これが進化する組織力だ!
組織が変わった
今回は、センサーが起こす変化についての具体論を紹介する。まず、「本当の組織力が生まれる」をテーマに物語の第2話をお届けする。これも、新製品開発の現場で起きた本当の話である(人物名、団体名などはすべて仮名)。
第2話:本当の組織力が生まれる
マネジャーの日高さんは、ベータカスタマーのA銀行と密着して、システムAB-1の新バージョンの開発を進めていた。仕様も固まり、開発も順調に進んでいた。
そんなある日、A銀行の担当者よりメールが届いた。ただならぬ雰囲気に急ぎ電話をすると、開発中システムの報告会にて「コミュニケーション支援機能を追加しないとAB-1は意味がない」という議論になったという。この新機能は、実は日高さんも重要かもしれないと感じていた機能であったが、いろいろの制約から開発の初期に検討から落としたものだった。
以前なら、こういう場合、日高さんは、自分の判断で新機能追加はできないと答えるか、あるいは、開発実務担当者斉藤さんに相談し検討していた。しかし、今は違う。半年前に「ビジネス顕微鏡」を導入してから大きく変わったことの1つが、チームが「変化に強くなった」ことだ。
その日は、定例の「ディスカバー会議」が予定されていた。そこで日高さんは、チーム全員にこの新機能要求のことを説明し、「この要求をわれわれの機会に変えられないか、いつものように全員で検討してほしい」と加えた。ディスカバー会議とは、チームに絶えず起きる変化をポジティブな機会に変える会議だった。変化を機会発見(=ディスカバー)に変える場である。
ここで、「ビジネス顕微鏡」が威力を発揮した。チームの全員がビジネス顕微鏡の名札型センサーノードを胸につけている。この名札は、赤外線のセンサーを使って、誰と誰がフェーストゥフェースで対話をしているかを記録する。これから「ビジネス顕微鏡」は、最近の組織ネットワークの構造を診断し(図1)、誰と誰が議論すると、より組織力が発揮できるかを解析する。
つまり、組織がクリエーティブになり、健全に成長するための、あるべきコミュニケーションを人と人のネットワークから求める。さらに、これを使って3~4人のサブチームの編成を自動で行い、今週の3つのチームの編成とそのとりまとめ役が既に表示されていた。
この毎週の最適チーム編成は、表現しがたいほどの威力を発揮した。今回の新機能要求についても、3日後のディスカバー会議で3つのチームから検討結果が発表された。結果を聞きながら、日高さんは気持ちが高揚するのを感じた。しかも、この感覚は初めてではなかった。
3チームからはそれぞれ、日高さんや斉藤さんが「1人ではどんなに頑張っても考え得ない」提案が出てくる。しかも、それが若手から報告されるのを見ると、組織がこの半年で変わったと思う。1年前に「若手からの積極的な提案がない」と日高さんが嘆いていた組織はもうそこにはなかった。
会議では、3チームの提案をさらにまとめて前向きなアクションを決めた。以前見えていた制約は、現在の開発現場で蓄積された経験をベースに考え直すと、これを超える見方ができた。その際、別の案件の担当者から出たアイデアが有効に働いた。それは、日高さんにも、斉藤さんにも、1人では発想し得ないアイデアだった。この機能の追加により新製品の価値は、飛躍的な高まった。まさに、変化を機会に変えることができた。
日高さんは、人が組織で働く本当の意味が、入社13年目にして初めてわかった気がした。それを裏付けるように、ディスプレーには、ビジネス顕微鏡が算出した組織価値指標が、過去最高の値を誇らしく示していた...。(第3話に続く)