これが進化する組織力だ!
組織力とセンサー
組織固有の記述は一般化してあるが、第2話の内容も実際に起きたことだ。最近、組織の力が発揮できていない会社が増えている。そして、それに気づく人が徐々に増えている。さらに、これはITでは解決できないのではないか、と感じる人も増えている。
われわれがコンサルティングしているほとんどすべての組織で、顧客の案件の受動的な対応はできているが、それを超えた価値の創造ができないという問題が出ている。人と人の横のつながりが弱っていることも共通である。こういう状況では、若手の育成がおろそかになり、職場には「やらされ感」が増す。成果主義の影響やメールの発達で、人と人とのフェーストゥフェースのコミュニケーションができない人たちが増えていることもある。
しかし、それは本質的な議論ではない。上記組織力の問題の本質は「人の心」と「人と人の関係」の問題であり、これがマネジメントにおいて無視されやすいことにある。
人の能力は、前向きにとり組む時と、そうでないときとは、比べものにならないほどの違いがでる。感覚的には、10倍以上の差は簡単についてしまう。「人と人との関係」についても同様である。うまくいっている関係では、1人で行う時の10倍以上のスピードで仕事は価値を生む。うまくいっていない関係では、逆に1/10以下の価値しか生まない。能力を最大に発揮しつつ、周りと相乗効果を生みつつ仕事に挑戦することをわれわれは「仕事を楽しむ」と呼ぶ(図2、これの詳しい説明は第4回に行う)。
しかし、こうしたことは目には見えず、定量的に計測できない。よってお金などの定量性の前に、こうしたことは判断における優先順位が一気に下がってしまう。これが、無意識に訴えかける「量(として測れるもの)の暴力的な力」である。変化があるたびに、それが繰り返され、変化のスピードが速まる中で、お金の力は増幅されてきた。結果的に、「人の心」や「人との関係」は無視されつづける。それが、上記の根本原因なのである。
この状況を一変させるのが、「X-顕微鏡」というセンサーだ。
われわれは、上記「仕事を楽しむ」ことが、企業価値の最も大きな核と考えている。仕事を楽しむことにより、業績面での結果もついてくる。それがさらに仕事を楽しむ機会を増やす。このポジティブサイクルをつくり出すためには、「仕事を楽しむ」を定量化し、これを育成する施策を絶えず進めることが重要である。これにより、お金の「量の暴力」によって、これらを無視しようとする圧力と初めて戦うことができる。量には量で戦う。それが「X-顕微鏡」の最大の威力である。
三角関係に隠された意味
人と人とのつながりは複雑であるが、基本的な単位を深く知ることで性質を解明できると考えている。これは、筆者が「組織フィジクス」と呼ぶ新しい分野の一環である。
「組織フィジクス」と呼ぶのは、「X-顕微鏡」のセンサーデータにより、社会科学、人文科学などで使われている「科学」という言葉を超えて、原理から組織を解明することを期待するからである。
既に、われわれは、30,000人日の世界最大の人間行動のデータベースを構築し、現在もデータは急速に拡大している。これを活用し、生産性、組織の壁、チームワーク、リーダーシップ、活気、そして「仕事を楽しむ」の原理を解明しようとしている。
このために、最小の組織ネットワーク単位である「三角関係」に着目している。自分をXとすると、知り合いにAさんとBさんがいる。ここで、A-X-Bという三角関係が生まれる。
組織において、最も小さい単位は2人であるが、2人から3人に増えると、質的な差がある。つまり、組織の重要な課題は、3人集まって初めて現れる。情報交換、共同作業、意思決定いずれも3人では、一気複雑になる。同時に、この複雑さゆえに、生み出すものの価値も可能性も一気に増す。このトリオの価値を活用しなければ、組織をつくった意味はないと考えてよかろう。
ではなぜ、トリオは組織図に現れないのか。組織図では、すべての社員を「上司-部下」というペアの構成員に分解する。決してトリオは現れない。トリオの複雑さもそこから現れる真の知恵も無視する。むしろ「トリオは組織に存在してはいけない」と暗にいっているように見える。しかし、ここに21世紀の組織力の飛躍の機会がある。