第2回:内部統制に対応するリスクアセスメント (2/4)

リスクマネジメント
トピックと手法から学ぶリスクマネジメント

第2回:内部統制に対応するリスクアセスメント
著者:プライド   三澤 正司   2006/8/8
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内部統制におけるリスク

   それでは、内部統制におけるリスクを確認する。

   内部統制を構成する要素の1つである「リスクの評価と対応」は、「組織目標の達成に影響を与える事象について、組織目標の達成を阻害する要因をリスクとして識別、分析および評価し、当該リスクへの適切な対応を行う一連のプロセス」と定義されている。よって内部統制におけるリスクの識別は、内部統制の4つの目的にそったものとなる。
  1. 業務の有効性および効率性
  2. 財務報告の信頼性
  3. 事業活動に関わる法令などの遵守
  4. 資産の保全

表4:内部統制の4つの目的

   今回は日本版SOX法にかかる「財務報告の信頼性」に関して話を進めていく。なお「資産の保全」も「財務報告の信頼性」に含めて考えられるものとする。


日本版SOX法における考慮点

   既述の「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準のあり方について」では、内部統制にかかる監査が被監査企業などにおいて過度の負担にならないように留意した上で、表5の方策を講じることとしている。

  1. トップダウン型のリスク・アプローチの活用
  2. 内部統制の不備の区分
  3. ダイレクト・レポーティングの不採用
  4. 内部統制監査と財務諸表監査の一体的実施
  5. 内部統制監査報告書と財務諸表監査報告書の一体的作成
  6. 監査人と監査役・内部監査人との連携

表5:財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準のあり方

   6つの方策のうち、リスクに関連する方策である「トップダウン型のリスク・アプローチの活用」の内容は、「経営者は、内部統制の有効性の評価にあたって、まず連結ベースでの全社的な内部統制の評価を行いう。そしてその結果を踏まえて、財務報告にかかる重大な虚偽の表示につながるリスクに着目して、必要な範囲で業務プロセスに係る内部統制を評価する」ことである。つまり高いリスクを見極めるために、リスクを全体的に把握することの重要性を示唆している。


リスクに対する基本的な考え方

   内部統制では、財務報告にかかる重大な虚偽の表示につながるリスクに着目して「必要な範囲で業務プロセスにかかる内部統制」を評価する。経営者はその評価範囲におけるリスクに対してコントロール(統制)をして、重要な勘定科目のアサーションを担保できることを証明することが要求される。また評価範囲をどう決めたかということは重要であり、評価範囲外のリスクを受容するために論理的根拠も要求される。


内部統制の限界

   リスクを洗いだす前に、内部統制という仕組み自身の限界を把握する必要がある。内部統制の固有の限界として表6のものがあげられる。

判断ミス
経営上の意思決定を行うにあたって、人が判断ミスを犯すという現実がある。
故障
内部統制が十分なように設計されていたとしても、故障する可能性がある。指示を誤って理解したり、ケアレスミス、疲労などにより間違うことがある。
経営者・管理者による無視
経営者・管理者が不合理な目的で、所定の方針や手続を無視することであり、極端な場合が不正な財務報告のため従業員に会計操作を強要するような場合がある。
共謀
複数の人が共謀することによってコントロール手続が機能しないようにすることができる。悪事を実行し、発見されないように隠蔽するために共謀できる人たちは、しばしば、コントロールシステムによって識別できない方法で財務データや経営情報を改竄することができる。
コスト対ベネフィット
特定のコントロール手続を設定すべきかどうかの決定において、失敗のリスクと潜在的な効果とが、新しいコントロール手続の設定に係るコストとともに検討される。例えば、IT化により人的ミスを削減する場合なども同様の検討を行う。

表6:内部統制の固有の限界

   その他にもアウトソーシングをしている業務を考慮する必要がある。なぜなら、監査時には機能分割しているだけという見方をされ、全体として統制できているかが評価されるからである。

   米国にはSAS70(米国公認会計士協会 AICPAの定める監査基準である米国監査基準70号)という基準があり、これは独立した監査人がアウトソーシングサービスに関する内部統制を評価する場合の実施および報告基準を提供している。SAS70のメリットは、アウトソーシング会社が委託元に対して、外部監査人が作成したSAS70レポートを提供して、委託元の内部監査人が自己の監査においてその報告書を利用できることである。

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株式会社システムインテグレータ 代表取締役  梅田 弘之
著者プロフィール
株式会社プライド  三澤 正司
ITコーディネータ
プラント会社勤務時に、情報システム分野およびシステム開発方法論に興味を持ち、株式会社プライドに入社。主としてプロジェクト支援、標準化支援、教育に従事するが、ここ数年は、情報セキュリティ、管理業務に関わる支援の比重が大きくなってきている。


INDEX
第2回:内部統制に対応するリスクアセスメント
  はじめに
内部統制におけるリスク
  内部統制の有効性を示すアサーション
  リスクアセスメント手法の適用
トピックと手法から学ぶリスクマネジメント
第1回 リスクアセスメントの範囲の策定
第2回 内部統制に対応するリスクアセスメント
第3回 コンプライアンスに対するリスクアセスメント
第4回 個人情報保護法とISMSからみるリスクマネジメント
第5回 個人情報漏洩のリスク評価
第6回 プロジェクトマネジメントにおけるリスクアセスメント

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