第2回:内部統制に対応するリスクアセスメント (3/4)

リスクマネジメント
トピックと手法から学ぶリスクマネジメント

第2回:内部統制に対応するリスクアセスメント
著者:プライド   三澤 正司   2006/8/8
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内部統制の有効性を示すアサーション

   それでは「財務報告の信頼性」に関するリスクを確認する。

   「財務報告の信頼性」に関するリスクは、アサーションを阻害する(財務諸表の虚偽記載につながる)リスクとして認識される。アサーションとは経営者の主張(弁明)と訳される。日本では監査要点と呼ばれ、内部統制の有効性を判定するチェックポイントと考えればいい。財務諸表項目のアサーションとは開示された財務諸表項目が正しいことを支える要素のことを指す。

   日本公認会計士協会監査基準委員会報告書第21号「十分かつ適切な監査証拠(2002.7.11)」において、監査証拠は次のものと記述されている。

実在性
資産および負債が実際に存在し、取引や会計事象が実際に発生していること。
網羅性
計上すべき資産、負債、取引や会計事象をすべて記録していること。
権利と義務の帰属
計上されている資産に対する権利および負債に関する義務が会社に帰属していること。
評価の妥当性
資産および負債を適切な価額で計上していること。
期間配分の適切性
取引や会計事象を適切な金額で記録し、収益および費用を適切な期間に配分していること。
表示の妥当性
取引や会計事象を適切に表示していること。

表7:十分かつ適切な監査証拠
出典:日本公認会計士協会監査基準委員会報告書

   ここまで説明したアサーションを阻害するリスクは、主として取引の開始/承認/記録/処理/報告で発生し、おおよそ次のようなパターンがある。

  1. 内容(数量・単価など)が正しく帳簿に計上されないかもしれない
  2. 内容が網羅的に帳簿に計上されないかもしれない
  3. 内容が適時に帳簿に計上されないかもしれない
  4. 実在していない取引が帳簿に計上されるかもしれない
  5. 棚卸資産が承認なく使用または処分されてしまうかもしれない

表8:アサーションを阻害するリスクのパターン

   日本版SOX法に関する評価は最終的に監査人に委ねられるが、有効な内部統制を構築するためにも、監査側のリスクを知っておくことは重要である。

   監査リスクとは監査人が財務諸表の重要な虚偽の表示を見過ごして、誤った意見を形成する可能性であり、固定リスク/統制リスク/発見リスクの3つの要素に分類される(表9)。

固有リスク
関連する内部統制が存在しないとの仮定の上で、財務諸表に重要な虚偽の表示がなされる可能性
統制リスク
財務諸表の虚偽表示が、企業の内部統制によって防止または適時に発見されない可能性
発見リスク
監査人が企業の内部統制によって防止または発見されなかった財務諸表の重要な虚偽表示が、実証手続きをしてもなお発見されない可能性

表9:3つの監査リスク

   最後にリスクの認識・評価に関する問題を確認する。経済産業省「企業行動の開示・評価に関する研究会・中間報告書(平成17年8月31日)」によれば、不正取引・損失事件・薬害エイズ事件・集団食中毒事件・放射能漏れ臨界事件などを例にあげて、その原因となった問題点として次の3点をあげている。

  1. 複雑な取引に対する理解の欠如
  2. 社会に与える影響の認識・考慮の不足
  3. 他事例の教訓に対する考慮の不足

表10:リスクの認識・評価に関する問題

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株式会社システムインテグレータ 代表取締役  梅田 弘之
著者プロフィール
株式会社プライド  三澤 正司
ITコーディネータ
プラント会社勤務時に、情報システム分野およびシステム開発方法論に興味を持ち、株式会社プライドに入社。主としてプロジェクト支援、標準化支援、教育に従事するが、ここ数年は、情報セキュリティ、管理業務に関わる支援の比重が大きくなってきている。


INDEX
第2回:内部統制に対応するリスクアセスメント
  はじめに
  内部統制におけるリスク
内部統制の有効性を示すアサーション
  リスクアセスメント手法の適用
トピックと手法から学ぶリスクマネジメント
第1回 リスクアセスメントの範囲の策定
第2回 内部統制に対応するリスクアセスメント
第3回 コンプライアンスに対するリスクアセスメント
第4回 個人情報保護法とISMSからみるリスクマネジメント
第5回 個人情報漏洩のリスク評価
第6回 プロジェクトマネジメントにおけるリスクアセスメント

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