第4回:ビジネス・アーキテクチャ(BA)と情報システム・アーキテクチャ(ISA) (3/3)

システム統合の要点
システム統合の要点となるビジネス−IT−組織のアラインメント

第4回:ビジネス・アーキテクチャ(BA)と情報システム・アーキテクチャ(ISA)
著者:東京工業大学   飯島 淳一   2006/10/17
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2つの事例の共通点

   J社の事業が行き詰まり、工場の売却にまで至ったのは、なぜだろう。J社のビジネスは、基本的には個別注文にもとづき、製品1台ごとのきめ細かな設計変更への対応が可能であることを競争優位としたビジネスであった。

   このビジネスに整合した製番管理方式に対応した情報システムを運用していたが、情報システムのソースコードがつぎはぎだらけになり、変更や拡張の遅れが問題視されるなどソフトウェア構造が悪くなってきたことから、情報システムの構造改革を行おうとしたものであった。

   ところがその構造変革とは、個別注文に対応した製番管理方式から市場対応のMRPパッケージに変更しようというものであった。このような情報システムの変革は、製品1台ごとのきめ細かな設計変更への対応を可能とした顧客満足に関する強みを失うことになり、短納期生産の能力に関してF社より劣ることになったため業績が悪化したのであった。

   この事実は、J社の従来のビジネス・アーキテクチャと導入しようとした情報システムのアーキテクチャとの不整合が原因で顧客満足に関する強みを失い、結果として失敗に至ったものであると捉えることができる。

   一方、フォックスメイヤーの場合には、主要な顧客であるファーモアが倒産したことにより、失われた収益を確保するために販売方法がまったく異なるUHCと契約したことにより、R/3実装までの期間を短縮せざるをえなくなり、そのためプロセスのリエンジニアリングを行う時間がなく、結果として自動倉庫システムとのインターフェースの構築に失敗してしまったのである。

   これら2つの事例は、いずれもビジネス・アーキテクチャと情報システム・アーキテクチャの不整合が情報システム導入の成否を分けたという点で共通点しており、これら2つのアーキテクチャの整合性が、大きな失敗を誘導するものであることを示している。

BAに整合したISAの構築へのフェーズアプローチ

   ではどのようにして、ビジネス・アーキテクチャに整合した情報システム・アーキテクチャにもとづいて情報システムを構築すればよいだろうか。われわれは、その1つの方法として、現実の姿を写し取る概念データモデルを基礎とするものを考えている。

   これは、ビジネス上の関心の対象を的確に捉えるデータ構造を設定できる。「データ・アーキテクチャ」の確立、ついで、情報処理内容すなわち「アプリケーション・アーキテクチャ」の設計という順番になる。これらが決まった後で情報技術導入のために「テクノロジー・アーキテクチャ」を設定することにより、無駄な情報技術投資を防ぐことができ、情報システム構造も簡素化されるのである。

   次回は、BAに整合したISAの構築について述べる。

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東京工業大学  飯島 淳一氏
著者プロフィール
東京工業大学  社会理工学研究科  教授   飯島 淳一
1982年東京工業大学・大学院博士課程修了。1996年より現職。2006年4月より経営情報学会会長。主な研究分野は,情報システム学と数理的システム理論。主な著作は『成功に導くシステム統合の論点(共著,2005)』『入門 情報システム学(2005)』ほか。


INDEX
第4回:ビジネス・アーキテクチャ(BA)と情報システム・アーキテクチャ(ISA)
  2つのアーキテクチャの整合性
  ダウコーニングとフォックスメイヤーに見るERP導入プロジェクトの成否
2つの事例の共通点
システム統合の要点となるビジネスとITと組織のアラインメント
第1回 システム統合とは何か
第2回 システム統合における障害発生の分析 〜 みずほFGのシステム統合事例
第3回 アーキテクチャとフレームワークの定義
第4回 ビジネス・アーキテクチャ(BA)と情報システム・アーキテクチャ(ISA)
第5回 BAに整合したISAの構築

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