないのではないか。ドラッカーがコンサルティングをした相手の経営者たちも、最初はこの「成果」を明確に定義できない人が多かったと言う。しかし、自身で成果をイメージし、定義できなければ、当然それを達成することも、組織を動かして成果に向かわせることもできない。成果を明確にとらえるために、ドラッカーは、「第2回:リーダーへの4つの問い」で紹介した「事業は何か、強みは何か、顧客は誰で何を価値ととらえるか」といった問いを投げかけ、徹底して考えさせてきた。
読者の皆さんもぜひ考えていただきたい。自身は、あるいは自分のチームや組織は、「成果」を上げているだろうか?成果とは単なる「結果」ではない。自身やチームが達成したことで、会社、ひいては社会にとって意義のあることでなければならない。
成果を上げるべき人-エグゼクティブの定義が変わった
「今日の組織では、自らの知識あるいは地位のゆえに、組織の活動や業績に実質的な貢献をなすべき知識労働者は、すべてエグゼクティブである」「今日あらゆる階層において、意思決定を行う者は、企業の社長や政府機関の長と同じ種類の仕事をしている。権限の範囲は限られており、組織図や電話帳に名前は載っていないかもしれない。しかし、彼らはエグゼクティブである。そして、トップであろうと、新人であろうと、エグゼクティブであるかぎり、成果を上げなければならない」(「経営者の条件」P.F ドラッカー著 ダイヤモンド社)
ドラッカーの言う「エグゼクティブ」とは、成果を上げることに責任を持つ人すべてをさす。ドラッカーの代表的な著作「経営者の条件」の原題は「Effective Executive」である。この「Effective」も、ドラッカーが頻繁に用いる言葉の1つで、「効果的な、生産的な、有意義な」といった意味で使われる。
つまり、「エグゼクティブ」とは、一般に考えられているような一部の上位役職者のための呼称ではなく、組織の中で果敢に意思決定し、「成果」を上げることにこだわり、責任を持つ人すべてに当てはまる呼称であるとドラッカーは言っている。
現代の変化の激しい「知識社会」においては、一部の人間だけがトップダウンで意思決定をするべきではなく、ほぼあらゆる役職、階層において効果的な意思決定をし、成果を上げていくことが求められるとドラッカーは言う(図1)。当然、読者の皆さんが携わっている「プロジェクト」における意思決定などは特に、「エグゼクティブ」としての能力が求められるものだ。
では、一体どうすれば成果を上げられるのだろうか。